【破壊神復活編】⑱ それはお姉ちゃんがお姉ちゃんだから
きたるべき最終決戦を前に、良子たちは六分寺宗全、細川勝元、楠間茂らに対して真実を明かすことにした。
基本、麻衣が説明し、必要に応じて玲子から補足して貰うことにする。
竹林龍三の身体が安倍晴明に乗っ取られていること、そして富子を鍵として闇の力を引き出し、今の状況を引き起こしていること。
六分寺は5家の一員であるし、細川も古くから5家との因縁浅からぬ関係であったため、その事実を素直に受け入れたようだった。
また、この国の歴史、故事などに造詣の深い楠間茂にとってもそれは違和感はなかったようだ。
「なるほどなあ、竹林龍三も気の毒なやつじゃのう」日本きっての竹林龍三嫌いである宗全のその言葉には一抹の寂しさがあった。
「ところで玲子さんとやら、儂も六分寺の血を引くものじゃが、やはりABZの影響は逃れられぬか?」
「ご隠居。残念ながら5家に関して言えばそうだな。女性限定だ。」
「誰がご隠居じゃ!しかし残念じゃな、龍三を直接ぶん殴りたかったのじゃが」宗全は少し残念そうだ。
「5家に関してはねえ・・」勝元は誰となく呟いた。
「そう言えば勝元。あんたの弟ちゃんはどこ行ったの?」勝元の弟である細川成賢の姿が見えないことに疑問をもった麻衣は尋ねる。
「成賢は、ちょっとお使いに行かせたよ。」
「まあ今後の細川家のためには、それがいいわね。でも弟ちゃん後から怒りそう。」と麻衣
「別に俺が怒られるわけでないしな。まあ弟のことよろしく」
「それもそうね。わかったわ。あ、そろそろ時間ね。」結構重い内容なのに、すげなく答える麻衣。
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「兄さん、決戦を前にして、僕にこんなことを押し付けるなんて!」
AHー6リトルバードの操縦桿を握る細川成賢は憤懣やるかたない。
細川成賢。青い髪に黒い瞳の美少年。
御多分に漏れず、お兄ちゃん大好きっ子である。そしてかなり抜けている。
「最終決戦兵器の受領とか。そんなの他の人でもいいだろ、ああここか。こんなとこにそんなもんがあるのか?」
成賢は愛機を着陸させ、機外に出た。
そして待ち合わせた人に会い「それ」を見て感歎した。
「ああ・・確かに・・・これは確かに最終決戦兵器だわ・・」
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「射撃開始!」楠間茂は砲撃開始を命じた。
ドーン!ドーン!
第一特科隊の所有する各種火砲が火を噴く。
敵陣に砲弾が次々と着弾し地面を吹き飛ばす。
しかし砲撃の精度はそれほど高くないようだ。
自動迎撃システムが制御する各種砲座、ミサイル発射装置などへの被害は大きくない。
そして竹林の誇る自動迎撃システムは、砲弾の弾道から瞬時にその発射場所を特定し、反撃を行うことができる。
だから初弾を発射した火砲は、大概その後に手痛い反撃を受けるのである。
しかし・・
反政府軍の砲声は止むことがなかった。
何故なら彼らは「常に移動しながら砲撃」をしていたからだ。
竹林寺の南に流れる高野川。
さらにその南を走る叡山本線。
さよう。
第一特科隊は、高野川に艀を並べ、その上に火砲を設置し、それを軍用ボードで曳航することで常に場所を移動しつつ砲撃をしていたのである。
さらには、叡山本線の上に貨物列車を走らせ、その上にも火砲を設置し、移動しながらの攻撃をしている。
この方法では確かに射撃精度は落ちるが逆撃を被る確率も落ちる。
もとより飽和攻撃の一環である。射撃精度は二の次だ。
しかし反政府軍も全く無傷とは言えななかった。
自動迎撃システムの攻撃を回避しきれずに、直撃を受け吹き飛ぶ兵士たち。
「突撃!」
第一特科隊の砲撃開始に呼応して「毘沙門天衆」六分寺機甲猟兵師団の攻撃も開始される。
こちらも地形を利用した戦闘を行う。
竹林寺は、元々は小高い丘だった場所を切り土、盛り土を行い、その上に各種施設が建てられている。
坂も多く複雑な地形だ。道路脇はきつい斜面となっている箇所も多い。
「毘沙門天衆」はその斜面を使って戦闘車両を左右に傾かせた。そして砲塔を90度旋回させる。車体が斜めになっているので、当然仰角も大きくとれる。
要は、通常の戦車戦闘での直射ではなく地形を利用した曲射砲撃を行ったのだ。
当然、その体勢で前後にこまめに移動し、敵の弾道計算からの逆撃を避ける。
この攻撃で竹林のドローン重戦車は上面装甲を打ち抜かれて次々を破壊されていった。
「ガハハハ、これぞ毘沙門天衆の秘儀、蟹走り戦法なり!いくぞおおお」六分寺宗全は試作8号弩級戦車を前進させる。
「よし、じじいに後れをとるな!」
8号弩級戦車を中心とした戦闘車両の突撃を見やり、細川勝元は自軍に突撃を命じる。
黒い天狗たち、武装ヘリ集団は、空対地ミサイルを斉射して一気に敵の防空圏に突入する。
敵味方のミサイル、ロケット弾が入り乱れる。
爆破炎上する敵の防空設備。
被弾して真っ赤な炎をたなびかせながら墜落していく武装ヘリ。
戦場は一気の混戦の様相を呈していく。
細川勝元が搭乗するCHー53Kキングスタリオンは、やや後方で待機し、地上軍の攻撃によるBFTの揺さぶりに成功したところで、ビル本体と将軍霊廟の間にLOSATをぶち込む算段でいる。
良子たちの乗るヘリはさらにその後方で待機している。
そしてついに試作8号弩級戦車は、僚友の多大な犠牲のもとに所定の射撃位置に入ることに成功した。
そのスコープに捉えられたスーパーフレキシブルピラ。
ここに300ミリ劣化ウラン弾をぶち込めば作戦の第1段階は成功だ。
データリンクからの情報をもとに固唾をのむ麻衣たち司令部。
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しかし試作8号弩級戦車は動かない。
その巨砲は火を噴くことなく沈黙を続けている。
えっ???
