【室町編】⑨~エンカウンター・アタック 細川勝元の場合~
「富子様、いい加減起きてくださいよ!」
だれよ、私の幸せを奪うやつは?
私の人生の幸せを奪おうとしたのは黒髪を三つ編みにした眼鏡っ娘であった。
・・・あれ、誰?この顔どっかで見かけたことがあるんだけれど・・・
「ああ、春ちゃんか、おはよう」
「おはようではありませんよ!今、何時だと思っているんですか?そんなことだからいつまでたっても!」
私が山名家から攫ってきた春ちゃん、春姫はその銀髪を黒く染め南蛮渡来の眼鏡をつけていて、以前の姿とは別人である。
眼鏡には何か仕掛けがあるらしく春姫の両方の瞳の色を黒く見せている。
「えーん、ねえ聞いてよ。私が折角誘拐してきた色白銀髪ヘテロクロミア美少女がいなくなったのよ。」
「知りません、そんな人。」
「おしとやかで人見知りで無口なお姫様がいなくなったのよ。」
「私は、本来はこういう性格なんです!変な思い込みは捨ててください!」
・・それはちょっと違うかなと思うけど・・・
春ちゃんも頑張って変わろうとしているんだ・・
以前よりずっと明るくなった春ちゃんをみて、私は思わずにやけてしまう。
「春ちゃん、そういえば、昨日、山名政豊様がお見えになったそうね」
「お兄い、いや政豊様にお会いいたしました。富子様には感謝している。お会いできずに残念だと申しておりました。」
「そっか」
「富子様」
「いたの?竹林」
「本日のご予定ですが」
「わかっているわ。細川勝元様のお屋敷への訪問でしょ」
「そういえば菫ちゃんの姿が見えないんだけれど」
「菫は何か調べることがあると言って、昨晩から出かけておりますよ。」
「そうなの、まあ細川勝元様のお宅はすぐ近くだし、良子と行くことにするわ」
・・・細川勝元か・・・
元は言えば、破滅回避のために細川勝元と春姫こと春林寺殿との婚姻を成立するために、攫われた春姫の救出に向かったんだっけ?
結局、私が再び春姫を攫って行方不明にしたのだから、このままでは細川勝元と春林寺殿は婚姻はないでしょうね。
でも、まあ、いいわ、もうそんな事。なんとかなるでしょ。
しかし先日の春姫をめぐる事件は後味が悪い。
死人を使い魔にするなんて、そんな術式、安倍晴明くらいじゃないと使えないんじゃない。
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細川勝元邸についた私は良子と一緒に茶室に招かれ、細川勝元様自らのお点前を頂く。
「勝元様の点てるお茶は本当に優しい味がしますね」
私は世辞ではなく素直に感想を述べる。
「あ、はい、どうも」
それから勝元様となにか世間話をしようとするが・・・
うーん、話題がない・・・
とりあえず、ここはなんか適当に褒めておくか?
「細川様の最近のご隆盛は、さながら藤原道長様を彷彿とさせますね」
「藤原道長?」
にわかに勝元様の表情が曇った。
「はい、藤原道長様」
「道長という男は実際つまらない男です。小心もので下劣な男ですよ」
「勝元様?」
「一条が病に臥せった時のあの男の狼狽ぶりはなかったな。俺がなんとかしてやったのにあいつときたら」
「細川様?大丈夫ですか?」
「つまらない主計寮なんかに異動させやがって」
そしてその時に私はふとある考えが脳裏によぎった。
本当にふと思っただけのことなのだが。
それを思わず口にしてしまった。
「あなたは、もしや、安倍晴明様なのですか?」
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重苦しい沈黙が続く、そして私の前の男は、口を開いた。
「さようです、察しの通り、私が従四位下播磨守晴明です。」




