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【室町編】⑧★~美少女を攫ってきました~

私は姉の良子と菫ちゃんとともに山名宗全様の屋敷に向かっていた。

宗全様が開かれる連歌の会にお呼ばれされたからである。

「連歌なんかどうでもいいけど、ご馳走が楽しみね。」

「姫様、もう少しで着きます」


しかし私たちは、宗全様の屋敷の門の前で足止めされてしまった。

中は危険なので立ち入れ禁止とのことである。

そとから見るに山名宗全の屋敷内は騒然とした。

沢山の怪我人などもいるようだ。

あちこちからうめき声が聞こえてくる。


「もしかして謀反でも起きたの?」

「私が様子を伺って参ります。」

そういって菫は屋敷の中に入っていった。

しばらくして菫は戻ってきた。

「山名政豊様の妹、春姫様が人攫いにあったとのことです。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

史実ではこの春姫こそ細川勝元の正室となる後の春林寺殿。

山名政豊の妹ではなく山名熙貴の娘である。

嘉吉の乱で将軍足利義教とともに父山名熙貴が殺害された後は山名宗全の養女となる。

ご存知の通り応仁の乱においては、富子は実子の義尚を将軍につけたいと考え、義尚の後見を山名宗全に頼むなど東軍に属しながらも西軍にも加担し両軍に米や金を貸し付けて莫大な財産を築いた。

当初は、細川勝元が義視を支持し山名宗全は義尚を支持していたが応仁2年には立場が逆となり勝元が義尚を支持し、宗全が義視を支持するようになった。

もともと義尚を将軍につけるために宗全に加担していた富子は梯子を外された形になった。

そして、春林寺殿は養父が山名宗全でありながら夫が細川勝元という立場を利用し、この富子外しに暗躍したと言われている。

富子にとっての天敵なのである。


・・さてゲームのほうはどうだたっけ?・・

やはり春林寺殿は、大きなイベントの分岐を左右する。

プレイヤーキャラが、細川勝元、山名宗全の場合、春林寺殿を嫁にとるか、嫁に出すかという選択があり、春林寺殿が細川勝元の嫁になれば、ほぼ史実通りの進行となるが、ならない場合は、義視は西軍に下らず義尚が毒殺され、富子は失意のうちに狂人となり義視の妻で富子の妹である良子を刺し殺し自殺してしまう。


・・これはまずい!春姫こと春林寺殿がこのまま見つからなかったらどうなるの私?・・


「菫!春姫様を助けにいくわよ!」

「富子、なんであんたが行くのよ?」

「良子姉ぇは黙って。春姫様をお助けしないと私の破滅が!」

「またその話か」

「姫様、まずはわたくしのお話をお聞きください。

奇妙な話なのです。本日の連歌にお集まりなさったのは、細川勝元様、山名持豊様、京極高数様、赤松教康様であり、それそれ20~30騎の手勢を連れておりました。

そしてそれぞれの手勢のうちの何人かが突如徒党を組み、春姫様を攫っていったというのです。彼らの間に何か事前の示し合わせですとか、謀議があった事はなかったそうです。

突然、何かにとりつかれたように事を起こしたという。」

「菫、何かって何?物の怪の類?」

「わかりません。しかし攫われた春姫についても以前より奇妙な噂がございました。

春姫様の姿は異形であり、鬼が産ませた姫であると。山名宗全様の実の子供でもないという噂もございました。」

「そうなの、でもその真偽については今はどうでもいいわ。いまはとにかく春姫様を探し出すことを優先しましょう」

「さようですね。彼らは、西に向かったということです。

確かここから西に二里ほどいったところに廃寺があったと思います。

まずはそのあたりに向かってみるのではいかがでしょうか?

その前に少しお時間を頂きたく。装備を整えて参ります。」

そういって菫は屋敷の中に入っていた。

四半時たって全身に武器を纏った菫が戻ってきた。

大きく長い太刀は4本差し。背中には9尺近くある大弓。いくつもの箙に入れた矢数の総数は200本はあるであろうか?