突如、司令部と試作8号弩級戦車との間のデータリンクが切断される。
「グランファーザー!グランファーザーどうしました?」麻衣は、狼狽し、試作8号弩級戦車のコードネームを無線で叫ぶ。
「ガガガ・・・ガガガ・・・」返答の代わりに雑音だけが返ってくる。
「グランファーザー!グランファーザー!」懸命に呼び掛ける麻衣。
「・・司令部、こちら・・グランファーザー・・」女性の声だ。そしてその声は?
「さ、桜!、どうしたの?」
「司令部、こちらグランファーザー、致命的なトラブルがあり当初の作戦継続が不可能となりました。」
「さ、桜!宗全は?何があったの?」
「こちらグランファーザー、これよりこちらは単独行動に移ります。」
「データリンク復旧しました!これは?」士官の一人が声を上げた。
「何があったの?」
「グランファーザーの主操舵室は乗員は全滅、射撃装置全損。戦闘記録再生します。」
「なんで!」
試作8号弩級戦車は主操舵室に直撃を受ける。そして中にいた乗員は全員即死であった。
「桜はどこにいるの?」
「副操舵室にいるようですね。あ!」
「どうしたの?」
「グランファーザーは前進開始しました。目標に向けて加速前進しています。」
「馬鹿!桜、やめなさい!」麻衣は叫ぶ。
・・・・・・
「返事なさい!桜、返事!」
・・・・・・
「桜!」
「有馬司令、プライベート回線でお願いします。」桜の声。落ち着いているようだ。
「わかったよ」プライベート回線に切り替える麻衣。
「桜、聞こえてる?」
「うん、聞こえているよ。麻衣お姉ちゃん」
「なんでこんな事するの!?」
「なんでかなあ、それは麻衣お姉ちゃんが、お姉ちゃんだからかな」
「意味がわからない!とにかくエンジン止めて戻ってきなさい」
「もう遅いよ。今計算したけど、この重量と速度なら当初の予定通りあのビルの柱にダメージを与えられるはずだよ。」
「なんでよ!なんで!桜なのよ!」
「ねぇ知ってる?8号戦車の副操舵室は半解放になっているんだよ。オープンカーみたいなんだよ。ABZの中って風が吹いているんだね。とても風が気持ちいいんだよ」
「ふざけないで、桜!」
「あのさ、麻衣お姉ちゃん、覚えている?3人でいたんだよね」
「えっ?」
「いつも3人でいたんだよ。」
「何言っての?」
「富子ちゃんと麻衣お姉ちゃんと私との3人で、いつも3人でいた。」
「・・・・」
「私は、ずっとお姉ちゃんの事を見ていたよ。」
「・・・・」
「お姉ちゃんはずっと富子ちゃんを見ていたね」
「・・・・」
「お姉ちゃんは私のことを実の妹のように思って、見ていたね」
「・・・」
「だけど、本当は、私は、麻衣お姉ちゃんの妹ではないものになりたかったんだよ。」
「そ、そんな」
「さようなら、だから麻衣・・・大好きだったよ・・・」
その言葉を最後に通信を切った桜。
・・・これでよかったんだ・・・
・・・ああ、私なれなかったなあ・・・
・・・妹じゃないものには・・・
・・・さようなら、みんな・・・
「まだ、だめですよ」
えっ
聞き覚えのあるその声に驚いた瞬間、桜は自分の身体をが宙に浮くのを感じる。
そして後ろから抱きかかえられた彼女は地上を見やる。
みるみるうちに地表が遠ざかっていく
いままで自分が乗っていた8号戦車がどんどん小さくなっていく。
ズドーーーーーーン
8号戦車は見事に目標に激突し大爆発が起きた。
うそっ!
そして武装ヘリの中に引き摺りこまれた桜は自分の命を救ってくれた人の顔をみて驚く。




