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【学園編】⑧ 終末への開幕

さすがに合宿の初日は、まったく練習をしなかった彼女たちは大いに反省し、翌日からまじめに練習に取り組んだ。

そして、その成果あり、なんとか形になって新歓公演の開幕を迎えることができた。

公演場所はレンガ作りの古い講堂。

一文字女学院の中では最も古い歴史ある建造物だ。

主として新入生を中心とした観客たちで、講堂は満席であった。

学年のTOP3が在籍している生徒会兼演劇部。

その憧れの先輩たちの公演に新入生たちは胸を膨らせている。


ビー


開幕のベルが鳴り、幕が上がる。

立派な舞台装置の上には、役者はいない。

役者は、講堂の横に仮設されたモーションキャプチャールームの中だ。

役者は自分の出番がくると、その部屋に入って演技をして、終わったら出ていく。

実際の舞台の芝居と同じ感じだ。

観客は、皆スマホを掲げ、舞台装置の映像の上に重ね合わせって写されるVRキャラの演技を見る。

少し異常な光景だ。

実際、VRで表示されている役者の姿・形は、菫や富子を模したものである。

というか、普通の人が見ると本人にしか見えない。

いや、麻衣については、そうではないが。。。


「いよいよ始まったな」

良子は、黒猫に耳元に囁きかける。

「あの子の憑き物を祓ってからは、あの子の心は安定しているようだニャ。だから今日もお前が期待してことは何もないよ」

「いや、劇場という特別の場所さ。普段の自分でないものに、演じる役に没入することでおきるトランス状態。それによって菫に思わぬ事態がおきる可能性はあると思っているが。」

「ニャハ、それはお前の願望か?まあ、お前のくそ台本が無駄な紙切れにならないことを祈っとくニャ。」


芝居は、富子が扮する一人の少女「マリア」と菫扮する召使ロボットの出会いのシーンから始まる。


「お初にお目にかかります。今日からマリアお嬢様のお世話をさせて頂きます。SV9813と申します。」

菫が演じるまるで人形のように美しい金髪で菫色の瞳をもつ端正な顔立ちの少女が、富子演じる白いワンピースを着たショートカットの少女にお辞儀をする。

「SV98・・?」

「私の製造番号です。」

「きれいな瞳。じゃあ、今日からあなたは菫ちゃんね」

ショートカットの少女は、美しい菫色の瞳を見てそういった。

「スミレ、私の名前、菫ですね。記憶いたしました。マリアお嬢様」

「菫ちゃんは何をしてくれるの?」

「マリアお嬢様が望むことを、私のできる範囲であれば、何でも」

「何でもしてくれるんだ」

「はい」

「ねえ、菫ちゃん、知ってる?」

「なんでしょうか」

「私のお母さんは悪い人なんだよ」


「えっ?」


その台詞に菫は驚いた。

何故なら台本には、そんな台詞はないのだから。


「お母さんは、私を殺そうとしているんだよ」

台本にない台詞を富子は続ける。


「マ、マリア様?何を?」


台本では、富子扮するマリアは、母が自分に対して殺害の意思があることを知らない。

マリアは、最後まで母を信じているのだ。


桜、麻衣、良子も驚いている。

あの黒猫でさえ、おおよそ驚くとか、狼狽するとか、そういうこととは全く無縁の慇懃無礼な無精者のセイメイでさえ口をポカンと開けて固まっているのだ。

予定にない台詞もさることながら、普段と何か違う無機質な表情の富子。

その見慣れぬ表情も一同の困惑の原因である。


「ちょっとトミーおねえちゃん!アドリブなんかやんないでよ!菫おねえちゃんも困ってんじゃん!」

桜がインカムを通じて叫んでいるが、富子には聞こえている様子もない。


「菫ちゃん、私は、悲しいんだ」

「マリア様のお母様が、そのような事を考えていることにですか?」

「違うよ」

「では、何に?」

「お母様がルールを破ろうとしていることにだよ。わかるよね。菫ちゃん?」

「いえ、わかりません。そもそも私は機械ですので、人間の感情というものは」

菫は必死で、富子のアドリブに合わせていく。

そのせいあってか、観客には、それがアドリブであることにはまだ気づいていない


「じゃあ、菫ちゃん、家に戻ろう。そろそろ夕食の時間だよ」

ここで、ようやく元々の筋書きに戻った。

台本では、家に入ったマリアは、いよいよ母親に殺されそうになるという流れである。

一同は、少しほっとする。

しかし黒猫だけはまだ、緊張の表情だ。


「ちょっと、まいんおねえちゃん、出番出番!」

桜が麻衣に出番を告げる

「ああ、そうだった」

「まいんおねえちゃん、今日のとみーおねえちゃん、なんか変だね。もしアドリブが」

「大丈夫、私とつっちーは、何年に付き合っていると思ってんよ。あ、あの馬鹿のアドリブなんか簡単に合わせられるわ」

そういいつつも、いままで見たことのない富子の行動とその表情に困惑を隠せない麻衣。



そして舞台には豊かな胸をもつグラマラスな女性が現れる。

麻衣の演じるマリアの母親だ。

「これは、ツンデルの願望かニャ?」ようやく少し軽口の叩けるようになったセイメイ。


「マリアはお母さんのこと好き?」優しい目をした母はマリアに話しかける。

「うん、大好きだったよ」

・・・ちょっと、つっちー!、そこは「だよ」でしょ?台詞間違ったの?それともアドリブ?

