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【破壊神復活編】⑳ オカエリナサイ 

「菫?!桜!!」


思わず目を疑った良子。

1本の剣を一緒に握りしめて空から舞い降りてくる2人の少女。

軽やかな風がその髪をたなびかせる。

良子には、それがまるで映画のスローモーションシーンを観ているように感じた。

そして剣の先が向けられているのは・・・


「初美ちゃん???」


少女が立っていたのだ。

両手を大きく広げて、空を仰ぎ、

それは、まるで自分の胸に飛び込んでくる天使たちを迎える聖母のように

優しく慈愛に満ちた表情で

2人の少女に向けてほほ笑んでいるのである


・・・ お か え り な さ い ・・・


そんな声が聞こえたような気がした。



ドスッ



剣は竹林初美の胸を貫く。

胸に剣を刺したまま、膝を落とし首を垂れる初美。

一度止まった時間の流れが堰を切ったように流れだす


あ、これは!


かつて見た惨劇・・・


忘れられない将軍霊廟での光景・・・


あの時と寸分違わない光景であるのに・・・


なんの恐怖も悲しさも感じられないのは何故だろう?


ただ温かさと優しさと崇高な美しさだけを感じるのは何故だろう?


そして本来であれば真っ赤な血が噴き出すはずの少女の胸からは、眩しいばかりの光が溢れ出ている。


見る人全ての心温かくするような光が


溢れ出す光は、ぼんやりと中心核を形づくり、一つの球体へとまとまっていく。


「いやああああああ!!!!!」静寂を切り裂く女性の悲痛な叫び事。


目を開けて椅子から立ち上がっている富子。


心の底から引き絞られるような悲痛の叫びの源が富子の心によるものなのか、富子の身体の借りた闇の力によるものなのか?


それが、どちらかは分からない。その両方が入り混じったものであるかもしれない。


そして富子の身体から滔々と溢れ出すものは、初美のそれとは全く逆である。


漆黒の霧。


怒りや悲しみ、敵意といった負の感情の塊。


それは、まるで腹を空かしてまるでわれ先にと餌に群がる魚のように、または光に吸い寄せられていく羽虫のように白く輝く光の球に吸い込まれていく。


混じり合う光と闇


蠢き、渦巻くマーブル模様


いつの間にか富子は床に伏している。

まるで死んだかのように床に伏せて動かない


グラッ

突然、儀式の間が左右上下に大きく揺れる。

魔力の供給を断たれた将軍霊廟は徐々に高度を下げていく。

将軍霊廟を中心とした半球上の黒い闇、絶対幸福領域もまるで霧が晴れるように消滅していく。


「やめろ!やめろ!やめろおおおお!!!!!

「戻ってしまう!戻ってしまう!混沌に戻ってしまうではないか!」

そう叫びながら、まさに渾然一体とならんとしてる闇と光の塊に手を伸ばす安倍晴明。


「見苦しい!」

そういって玲子は素早く初美の身体を貫いた剣を引き抜き、上段に構える。


「でやあああああああああ!」


今までに出したこともない玲子の叫声。


ザクッ


そしてその球体にめがけて剣を振りおろす。

奇麗に真っ二つに割れた球体


2つに割れた半球の片方は黒い闇を放出し、同時に相手からは白い光を奪っていく。

もう片方はまさにその逆だ。

そうやって、互いが、それぞれの持っていた本来の色を取り戻していく。

まるでそれは、料理用ボールの中でチョコレートと生クリームを攪拌する映像を逆回転で見ているように、マーブル模様は奇麗に黒と白に分離していく。


「章、そろそろだね」と玲子は黒猫に目配せした。

「ああ」相槌を打つ黒猫。


2人は大きく口を開く。そしてそれぞれが、


「パクリ」とその半球に食らいつき、


「ゴクリ」と一気にそれを飲み込んでしまった。


「うわ、甘い!あ、苦っ」

口を拭いながら、まるで甘い砂糖入り牛乳の中に溶けそこなったインスタントコーヒーの粒を舐めてしまったような玲子の表情。


「げ、苦い、ちっ、くそ甘っ」

黒猫のほうは、ほろ苦いブラックコーヒーの中で溶けそこなった角砂糖を舐めてしまった体である。。


「こんな馬鹿なことがあるか!こんな馬鹿なことがあるか!」頭を掻きむしり呆然とする安倍晴明。

「これで、終わりなのか?終わりなのか?」同じ言葉を繰り返す。




「では終わりにいたしましょう」

そういって晴明に向けた拳銃の引鉄を引いた菫。


パンッ!


弾丸は、確実に心臓を打ち抜いた。

床にうつ伏せに倒れ、ゆっくり目と閉じる晴明。

そしてその口からウニョウニョと黒い蛇のようなものが這い出てくる。

それは太陽に干からびたミミズのようにもはや弱弱しく蠢いている。

黒猫がそれに片手で押さえつけた。

「言い残すことはないかニャ」と黒猫

「最後に教えて欲しい」今にも消えそうな安倍晴明の声

「なんじゃニャ」

「俺は何を間違えていた?俺の術式の何が間違っていたんだ・・」

「そんなことか」

「頼む」

「では答えてやるニャ、お前の術式には何も間違いもなかった」

「なんだと?」

「お前の術式は完璧だったニャ」

「本当なのか?では何故あんなことを」

「やはり馬鹿じゃニャ、あんなの単なる時間稼ぎニャ」

「馬鹿な!」

「そう馬鹿な話よ。お前の間違いはニャ、あんな安っぽい挑発にのったという事だけだよ。俺にも、あの低脳な勝元にも」

「ハハハ、そうか、そうか、ハハハ」満足げに笑う晴明。もう思い残すこともなさそうである。

「じゃあ、お前には消えてもらうニャ」

「ちょっと章、口上はどうしたのよ?」玲子が口を挟んできた。

「口上?」

「こういう時の決まり台詞があるでしょ」

「ああ、そうだニャ、では闇から生まれし古を彷徨うの魂の果てよ・・・」黒猫は鎮魂の賦を唱えだす。

「違う!そんなんじゃなくてさー、あれよ、あれ、かませ犬的な悪役少年キャラのやるやつよ」

「ああ、そっちか、ううん。」ようやく玲子の意図を理解した黒猫。喉のチューニングをする。

「ねぇねぇ、お姉ちゃん?、こいつ食べちゃっていい?」少し高めで冷たさを含む少年の声。

「いいわよ、残さず奇麗に食べちゃいなさい」満足げな玲子

「じゃあ、頂きますニャ。」


ちゅるっ


黒猫は、その蛇を一飲みに飲み込んだ。


そして囁いた。


・・・オカエリナサイ オレ・・・


しかしその呟きはあまりに小さく誰の耳にも届かなかった。

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