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【破壊神復活編】⑭ 稲荷山合戦前編 御前試合

有馬麻衣と楠間茂との対局は3時間を超えようとしていた。

帝と服部優樹菜は、白熱する対局を見守っている。

いわずもがなであるが、これは軍人チェスという形をとった、きたるべき政府軍との戦術立案とシミュレーションである。

麻衣が政府軍としてその動きを想定し、楠間茂がそれに呼応する反政府軍の戦術を練っていくという役割分担だ。

また同時並行作業として、この対局の内容をもとにした作戦行動プログラムの構築が行われている。

そのために、ここ笠置山には麻衣がアリマ総研や関連会社から搔き集めた多数のサーバー類が持ち込まれ、インターネットから遮断したローカルネットワークシステムを構築していた。

これは、こちらの動きが政府側に感知されることを防ぐためである。


「いやっ!もう、この部屋暑すぎる!なんとかならないの?」

麻衣は悲鳴を上げた。


「有馬殿、心頭滅却すれば、ですぞ」と涼しい顔の楠間茂。

「鼻毛の滅却してんのは、頭の毛でしょ」麻衣は暑くてイライラしているせいか酷いことを言う。

「仕方ないですよ。麻衣さんが持ってきたサーバーに全部電気と空調を回しているんですから・・」わかりきったことを言う優樹菜。

「有馬さん、これで宜しければ差し上げますので使ってください。」帝は自分のもっていた扇子を差し出す。

「ああどうも、まあ、ないよりましか」麻衣は帝から受け取った扇子を広げてパタパタと仰ぐ

「有馬殿、恐れ多くも帝に対してその言い方は」一応窘める楠間茂

「シゲ、構いませんよ。むしろ有馬さんのような方のほうが私も楽です」と帝。

「これ結構な値段で売れるのかなあ」麻衣は扇子をみつめて呟く。

「そりゃ、帝のサイン入りだし、そこそこの値段では」と優樹菜。

「では、ありがたく頂いておきますよ。え、あれっ?」懐に扇子を収めた瞬間、麻衣は勝敗が決したことを悟る。

「有馬殿、チェックメイトですぞ」楠間茂は少し自慢げだ。

「うわ、まじか。初黒星だ。最低!まあ、いいか、これでいけることが分かったね、鼻毛」

「有馬殿、まことに、誠にありがとうございました。」楠間茂は感極まったように床に頭をこすりつけて礼を言う。

「まあ、言うてもこれは単なるシミュレーションだし、これからが本番でしょ。気合入れていきましょう」麻衣は笑顔をつくる。


かくして政府軍に対する戦術プログラムを完成させた反政府軍は、笠置山を降りて木津川沿いに北上し、稲荷山に布陣した。

それに呼応するが如くに政府軍も洛中から南下し、稲荷山の前方に布陣する。

まさにいつ銃撃が始まってもおかしくない一糸触発の状況である。


一方、こちらは政府軍の大本営。

参謀本部作戦課や情報課の幕僚、士官たちが慌ただしく動きまわり、反政府軍への攻撃計画の最終確認を行っている。

政府軍は、新たに「リアルタイム生体コンピューティング」という強力な武器を手に入れたが、それが真価を発揮するのは作戦実行時のみである。

事前に情報を収集し、整理して基本戦術を立案するのは、最後は人の頭である。

もちろんその段階でも、意思決定支援や戦術シミュレーションにコンピューターを利用しているが、それは反政府軍も同じことだ。

だから作戦開始前のここの様子は、以前と何も変わっていないのだ。


いや・・・


前回から変わったことがひとつだけあった。

大きな変化だ。

竹林龍三が作戦に口を出すようになったのだ。

いままでは、決して実務というか実戦の現場には姿を現すことのなかった竹林龍三がである。

そしてそれは、単なる口出しというレベルを超えていた。

むしろ竹林龍三が現場の最高指揮官として軍配をふっているのである。

それもそうであろう。

彼の中身はいまや安倍晴明である。

1000年以上もの間、この国の紛争・戦争の歴史に直接的にも間接的にも関わってきた知識の宝庫である。