まあ、これくらいは誤差の範囲か・・・

そう思い麻衣は台本通りの演技を進める。

「私も大好きだったよ。でもね、あなた以外にも私には好きな人ができたのよ」

「男の人?」

「そうよ」

「お母様は、亡くなったお父様のことはどう思っていたの?」

「マリアには、はっきり言うわ、私はあの男は好きでもなんでもなかったわ」

「知ってたよ、お母様」

「だからさ、あの男の血を受けたお前が、この家の資産を相続するとか考えるだけで虫唾が走る」

「お母様!」

「マリアは、私のこと好きでしょ。だから死んで!私のために!」


・・・うん、ここまでは、台本通りじゃない。さっきのあれはなんだったの?

だけど、これじゃ、辻褄があわないじゃん・・・

今後の富子の出方に緊張する麻衣。


そして握ったナイフをマリアに向ける母親。


「菫!」

「はい、マリア様」

「私を守って」

「はい」

「何?この人形。あんたは人間に反抗できないのでしょ?邪魔だからあっちに行きなさい!」

「いえ、マリア様をお守りするが私の役割ですので」

「じゃあ、こうしてやる!」

狂気に満ちた目でマリアの母親は、菫を滅多刺しにする。

マリアの前で立ちふさがり、母親の攻撃を必死で防ぐ菫。

機械の身体ゆえ、血などは出ないが、破けた皮膚から配線や人工筋肉やら金属製の骨格が露出し、機械油が漏れだす。

かなりエグい。


「うわ、これかなりのゴア表現ニャ。R15じゃ足りなくね」とセイメイ。

「あ、サイバーパンクになった。やっぱ映像演出、桜に任せたのも間違いだった」と良子。


「菫!戦って!」

「マリア様、できません!」

「戦いなさい!」

「できません」

「じゃあ、いいわ、自分でやる」

マリアは、部屋の中に飾ってあった剣を手に取った

「なりません、それは!」

菫は決意した。

そしてロボットとしての禁忌を破ることを。

そして母親ともみくちゃになりながら、彼女からナイフを奪い取り・・・



血みどろの床


目をむいたまま横たわり動かないマリアの母親。


それを冷淡に見つめるマリア


息を切らす菫。



!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



途端、菫の頭の中に稲妻が走る



脳の中を電撃が駆け抜ける



・・大量の記憶は一気に雪崩こんでくる感じ・・・



過去の記憶を取り戻した菫



「・・・ました、土御門さん」



そして菫も、まったく台本にない台詞を口にしていた。



「殺しました、土御門さん」



「土御門さんの母親は、私が殺しました」



その言葉を吐くと、菫は膝を屈して、大粒の涙をボロボロを流す



「思い出しました。わ、わたしは、あなたの・・大切な・・お母さんを・・」



「私が悪い、私が悪い、私が悪い、私が悪い・・・」



呆然として同じ言葉を何度も何度も繰り返す



「ああ、ついに、この時がきたか・・・」良子は深いため息をつく。

観客席がざわつき始める

「おいチビ、そろそろ機材故障の理由にして」とセイメイは桜に向かって言うが、突然の展開に桜も我を忘れて注視している。



そして、そんな菫に近づき、頭を撫でる富子。



「違うよ。。。菫ちゃんは、悪くないよ」


「いえ、私が悪い、私が悪い」


「だって、私が菫ちゃんに言ったんだもん」


「富子様?」


「私が言ったんだよね、菫ちゃん」


「富子様、やめてください!」


「お母さんを・・」


「いや!」


富子はいままでに見たことのない冷酷な表情をしている。


「お母さんを殺してって」



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド



途端、大きな地響きがなりだす。



ドガアアアアアアン



大きな雷鳴とともに講堂の屋根が吹き飛んだ。



富子の周囲に黒い霧が立ち込めてくる。



「菫ちゃん、じゃあ、一緒に壊そうよ」




・・・気持ち悪くて・・




・・・みんな嘘つきで・・




・・・大嫌いな、大嫌いな、大嫌いな・・




・・この世界を壊してしまおうよ・・




「広橋!」

セイメイが良子に向かって叫ぶ。

「ああ、これはやばい」

良子は、モーションキャプチャールームに飛び込み、呆然としている菫を引きずり出す。

麻衣は、何がなんだからわからないまま、自力で脱出する。


「あちゃー、やってしまった・・・」

セイメイは苦虫を嚙み潰したよう顔である。

「ああ、これは全く予想外だ、想像外だ、不可抗力だ、でも怒られる、怒られる・・」

黒猫はそういいつつ、自分の周りに4人を集めて結界をはった。


黒い霧はどんどんと大きくなっていく。

そしてパニックになって逃げ惑う女生徒たちは、その霧に触れた途端、次々と倒れていく。

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