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【破壊神復活編】② とみすみ さくまい

・・今日は、すっかり遅くなったわ・・・


一人の軍服姿の女性が家路を急いでいた。

均整のとれた身体に、凛とした美しい顔立ち。

すっとした鼻筋に、つやつやした唇。

大きな瞳はやや切れ長であるが深く澄んでいて、そのまなざしは柔らかい。

明るめの亜麻色の髪は、サイドテールにしている。

張りのある艶やかな肌、やや頬が紅潮しているのは寒さのせいか?

彼女の名前は、土御門富子つちみかどとみこ。21歳。

帝国陸軍第1師団に所属する大尉である。


・・もう、先に寝ててって、言ったのに・・・


彼女は自宅の居間の灯りを見てつぶやく


「お帰りなさいませ、富子様」

玄関で美しい少女が出迎えた。

透けるような白い肌。

少し潤んだ青く大きな瞳は、宝石のような輝きを放っている。

リップを塗らなくても艶やかなピンク色の可愛らしい唇。

金糸のように細くやわらかな金髪は自然なウェーブがかかっている。


富子は、その少女の細い腰に手を回して身体を寄せて、その可愛らしい唇に自分の唇をあてる。

「ありがとう、待っていてくれて」

少女は恥じ入ったのか、少し頬を赤らめた。

「富子様、いえ、あの、その・・今、スープを温めますので」

そういって少女は、奥に下がっていく。

その少女の名前は永園菫ながそのすみれ

陸軍特殊部隊に所属する軍人。この家の使用人ではない。

少女と書いたのは、そのあどけなさの残る顔立ちからなのだが、実際の年齢は。20歳。


さよう、土御門富子と永園菫は、恋人同士であった。


野菜と鶏肉のスープと温野菜にバケット。

グラス1杯の白ワイン。

簡素だが、温かい食事を終えた富子は、菫に声をかける。

「じゃあ、私は、ちょっとシャワー浴びてくるから、先に行っててね」

身体から微かに漂う芳香から菫はもう入浴を済ませているようだった。

「はい」コクンと可愛らしく頷く菫。

軽くシャワーを浴びてから、ベッドに入る富子。

菫も遠慮がちにベッドに入り、その端で体を縮めている。

「菫、もうちょっとこっちに来なさいよ」

「はい」頷きながら身体を寄せてくる菫。

「いつも思うけど、このベッド、大きすぎたわね」

そういって富子は、片手で菫の手を握り、もう一つの手で少女の金髪を撫でる。

その柔らかな感触を確かめていた富子は、菫が視線を合わせている事に気づく。

その目は、何か訴えているようだ。

「何?菫」

「あの、富子様・・聞いてよろしいでしょうか?」

「いいよ」

「富子様、ご結婚はどうされるのでしょうか?」


・・・この質問は意外だ、なんで、今、そんな事?・・・


そう思いながら、富子はきっぱりと答える。

「今は、まったく考えてないわよ。」

名家である富子には、すでにいくつもの縁談が来ている。

最近、縁談の一つを富子は事もなげに断っていた。


・・・それを菫は気にしているのかな?・・・


「もし、その、あの、富子様のご結婚について、なんというか、私の存在が・・・」

「関係ないよ、そんな事」

「ですが、土御門家は名家ですし、やはりご結婚は・・・」そう言って目を伏せる菫。

奥ゆかしくも可愛らしい。

「うん、そうだね。将来は結婚しないといけないのかなあ」

「はい。それがいいかと思います。」


・・・何がいいのか?菫はもっと自分に気持ちを大切にしてよ・・・


・・・そして私の気持ちもだよ・・・


・・・そう思うのは八つ当たりかな・・・


多少の苛立たしさを隠すためか、富子はぐっと菫の身体を抱きしめる。


「だけど、ずっと一緒にいるよ。菫と死ぬまで一緒にいる。」

「富子様、あ、ありがとうございます。で、でも、富子様にご迷惑が・・」

声を震わせる菫。

「それを許せないやつとは結婚しないから大丈夫だよ。大丈夫、菫。」

富子は菫の頭を優しく撫でる。

「ありがとうございます」

菫も少し安心したようだ。

「ねえ、菫は結婚はしないの?」

「はい。母と同じくAIH(人工授精)をしようと思っています。」

「そっか、じゃあ、あたしもAIHにしようかな」

「だ、だめです!富子様は、土御門家は、永園と違って名家で・・」

「名家ねぇ、元を辿れば私たち5つ子だったらしいじゃない。でも、こんな家に生まれてほんと災難よね。」

「富子様?」

「なりたくもない軍人になって・・・」

「・・・」

「なんか鍵の引継ぎだとかで、自分の母親とも無理やり別れさせられて・・・」

「・・・」

「いずれ自分の産んだ娘とも別れて・・・」

「・・・」

「まあ、でも、悪いことばかりじゃなかったかな」

「富子様、そうなのですか?」

「うん、だって、土御門に生まれたから、菫に出会えたわけだし、こうして、今、一緒にいられる」

「富子様、わ、わたしもです」

そういって菫は目に涙を一杯に溜めて富子を見つめる。

「だから、今を大切にしましょう。菫」

そういって富子は、菫の唇に自分の唇を重ねる。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ねぇ、まいんお姉ちゃんは、なんで不機嫌なの?」

