【破壊神復活編】⑰ 絶対幸福領域
「これは、一体何なの!?」良子は思わずスクリーンから目を背けた。
「警備監視システムにハッキングして映したBFT、バンブーフォレストタワー内の様子よ」良子たちに合流してきた麻衣は返答する。
いたるところに転がる死体。
あるものは銃で頭を打ち抜かれ、またあるものは首筋を切り裂かれている。
「この状態を見るに恐らくは自死・・」流石に優樹菜は平然としている。
「ええ、私もそう思うわ。多分、あの黒い霧が覆っている直径1キロの範囲内にはもう生者はいない」麻衣は目を伏せる。
「えっ?、あそこには3万以上の人がいたのよ、軍人、民間人問わず、みんな竹林の関係者じゃない、なんでそんなことを?」良子には理解が追い付かない。
「安倍晴明はあの黒い霧を外部の侵入を阻む防壁として利用しているのはわかる。でもそれだけでない気もする」麻衣も考え込む。
「ABZ。Absolutely Bliss Zone 絶対幸福領域。これこそが安倍晴明の願いだな。」
いままで無言だった玲子が突然口を開いた。
「ABZ?中にいる人を自殺に追い込む領域がなんで幸福領域なのよ?また面白くもない冗談を。」麻衣は、それが玲子のいつもの風刺だと思った。
「ABZ、あの中に入った人は死こそ幸福と思うように魂を改変される。そしてその想いは必ず叶う。だから絶対幸福領域なんだよ。」と玲子。
「とてもまともとは思えない。」良子の目は怒りに満ちている。
「はい、玲子先生。ABZは、ずっとあの大きさなんですか?」桜が手を挙げて質問する。
「まさか!今以上に大きくなる可能性もある。あらたに魂を吸って、その力を増やしてどんどんと無限に広がることだってありうるのさ。桜くん」
「無限に?それってもしかして人類が滅亡することもありうるってこと?」良子は背筋が凍っていくのを感じる。
「まあ、あり得るね」事もなげに言う玲子。
「なんとかして、あれを止めなくてならないわね」考え込む良子。
「しかしあの中に入ったら本人の意思に関係なく自殺してしまうんでしょ、どうやって止めるんだよ」と優樹菜は何も思いつかないといった様子だ。、
「長距離砲や誘導弾での攻撃はどうなの?それで安倍晴明を殺せば・・」良子は玲子のほうを向いた。
「良子!富子の事、諦めるつもりなの!」麻衣は目を剥いた。
「もちろん、今はそのつもりはない、だけど場合によって・・・」
「最低!」誰にとでもなく呟く麻衣。
「残念ながら、それは意味がないな。」玲子のこの発言に皆は何故かほっとする
「あの男、晴明は直接目を見なくたって、他人に乗り移れる。例えばモニター越しであってもな。
まあ、そんな事よりも重要なのは、今、ABZがあの大きさに留まっているということさね。あいつがあれを制御できているという事だよ。
だから、もしその制御がなくなったら一体どうなると思う?
それに、私は今この状態を見るに、あいつの目的は人類を殺しつくすことではないと思っているよ。
それともう想像ついてる思うけど、ABZに影響を受けない人がいる。まずはあいつ本人。それにお前たち5家の子孫だな。私と猫、あと初美ちゃんも例外だ」
「私たちが行くしかないと、もとよりそのつもりだったけど」良子は少しほっとしたようだ。
「でも、あたしたちだけで、どうやってあの中に入るつもりなのよ!ヘリなんかは無人迎撃システムで一瞬で墜とされるわ、ドローンなんかで太刀打ちできるものでもない!」
・・・・・・・・・沈黙の時間が過ぎる、そして・・・
「ハハハハ!」しわがれた声の哄笑が響く。
「ハハハ、ついにわしらの出番がきたの」六分寺宗全の声はその場の沈鬱な雰囲気を吹き飛ばした。
「えっおじいちゃん、まさか!」顔を真っ青にする桜。
「じじぃだけに格好つけさせるわけにはいかんな、なんて俺もかっこいい事いうw」と細川勝元。
「面白くない!その冗談、全然面白くない!」麻衣は真剣になって怒っている。
「有馬殿、つらいことではあるが」楠間茂は、麻衣に頭を下げる
「いやです!いやです!」うっすらと涙を浮かべる麻衣。
「この通り」楠間茂は首を垂れるたままだ。
「いや!なんで私なの!鼻毛がやりなさいよ!あんたが作戦つくって指揮なさいよ、いや!絶対にいや!」
「麻衣ねぇちゃん・・」桜は麻衣の胸に飛び込み強く抱きしめる。
「桜・・・」
「麻衣ねぇちゃんはもうわかってる。わかっているんだよね、自分がやるしかないことが・・」
「うん・・・」涙を流しながら頷く麻衣。
「そして、お姉ちゃんのつくった作戦で亡くなった人の事のずっと忘れられないこともわかっている」
「うん・・・」
「ずっと、ずっとそれを胸に苦しみ続ける未来がわかっている」
「うん・・・」
「だから、もし麻衣ねぇちゃんが、本当にもう、本当にその痛みに耐えられなくなった時は、私に言って」
「慰めなんか言葉なんか・・」
「違う、その時は私が麻衣ねぇちゃんを殺してあげるよ。そして解放してあげるよ」
「えっ?」
「それで終わりにしてあげるよ」
「桜、何言ってるか、わからないよ、おかしいよ」
「あは、そうか、桜ちゃん、じゃあ、その後は、私があなたを殺してあげるね。100回殺すからね」と優樹菜が笑いながら言う
「じゃ、優樹菜ちゃんを殺すのは私ね」と良子も笑みを浮かべる。
「良子はあんたどうすんのよ」優樹菜は興味深そうに尋ねる。
「そんなの、富子に殺してもらうに決まっているじゃない」一瞬の迷いもなき返答。
