【破壊神復活編】⑪ 伏見デルタの合戦
陸軍第1師団第一特科隊が帝を擁して政府に反旗を翻したこと。
そのことがインターネットを通じて世間に広まると、日本全国に衝撃が走った。、
帝自ら配信画面上にその竜顔をあらわし、自らの玉音にて、先般の大規模テロが政府の陰謀によるものであることを暴露した。
そして各軍閥に対して激を飛ばし、政府に対する抗戦を呼びかけた。
帝は自らも下級士官用の軍服をまとい、その強い抗戦の意思を示している。
これに対して政府は、もはや帝の不在を取り繕うことが不可能と判断したのか、第一特科隊こそが反政府テロリスト集団であり、帝を誘拐して脅迫していると反論した。
しかしながら、政府は民心を失い、各軍閥も急速に離反していった。
なかでも親竹林派の中でも最大の勢力である斯波氏が反政府側に寝返ったことが事態を急変させた。
斯波氏は、戦後の論功行賞のために手柄を焦ったのか、政府軍に対して早々と宣戦布告を行い戦局をひらいた。
他の軍閥も斯波氏のもとにぞくぞくと参集し、総勢8万の大軍となり、帝都を包囲する。
これにより政府側の戦力は4万を切っていた。
宇治川と桂川にはさまれた三角州、いわゆる伏見デルタと呼ばれる場所で両軍は激突した。
誰もが反政府軍の勝利を確信していた。
しかし反政府軍は敗北した。完敗であった。
敗残兵の一部の兵は、細川と六分寺の連合軍を頼ってきた。
細川と六分寺の連合軍。
将軍霊廟で政府軍を壊滅し、今回の大乱のきっかけを作った彼らの元には良子たちもいる。
すぐにでも竹林の本陣に乗り込む気満々であったが、状況の急変と竹林寺の強固な防衛システムの存在を察知して、一旦は、積極的な攻勢を控え、左京区岩倉に布陣して状況を注視している。
そして敗残兵の多くは、第一特科隊が布陣している笠置山に逃げ落ちてきた。
敗残兵の受け入れに騒然としている笠置山で、第一特科隊の楠間茂は参謀たちを集め今後の方針を検討する。
「うーん、これはちょっと不思議な戦だね、ちょっとまずいかもなあ」
反政府軍の敗報を受けた第一特科隊楠間茂は、偵察ドローンを通じて収集した今回の戦闘に関するデータを、刻一刻と変化していった両軍の機動、死傷者の発生状況などを注意深く観察し、無造作に頭を掻いた。
「政府軍の機動、各兵士の動き、これはちょっと普通じゃ考えらないな。」
「どういうことでしょうか」参謀の一人が尋ねる。
「まずは、政府軍が刻一刻と変化する状況を正確に把握して、まあこれは普通にできることだが、全ての兵士が、それを基にして適切かつ的確な移動と攻撃を行っているんだ。こんな事、普通じゃ無理だよ。まるで兵士一人一人が自分の意思とは全く無関係に、何者かによって、将棋の駒のように操られでもしない限りはね。」
「もしかして竹林が開発していたクローン兵ということでしょうか?」
「いや違うだろう。さすがに4万のクローン兵を用意することは無理だろう。それに今回の政府軍の中核はもともと竹林軍閥の所属兵だ。普通の人間だよ。事前にそれをクローンにすり替えれば周りも気づくはずだ。」
「なるほど。ではとても優秀な指揮官の指示で動いていたということですしょうか?」
「うん、まあでも、4万の兵士の動きを、それこそコンマ秒単位で把握して全体の戦局を考えて兵士ひとりづつの動きにフィードバックさせる。そんなことは人間のわざでは無理だ。」
「では超電算装置を使っているのではないですか?」
「まあ、そう考えるしかないが、私の知る限り、現存する電算処理システムでそんなことができるものは存在しない。世界最速と言われるアリマ総研のスパコンでも無理だ。
だから単なる機械ではないクローン兵の制御については、大まかな指示だけを与えて個人の機動は自律制御に任せているんだ。いや機械であっても、いまは自律制御を併用するのが基本だよ」
「我々の知らない何か特別な技術でしょうか?魔術のような」