その他に脇刺だの鎖鎌だの。左手には手甲鉤をつけている。

「富子様、良子様も一応、これをお持ち下さい。」

そういって、私と良子に薙刀を渡す。

「何が一応よ!私は富子と違ってそこそこの戦闘力があるのよ」

良子は不服そうだった。

「では向かいましょう」

私たちは、混乱している山名宗全の屋敷を背に西に向かって馬を走らせた。


挿絵(By みてみん)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「当て推量ではありましたが、やはりここでしたか」

菫の勘はあたっていた。

寺の本堂の前には、30人ばかりの武士が周辺を警戒している。

そして武士たちの旗指物は見たことのないものであった。

赤い梵字のようなものが書かれた不気味なものだ。

「菫、あれ読める?」

「梵字ですが、文字が左右反転しています。あまり使われていない文字もあります。多分何かの術式のためでしょう」

そして寺の庭の真ん中には注連縄が巻かれた大きな杉の木があった。多分これが神木だろう。

「おられました」

菫が指をさす方向を見ると、一人の少女が神木にしばりつけられていた。


挿絵(By みてみん)


えっうそ!


私は、自分の目を疑った。

そこにいたのは陶器のように透けた白い肌に輝くような銀髪の美少女である。

そして大きな瞳の色は、ルビーのような赤?いや金色?

私は、声を上げてしまった。


「うわ、まじか、ありえない!色白銀髪ヘテロクロミア美少女とか!萌え要素しかねえ」

「姫様、お静かに」


・・・春ちゃん、かわいいなあ、持って帰りたい、持って帰って家に飾りたい・・・

私は、春ちゃんとのイチャイチャを脳内妄想してニヤニヤしていた。


「姫様、まずは庭の兵士を始末します。」

菫の声が、私を現実に引き戻す。

菫はおもむろに3本の矢をまとめてつがえる。

・・うわ、出た菫ちゃん得意の毛利打ち!・・

菫ちゃんは、一度に3本の矢を放つことができる。

菫ちゃんに初めてその技を見せてもらった時、私は思わず「元就かよ」とつっこんだが当然伝わらなかった。

ズッ、シュー

菫ちゃんの手元を離れた3本の矢は、3人の武士のあたまをそれぞれ吹き飛ばす。

「お見事!」

再び3本の矢をまとめてつがえる菫。

「菫ちゃん!すごいけど、あの武士たちを皆殺してしまうの?彼らは何かに操られているかもしれないのよ!」

「姫様、その心配はございません」

ズッ、シュー

そういって菫が2射目(正確には4~6射目)を放つ。

3人まとめて武士たちの頭が吹っ飛んだ。

「ねえ、菫ちゃん聞いているの?殺すのやめてよ」

「姫様、殺しておりませんよ。何故ならあのものたちは」

「えっ」

「もう最初から死んでおります。」

ズッ、

ぎゃあああ、頭を吹き飛ばされた武士が地面に転がる。

「かつて死体を操り使い魔にする術式を得た陰陽師がいたと言います。しかしその陰陽師が亡くなった後は、その術は失われたと聞いておりましたが」

ズッ、

うがぎゃああ、武士たちの悲鳴が上がる。

「12。4年前に大和の山奥で奇妙な事件がございました。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

私の名前は、春。

山名宗全様の娘で山名政豊様の妹。

と言われておりますが、子供の頃の記憶はございません。

おぼろげながら記憶している最初のものは約4年前。

そこで何が起きたのかは正確に覚えておりません。

ただ何十人もいた村の人たちが死人のような姿で私に襲い掛かってきたこと。

それがとっても怖かったこと。

そして突然大きな光の渦の中に巻き込まれたこと。

それがとても眩しかったこと。

その後に山の中で独りで寂しかったこと。

お父様もお兄様もそれは夢だと笑います。

4年前に私が高熱を出して過去の記憶を喪失したと言っています。


見ての通り私の姿は恐ろしいです。

私の姿は異形です。

巷では、私は鬼が産んだ子供と言われているようです。

この醜い容姿のせいです。

だから私はきっと本当に鬼が産んだ子供だと思います。

私のことでお兄様が回りの人からひどく言われていることも知っています。

周りに不幸しかもたらさない世の中には不要な存在です。

私は生きている意味がありません。

だからここで死ぬのは本望です。

私なんか最初からいなければよかったんです。


だから・・


なんで・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「庭の兵士はあらかた始末いたしましたが、」

見るとまだ3人の武士が少女の横におり、細い首に刃をあてがっていた。

「いかがいたしましょうか」

挿絵(By みてみん)