「じゃあ富子は?富子は?」
「あいつはいいの、富子はもう背負っている、私たちが想像もできないものを。だからああなった。だけど今まで死のうとはしなかった・・・
だから麻衣。大丈夫だから。大丈夫だから、前へ進みましょう」
「あははは、みんな、おかしいよ、何が大丈夫だよ、ちっとも大丈夫じゃないよ」涙でぐしゃぐしゃになった泣き笑いの麻衣。
2時間後、麻衣は反政府軍の指揮官たちを招集した。
そして作戦内容の説明を開始した。
「作戦の概要を説明します。
作戦の最終目的は、BFT、バンブーフォレストタワー屋上の上の旧将軍霊廟最上層へ突入です。
現在、BFTを中心として直径約1キロの半球状の濃い霧のようなものがかかっておりますが、あれを私たちはABZ、絶対幸福領域と呼ぶことにいたしました。
そしてABZ内に入った人間は、すぐに精神を操作され自殺行為に及ぶことがわかっています。」
「幸福領域なんて面白い名前だぜ」
「俺はいままで一度も自殺しようと思ったことはないな、貴重な経験だ」
兵たちは、やんやと囃す。
「ただ、私たち5家の末裔と、ここにいる玲子さん、竹林初美さんのようにABZの影響を受けない特別の体質の人もおります。
そんなわけで今BFTの中では、竹林龍三と拉致された土御門富子だけが生存しております。
ですので、最上階の突入は、良子と玲子さん、竹林初美さんの3人で行います。
詳細の説明はできませんが、玲子さんと竹林初美さんは、この現象を止める鍵なのです」
麻衣はあえて章、あの黒猫の事には触れなかった。
人語は話す猫の話でもしたら、それこそ面倒だ。
もちろん、章も同行する。というよりは、彼こそ、今回の作戦の主役である。
初美を使い、富子の中の闇の統率者の印を引き出し、黒猫というか章がそれを奪取する。
そのような段取りだ。
「3人はヘリで旧将軍霊廟に接近して内部への侵入を行います。ご存じの通り、BFTの周りには無人迎撃システムが稼働しております。
そのため、3人がヘリで近づくためには、飽和攻撃をしつつの護衛を・・・」
そこで麻衣は言葉を切った。そして下を俯いた。
指揮官たちの目が集中する。
「言葉を飾ってもしょうがありませんね・・」麻衣を顔を上げた。
「皆さんの部隊には、特に黒天狗衆の皆さまには、3人の身代わりになって、囮になって死んで頂きたいと思います!!」
麻衣は顔を抑え、涙を流す。
「・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・・こんな無能な私で・・・」
沈黙の時間が続く。
一人の士官がすっと立ち上がた。
「有馬さん、それはわかっているので早く続きをお願いします。」淡々と言った。
「あ、はい、はい。すいません。続けます。」目を真っ赤にしながらも麻衣は続けた。
もう一つの問題は、将軍霊廟を囲む強力な電磁バリアの存在です。
無人迎撃システムの攻撃を掻い潜っても、これが生きていれば将軍霊廟の内部へは辿り着けません。
このバリアの発生装置は将軍霊廟に装備されているのですが、その電源についてはBFT本体から供給を受けています。
ですからこれを遮断することが必要です。
BHTはご存じだと思いますが中空構造でビル外縁部の12本のスーパーフレキシブルピラーでビル全体を支えることで超高層化と耐震性を実現しています。
これは地震などがあった場合は、ビル自体の倒壊を防ぐためにわざと振り子のように揺れる構造です。
当然、ビルの上に行けばいくほど、振れ幅は大きくなります。
そこで12本の柱のうち1本に対して地上に近い部分で衝撃を与える。それによる振動を拡大して・・」
「BFTの屋上から将軍霊廟を振り落とすということじゃな」六分寺宗全がうなずく。
「はい。六分寺会長のおっしゃる通りです。攻撃には、六分寺試作300ミリ劣化ウラン弾を使用します。同じく六分寺試作8号弩級戦車の主砲から発射いたします。
そして振動によってできた間隙を黒天狗衆の皆さんのミサイルで攻撃し、BFTから将軍霊廟を切り離します」
試作8号弩級戦車とは六分寺インダストリーが試作した自重300トンを超える世界最大、歴史上最大の戦車である。
こたびの出陣については六分寺宗全が自らが搭乗している毘沙門天衆の旗艦とも言える戦車だ。
「300ミリ劣化ウラン弾による攻撃は、ABZの外から行いますが、当然、自動迎撃システムの攻撃範囲内にはなります。
したがって、毘沙門天衆の皆さまは、陽動と護衛をお願いいたします。」
たっての希望から桜は、六分寺宗全に同行する。
試作戦車ということもあり、万一のトラブルの際に優れたメカニックとしての腕を振るってもらうためだ。
麻衣も地上に残り、後方で全体の指揮を取る。
楠間茂率いる陸軍第1師団第一特科隊を中心とした部隊は、毘沙門天衆と一緒に地上戦に参加する。
楠間茂は、帝はてっきり一兵卒として前線に出ると言いだすかと思っていたが、そのような事がなかったのでほっとしている。
「シゲさんに、そこまで迷惑はかけられない。私は、私のできることをします。」
そういってわずかな護衛とともに御所に戻った帝。
避難民のために御所で炊き出しをしたり、戦傷者を見舞ったりと民心の安定に努めている。
皆がそれぞれの場所で、それぞれの役割を懸命に果たそうとしている。
そんな最終決戦前夜である。