「魔術か・」
その言葉に楠間茂は考えこんだ。
・・・そういえば、かつてより竹林龍三は古の魔術の復活しようとしているという噂があったな・・・
・・・今から600年前までは日本には魔術が存在していたいう歴史的記録も残っている・・・
「まあ、魔術でも何でもいいが、我々の想像を遥かに超える方法での電算処理が可能だったとする。しかしもう一つの問題は、その指示に対して、いかにして100%兵士を従わせることができるかということだ。
それに関して僕が気になっているのが、今回の政府軍側の最終死傷率。70%超えているんだよ。これも普通では考えられないな。人は生存本能が働くからね。それと無視させてまで兵士の行動を強制できる仕掛けがあったはずなのさ」
「強制?何か薬物でも」
「うん、その可能性もなくもないが、通常薬物を使った場合はこんな具合にはならないよ。むしろ兵士の機動、戦闘力は低下する。それとは何か違う方法で」
「それも魔術の類でしょうか」
「わからないなあ。あと一つこれは全く関係ないように思えるが、伏見デルタの戦と同時刻に京都南区の住民、約1万人が突然死んでいる。これについては政府は新たなウィルスによる伝染病が原因と言っているが」
「また彼らの自作自演でしょうか」
「そうだと思う。しかしその目的が分からない、この2つが俺には何か関係があるように思えるんだが・・・」
「魔術の生贄とか?しかし日本一の頭脳を持っているといわれている司令でもお分かりならぬ事があるのですね」
「生贄か、あと、俺を買いかぶるな、少なくも日本一は別にいるぞ、ああ、これは軍人チェスの話だけどね」
軍人チェス。
1000の駒を使い競い合う最高の頭脳レベルを要求されるチェス競技である。
楠間茂はこれを得意としていて公式非公式合わせて1000回以上の試合で負け知らずであった。
ただ1度の敗北を除いては・・・
「やはり俺でも、いや俺じゃ、無理か、うん、君、サード君を呼んできてくれないか」
楠間茂は「俺でも」と言いかけて、自分のうぬぼれに気づき少し恥ずかしくなった。
「了解しました。司令」副官は退室する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「司令、失礼します」
「あ、サードくん、突然すまないね」
サードと呼ばれた人物は、服部優樹菜という女性軍人である。
身長190センチを超える巨漢で、軍服の上からも鍛え抜かれた肉体が窺い知れる。
浅黒い肌に大きな瞳、整った耳目。
彫の深いその美貌は、西洋の彫像にあるような戦の女神を思わせるものであった。
彼女は特殊作戦部隊を経て、この隊に配属された。
特殊作戦部隊、いや日本の軍組織内では№2の戦闘のプロと言われている。
いくつもの地獄をくぐり抜けてきた猛者中の猛者だ。
古の忍の家系の末裔との噂もある。
「君はもう”サード”を名乗る必要はないじゃないかな?」
「司令!あいつがくたばるわけないでしょうが!永園菫が!」
「確かな情報だよ、残念ながら」
「司令はそんな事を言うために私を呼んだのですか?失礼します!」
「ちょまっ、いや、実はお願いがあってさ、ちょっとお使いにいってほしくて」
「お断りいたします!」
「要件もきかずにか」
「私の使命は司令をお守りすることです!」
「ふーん、ちょっとある人を護衛してここにつれてきて欲しいだけなんだけどね、」
「ですから、誰であっても私は!」
「そうか、それが、君が、サードな理由、№2になれない理由である人物でもかな?あー僕もだけど。」
「えっ?」
「有馬麻衣をここにつれてきて欲しいんだ、彼女の力がいる」
「は、いますぐ進発いたします!」
「はは、変わり身早いねサードは、これが指令書だ。」
「当たり前です!だってあの方は、私にとっての・・」
そういって服部優樹菜は飛び出していく。