当然、自分もそれを自負している。

だから彼は自分が指揮するのは当たり前だと思っているし、実際、彼の指揮の内容は蓋然性のあるものであったので、現場指揮官も従わざるを得なかった。


「総帥閣下。先行偵察隊からの報告から判明したことなのですが」一人の士官が晴明に報告を始める。

「なんだ?」

「敵は3つ集団に部隊を分けていて、こちらから見て後方に本陣を置き、前方集団を右翼、左翼に分けて展開しております。前方集団は歩兵中心、本陣は砲兵中心です。」

「それはさきほど聞いておる」

「問題はその兵力なのです。笠置山で確認した兵士の数より1.5倍となっております。短期間でこれだけの兵数増加はありえないと思いまして」

「兵士の認識はどのようにやっている?」

「はい、基本的には長距離偵察ドローンからの画像と赤外線情報をもとにAIにて判定を行っております。」

「まだ、ドローンはその辺におるのか?」

「はい」

「では試しに、右翼でよい。適当で構わないのでミリ波レーダーでの生体認識を行ってみろ」

「はい、すぐに。あっ、これは生体ではありませんね」

「反政府軍の指揮官は、かの楠公の子孫ときく」

「なんこうですか?」

「楠正成の事じゃよ。あいつが案山子を兵に偽装して敵の矢を集めた逸話ぐらいは知っとるだろ」

「ああ、はい」

「その故事にでも倣ったのであろう。ダミーを使って兵数を増やしたように見せかけているんじゃ。」

「なるほど、わが軍の兵士に無駄弾を撃たせる魂胆でしたか」

「作戦時の各兵士の敵認識についても、あらたにミリ波レーダーの生体認識を加えろ」

「はい、しかしその場合、戦闘支援システムの処理量が約2倍になりますがよろしいのですか?」

「ふん、じゃからそれがやつの狙いよ。新しい戦闘支援システムは処理できる量の上限が決まっておる。それ故、我々の作戦時間は限られている。

ダミー兵を全て相手をしていれば時間切れじゃし、生体認証を追加することで処理量が増えた場合は作戦行動時間が半減する。」

「我々のシステムの制約を敵が掴んでいると?」

「もとよりあれはアリマの技術だ。じゃから敵もあの仕組みにはもう気づいているだろうよ。」

「なるほど、さすがは総帥閣下!、で、どうされますか?」

「こちらの機動速度を2倍にする。いますぐ兵士行動支援プログラムの修正を行うように!」

「2倍ですか?修正は可能ですが、その場合、当方の兵士の損失率が大幅に増大しますが?」

「構わん、これをやらなければこちらがが全滅するのだ。早くやれ」

「了解いたしました」

「しかし楠公の子孫とやら。いい線まで行っておったが、残念ながら儂には届かんよ」

安倍晴明の不敵な笑みを浮かべる。



さて、こちらは反政府軍の本陣

「参謀本部中央電算センターを中心とした大量のデータの流れを確認しました!」通信パケット量を観測していた兵士の一人が楠間茂たちに報告する。

「生体認識のためのミリ波レーダーの発信も確認しております!」別の兵士が報告する。

「敵は第三の選択枝を選んだという事ね。なんか気が進まないわ」と麻衣。

「そうですな、想定通りとはいえ確かに」と楠間茂も嘆息を吐く。

「しかし、優樹菜は、なんか嬉しそうね」

「当たり前じゃないですか。だって目が覚めた時、大好きな麻衣さんと一緒になれるなんて夢みたいです」

「優樹菜、それ全然違うから、一生寝てていいよ」

「ひどーい」

「サードくんは全然心配していないだね」

「だって、麻衣さんの作戦ですよ。うまくいかないわけがない」

「今回は、俺も頑張ったんだけどなあ、じゃあそろそろ始めていきますか」と麻衣にめくばせしマイクのスイッチを入れる楠間茂。

「あらためまして楠間茂です。」

「あらためまして有馬麻衣です。」一応、麻衣ものってきた。

「稲荷山合戦、スタートです!」声を合わせる2人。

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