【破壊神復活編】⑦ 将軍霊廟
さていまさらの話で恐縮ではあるが、この物語の舞台となっている「将軍霊廟」について説明させて頂きたい。
その場所は、京都府京都市左京区鞍馬貴船町。
いわゆるあの霊験あらたかな「鞍馬山」という所だ。
その見た目は「ピラミッド」のそのものである。
内部構造的には地上に出ている部分が1~3層。4層以下が地下に埋もれた形になっている。
そしてここはその名の通り、約600年前に初代日野将軍家が最初の鍵譲りの儀式を行って以来の五家代々の墓所である。
それ故に、その管理は総執事家である竹林家によって行われてきた。
民間には一切情報公開されておらず、立ち入ることができるのは五家と竹林家、それに帝のみである。
かつてのそれは、土を盛った方墳と、その上に建てられた高さ40メートルを超える木造の本殿であった。
それを10年かけてRC構造のピラミッドとして再建造した。
全てが完成したのは20年前である。
現在の帝の即位を記念して巨額の国費が投じられたその事業を独占したのもまた竹林家であり、それにより彼らはその富を益々と増やした。
そして臣民は到底あずかり知らぬことではあるが、この巨大な建造物は、「有事の際の非常用国防中枢施設」を兼ねていたのである。
そのためここには、複数の系統から電力供給設備や自家発電装置、クリーンルーム、複数のバックアップをもった通信設備等々、おおよそただの墓には相応しくないものが多数存在している。
燃料・食料なども備蓄され、分厚いコンクリートの壁は核ミサイルの直撃に耐えられるほどだ。
そんな強固な要塞である将軍霊廟の最上層に龍三の姿となった安倍晴明は富子を伴い到着した。
大きなモニターや電子機器などが並ぶまるで軍艦のCICにも似たその場所の床には、そこに似つかわしくない大きな魔法陣が描かれていた。
そしてその中心には呪術的というか悪魔的というか悪趣味な装飾の施された玉座が据え付けられていた。
晴明に促された富子はその玉座に座る。
晴明は、いくつかの機器を操作した上で、呪文を念じ始める。
すると、玉座を中心とした魔法陣が青白く光りだした。
いわずもがな、これは、異世界から引き出された闇の魔力を伝達し、各種エネルギーに変換する魔法装置である。
ズーン
大きな衝撃音の後に、部屋全体がグラグラと振動する。
「ふん、順調ではないか。しかし、こいつを使ったほうは儂自ら行うより遥かに勝手がよいわ」安倍晴明は喜色を浮かべる。
ガガガガガ
大きな振動とともにピラミッドの上部、すなわち1~3層は、4層以下を切り離して、宙に浮かびあがった。
そして空に向かってぐんぐんと上昇していく。
晴明は、モニター越しに、すでに瓦礫となった将軍霊廟跡を見下ろした。
将軍霊廟の周囲には、軍閥としての竹林家配下の機甲化1個師団が展開していた。
突然の霊廟の瓦解に混乱し散開していたが、徐々に体制を立て直しているようだ。
ビービービー
突然の警告音が鳴り響く。
「ちっ」
舌打ちした清明はモニターに表示された警告内容を確認する。
地上の対空戦闘指揮車が空に浮かぶこのピラミッドに対してレーダーを照射しているようだ。
自走式対空砲群がこちらに向けて俯角をとった。
・・・あれを試すか?いや、まだ早いか、それに・・・
・・・あの瓦解では普通の人間は生きておられぬ。取り残されたクローン兵共もネットワークなしでは何もできずにくたばっただろう・・
・・・しかし、気になるのは、あの猫だ、あの超常の力ならもしや・・・
そう考えた晴明は、展開部隊司令部にホットラインをつなげる。
「竹林龍三である。師団司令はおるか?」
「は、総帥殿下!ご無事でしたか、いますぐに」画面に映る龍三の姿をみて士官は恐懼して敬礼する。
「総帥殿下、いまどちらですか?そしてあれは一体?」士官に代わり画面に出た司令官が尋ねる。
「今、お前らの直上にある空中浮遊物。わしは、いまそこにおる」
「どういうことでございましょうか?」
「これは、秘密裡の我々が準備していた特殊国防施設である。テロリストどもがこれを破壊しようとしたので緊急的な避難措置をとったのだ」
「このような施設があるとは!そしてこれだけの技術があったとは小官は存じておりませんでした」
「そうであろう、これは特級機密施設である」
「特機でしたか、なるほど、で総帥殿下はこの施設をどこに移動されるのでしょうか」
「南下して竹林寺に向かう。そんなことより、将軍霊廟にはまだテロリストが潜んでいる。引き続き包囲し、見つけ次第殺せ」
竹林寺とは上京区にある竹林家の本拠地である。竹林重工の本社があり、関連会社や研究所などの施設が集中している。
「はい、かしこまりました」
「加えて猫だ、猫がいたら殺せ」
「猫?猫ですか?」
「そ、そうだ、テロリストは猫を兵器に使っているだ。十分気を付けるように」
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さて大局的な視点で現在の他の軍の動きはどうか?
まずは陸軍第1師団、いわゆる将軍の直轄軍であるが、各部隊は各地に分散している。
将軍直轄軍が各地に分散しているのは、再来月から予定されている即位30年を祝うための帝の各地への巡幸の事前準備のためであった。
また新田義教中将が拘束された事もあり、指揮系統も混乱している。
さて各軍閥のほうはどうか?
参謀本部からの軍令に対して、約半数の軍閥はその戦力のすべてを、残り半分は、その戦力の半分を振り向けて、それぞれが帝都に向かって進軍していた。
大多数の軍閥の指導者は今回の事変が竹林によるクーデターであることを疑っていたため、軍令に従いつつも、行軍速度を落とし、事の成り行きを見極めようとしてた。
そんな中、全戦力をもって最大戦速で行軍している軍閥の部隊がいた。
砂煙を上げて疾走する装甲車の中で兵たちは、自軍の行動に疑問をもっていたようだ。
「まさか、うちが全軍を上げて出陣するとは思わなんだ」
「まあ、会長の竹林嫌いは有名だしな」
「しかしああ見えて狸だしな。勝ち組につくのは定石だろ」
「ん、停止命令?ここで」
その部隊の全軍は停止した
ひときわ大きな戦闘指揮車の屋根に拡声器をもった男性がたっていた。
「会長?」
「会長自らのご出陣だったのか?」
兵たちはざわめく
ガーピーガーピー
「あーあー、マイクのテスト中。よし、皆の者、よく聞け」その男は話し出した。
「これよりわが軍は、貴船に向かう」
「貴船?我々の持ち場は山科ではないのか?」
「貴船?貴船と言えば!」
「おい、これはもしかして!」
兵たちがざわめきだす。
「皆、静まれや!我々の目標は貴船の将軍霊廟である!」
兵たちは息を飲む。
「そして我々の敵は竹林寺にあり!」
うおおおおおおおおおおお!!!
一気に喚声をあげる兵たち