私は片手で菫を制して少女に近づいていく。


「春姫様ですね!富子と申します」


挿絵(By みてみん)


「来ないで!」


「はあ?」


「なんで私なんかを助けに来たのですか」


「そう言われましても」


「もう私のことはほっといて!」


「春姫様にはお兄様がおりますね」


「黙って、お兄様は関係ない!」


「お兄様はお嫌いですか?」


「うるさい!」


「お兄様は春姫様にお優しくされていないのですか?」


「だから、お兄様は関係ない、私が死ねばいいんだよ」


「春姫様が死ねばお兄様が喜ぶと?」


「もう黙れ!富子」


「死んだらもうお兄様にお会いできませんよ」


「もうやめて!やめてください!」


「春姫様に本当に死にたいのですか?」


「うるさい、うるさい、うるさい」


「死んでお兄様にもう会えなくなってもよいのですか?」


「ち、違う、違う、違う、いやああああああ、」


「富子様、そろそろ春姫様のお命があぶないかと」


「春姫様は、本当に死にたいのですか?」


「いやああ、し、し、死にたくない!お兄様に会えなくなるなんて、いやああ」


「春姫様は何がなさりたいのですか?」


「私は・・・」


「春姫様はどうしたいのですか?」


「わ、わかるでしょ、そんなこと!」


「富子は馬鹿なのでわかりません、春姫様のご自身でおっしゃてください」


「私は、、、私は生きたい、生きたい、!だから富子!助けてください。私を助けてください」


「菫っ!」


「了解いたしました。」


バシッ!バシッ!バシッ!

菫の強弓が春姫様の周りの武士たちの頭を吹き飛ばす。

私は春姫様の近くに駆け寄り縛めを切り落としてやる。


「ありがとうございます・・・」

「春姫様は、私に助けてとおっしゃりましたね。でも人は自分で助かるものなのですよ。」

・・うっわ、私、柄にもないこと言ってる。いまの富子的にポイント高いっ!・・

「確かに春姫様ならこの状況ならご自身のお力で・・」

「菫、何よ」

「それは後ほど」


私たちは、春姫様を連れて山名の屋敷に戻り、事の次第を宗全様と政豊様に説明する。

そこで宗全様から春姫様の出自を聞かされた。

やはり春姫は、宗全が4年前にある山村で拾ってきた子供だという。

菫が重い口を開いた。

「かつて失われたはずの死者を操る術を復活させた者がいたという噂を聞いたことがあります。

その者は、自らの術式の実験のためにある山村に行き村人を毒殺した上、蘇生術を施したというのです。

宗全様、春姫様に何か特別な力はございませんか?」

「菫殿。察しがよいな。さよう春姫には不思議な力がある。実はあの子は右手には傷や病気を癒す力があるのだ。

また以前、春姫が薬師が間違って調合した猛毒を飲んでしまったことがあるが、全く何もなかったのだ」

「その特別な体質ゆえに毒がきまず、あまつさえ蘇生術を受けた死人を浄化させたということでございましょう」

政豊が口を開いた。

「今回の事件も似たような感じがいたします。当家に訪問していた各将の手勢が突然苦しみだし、地に伏した。

その後、死んだような形相で襲い掛かってきたのです。」

「政豊様、これから春姫様をどうなされるおつもりですか」

「妹のことで俺も色々と言われていることもあるが、いままで通りに私が妹を守り」

「でも、山名政豊様のお力では、春姫様を守って差し上げることはできませんよ。

少なくとも春姫様を邪魔に思う者がいて、害しようとするでしょう。」

「それはそうであるが。。」

「ここに再び春姫様を攫って行方不明にしてやろうと思っている不逞の輩がおります。」

「わかった、そしてありがとう富子殿。春のことをどうにか頼む。」

「姫様、私は反対です。春姫様を庇護することで姫様の身の危険が上がると考えるからです。」

「菫ちゃん、ごめん、本当にごめんね。だってそれで一番苦労するのは菫ちゃんだもんね」

「いや、そういう意味では。」

「でも、これで聖属性の能力者ゲットじゃない。それに私あの子見てると、過去の私の妹を思い出すのよ。」

・・・あいつもは、見た目は明るいのに、常に自分だけの幸せはいらないとか言ってたな・・

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