「はぁ?桜!別に不機嫌じゃないわよ」

艶のある黒髪の女性は、歩きながらぶっきらぼうに答えた。

まいんお姉ちゃんと呼ばれた女性。陸軍第1師団作戦支援課所属の有馬麻衣ありままいだ。

少しきつめながらも整った顔立ちのスレンダーな美女である。

ジーンズにPコートといういでたち。

普段はツインテールなのだが、今日はその髪をまとめニット帽をかぶっていることもあって、一見、イケメンに見えなくもない。


一方、桜というのは、装備品開発局所属の六分寺桜ろくぶんじさくら

まるで高級な陶器のように透き通った白い肌の銀髪の美少女。

大きな瞳は、赤と金のヘテロクロミアである。

こちらは、フェミニンなミニのワンピースの上に、ショートコートとマフラーというあざと可愛らしい服装だ。

「まいんお姉ちゃんが不機嫌なのは、富子ちゃんと菫ちゃんが付き合い始めたから?」

「はぁ?なんで?そんな事あるわけないでしょ!ていうか、あんた今日はどこに行くのよ。」

「そう、今日は、まいんお姉ちゃんは、なんでも私のいう事、きく日だもんね」

「はい、はい、わかった。わかった」

先日、2人で格闘ゲームの勝負をして負けたほうが何でもいう事を聞くという約束をしたのである。

そして僅差ながらも麻衣は敗北し、本日の「桜のおねだりデート」となったわけだ。

「ねぇ、手つないでいい?」

「寒いから手出したくない」

麻衣は、コートのポケットに手を突っ込んでいる。

「じゃあ、こうする」

桜は腕を絡ませてきた。

「もう、勝手なさいよ」

度々、桜の胸の膨らみが麻衣の腕にあたる。

「桜、今日、胸盛ってるだろ」

「盛ってるよ。だってデートだし」

「はぁ、意味がわからない」

・・・でも、桜の胸が自分の腕に当たる度、ちょっと恥ずかしい気持ちになるのはなぜだろう・・・


「あ、この服可愛い!」

桜はとあるアパレルブランドショップにショーウィンドウの前で立ちどまった。


・・・あはっ、これじゃ、まるでバカップルだな・・・


ショーウィンドウに映った自分たちの姿を見て麻衣は苦笑する。


「ここに入りましょう。」

桜は、麻衣の手を引いて店の中に入っていく。


・・・あっ、このブランド?・・・


・・・富子が好きだったブランドだ・・・


・・・桜、わざとか?それとも偶然?まあ、いっか・・・


色々と試着する桜。

身長は151cmと小柄な少女なのでどの服を着ても可愛らしい仕上がりになり、まったく似合わないというわけでないが、少しこのブランドは違うかなと、麻衣は思う。


・・本当にこの店に来たかったのかな・・・


「ねぇ、似合っているかな?お姉ちゃん」

「あぁ、いいんじゃねえ、桜」

「素っ気ないなあ。もっと褒めてよ」

「はいはい、可愛い可愛い、ロリ巨乳、世界一可愛いよ」

「心が全くこもっていないよ、お姉ちゃん」


結局、シックな春物のコーデュロイワンピースを買った桜。

桜は、自分で支払いを済ませ、ブランドロゴの入った大きな紙袋を受け取る。


「はい」手を差し出す麻衣。

「ん?」

「持ってやるよ。」桜から紙袋を受けとる麻衣。

「あ、ありがとう」今日、初めて顔を赤らめる桜。


・・・???・・・・


その光景になぜか既視感を感じる麻衣。


「お姉ちゃん、食事にしよう。私予約しているから」

そういって麻衣の手を引き、裏路地に入っていく。

隠れ家的なくずし和食割烹に入る。


・・・あ、この店も・・・


・・・富子のお気に入りの店じゃない?・・・


・・・一体、桜は何考えて・・・。


瀟洒な枯山水を眺めることのできる個室で鱧しゃぶを中心としたシンプルなコース料理を頂く。


食事を終えてからもデートは続く。


・・『富子』のお気に入りの雑貨店・・


・・『富子』が贔屓にしていたフラワーショップ・・


・・『富子』が好きだったカフェ・・・


「あ~疲れた。桜。今日はこんなとこでもういいわよね?」

「うん、そうだね。お姉ちゃんは、今日は楽しかった?」

「はぁ?なんで?こんな罰ゲームのどこが楽しいのよ!」

「罰ゲーム?」

「桜、こんなことしてもあんたは富子にはなれないわよ」


・・・しまった!少し言い過ぎたか・・・


・・・この子はこの子なりに何か考えがあったやっているんだ・・・


・・・単なる嫌がらせをするような子じゃない・・・


「ごめん、桜・・」

「いいよ、お姉ちゃん、でも、忘れちゃったんだね・・」

「何を?」

「いいよ、私はすごく楽しかったよ。お姉ちゃんありがとう。」

「うん、じゃあ、ここで」


・・・忘れた?何を?・・・


最後の桜の言葉を反芻しながら桜の小さい背中を見送る麻衣。

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