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【学園編】① ★運命の期末試験

「あーあ、いよいよ期末試験か、ほんとやばい。今度こそ確実に赤点だわ。落第とかまじにかっこ悪いわ。」

授業が終わり、友達と帰宅途中の私は、絶望していた。

あ、わたしの名前は、土御門富子つちみかどとみこ

都内では、そこそこ偏差値の高い進学高である「一文字女学院」の普通科に通っている高校生1年生だ。

土御門なんて、大仰な苗字だけれど、普通のサラリーマン家庭の一人っ子。

父は総合商社に勤務していて日本中を飛び回っていてあんまり家にいない。

母は私が小さいころに病気で亡くなった。


挿絵(By みてみん)


「つっちー、無理して一文字なんかに来るからよ。自業自得じゃよ。」

わたしの事を「つっちー」と呼び、そんな冷たい言葉を投げつけるのは、今井麻衣いまいまい

長い黒髪をツインテールにしている同じクラスの同級生で、近所に住む昔からの幼馴染。


「だって、わたし、絶対まいんと一緒の高校に行きたかったし。」


彼女のことを、私は、昔から「まいん」と読んでいるけれど、周りは「まいまい」と呼ぶ人も多い。

ちなみに彼女は、「まいまい」と呼ばれることをあんまり快く思っていない。


「おー、つっちー、何気ないその言葉でも、よくかみしめると、ぐっとくるな。抱いてやる。でもイカ臭いかな」

「抱かなくていいし。イカ臭くもないし。それよか勉強付き合ってよ。」

「ああ、じゃあ、後でつっちーの家に行くわ。」

「ありがとう!まいん、愛してる。じゃあまた後で、飲み物とかは私がコンビニで買っていく。」

そういってまいんと別れて、家の近くのコンビニで飲み物とスナック菓子と中華まんを買う。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

中華まんをかじりながら帰宅したわたしは、鍵を開けて、家に入る。


「ただいま」


それに返事をしてくれる人は、誰もいないのだけれど。


自分の部屋に入ると、私のベッドの上で寝ていた黒猫がよってきた。

真っ黒できめの細かい美しい短毛に大きな金色の目。

身体はそんなに大きくもないしゅっとした感じのなかなかの美猫である。


「お前も食べる?」


そういって、わたしは中華まんをちぎって、フードボールに入れてやる。

黒猫は、フードボールに近づき、くんくんと匂いを嗅いだ後、中華まんに口をつけた。




「うわ、あちっ!!」



その黒猫は叫んだ。


まるで女性声優さんが声をあててるアニメキャラのような声で。


「あ、ごめん、『セイメイ』」

「お前、俺を殺す気か!猫が猫舌だってこと、いい加減、覚えろニャ!」

黒猫が、わたしを睨みつけている。

「だから、ごめんって」

「ごめんで済んだら動物愛護団体はいらないニャ!5年以下の懲役または500万以下の罰金ニャ!」

「ああ、また罰金増えてんだ、結構きびしい」

「覚えとけ、まったくもう、まったくもうニャ」

ブツブツ言いながら、その黒猫『セイメイ』は水をペロペロと舐める



人語を話す黒猫とのたわいのない会話。

はた目からはかなりヤバイ光景ではあるが、わたしにとってこれが普通の日常になっている。



・・でも、これっていつからだっけ・・・



「そういえば、最初話した言葉なんだっけ?」

「ああ?」

「セイメイが、私に最初にかけてきた言葉だよ」

「『富子くん、実は君は勇者の子孫なんだ。君は選ばれし血統なんだよ。だからこれから僕と一緒に夢と冒険の旅に出かけよう』だったかニャ?」

「ああ、「確かトイレきれいにしろ」とか、「飯を早くだせ」とかそんな感じだったね」

「台無しニャ」

「それと、前から聞きたかったんだけど、なんで、セイメイは私に話しかけてきたの?

私が小さいころは普通の猫だったじゃない?」

「聞きたいか?」

「うん」

「先に言っとくけど、お前、それ聞くと、かなり落ちるぞ」

「いいよ、教えてよ」




「お前がいい子にしていたからな」




「ああ・・そうだね」


子供の頃の記憶。


母がよく読んでくれた言葉をしゃべる猫が出てくる童話。

大好きで何度も読んでもらっていて、そのたび、私は、「うちのクロちゃんもしゃべるようにならないかな」と言っていた。

そう言うと、母は決まって私にこう応えた。


「富ちゃんが、いい子にしていればきっとなるわよ。」


・・そして優しかった母がいなくなって、私は一人になって・・・


自然と目に涙がたまってきた。

涙腺がゆるくなってきたのは年のせいか。


「おい、先に忠告していたからニャ・・・いや・・ごめん・・」


・・いや・・そうじゃなくて、だって誰も話し相手もいないさみしかった私にさ・・・


「やっぱ、セイメイ!大好きだよ!」


わたしは、セイメイを抱きしめて頬ずりする。


「お前、やめろ、暑苦しいニャ。それに俺はそんなにお前のこと好きでもニャい!」


そんな感じで、わたしは、実は優しいやつと勝手に思っている相手に一方的な愛情を注いでいると、スマホに通知がきた。


「あ、来た。」

わたしは玄関に向かう。

その後をセイメイがついてきた。

「まいん、早かったね」

「つっちー、ちーす」

「なんだ、ツンデレ女か」

「うわっ、猫がしゃべった!」

「わざとらしいニャ」

「セイメイちゃんニャーす」


まいんとわたしは部屋に戻る。

床に座ったまいんはいきなり、ゲーム機の電源を入れる。

「ねぇ、まいん試験勉強付き合ってくれるんじゃないの?」

その言葉に応える気が全くなく、コントローラーを握りセイメイと雑談を始めるまいん。


「ねえ、セイメイって猫になる前は何だったの?」

「未来の世界のイケメン陰陽師ニャ、富子という極悪非道の悪魔にこの姿に変えられてしまったのニャ」

「まいん、見た目おっさんだよ、陰気くさい。それ以外は大体あってる。」

「へぇ、なんで未来からやってきたの?」

「この世界を滅ぼすためニャ。」

「マジか、でもしゃべる猫だし、本当、それやりそう。マジでこわい、でもなんですぐ滅ぼさないの」

「まあ、この世界は、働かなくてもいいし、ゲームとか動画とかで時間も潰せるし、秋アニメ豊作だから、そっちに忙しいニャ」

「ひきニート乙」

「家猫は、もともとひきこもりがデフォだろうが!」

「それもそうだね。ゲーム、アニメ業界のみなさーん、世界の破滅がこないように頑張ってください。」

コントローラーをたくみに操るまいん。このステージがクリアできそうだ。

「それと、あとは、復讐ニャ。お前らに対しての」

「まじか、それ怖いわ、でもどうやって?」

「こうするニャ」


ブチッ


その黒猫は、ゲーム機の電源をコンセントを抜く。


「おい、てめえ!クリア直前だったんだぞ!この馬鹿猫!」

まいんは、セイメイの足をもって逆さ釣りにする。


「やめろ、ツンデレ!動物虐待ニャ、何も知らない無邪気な愛玩動物がコンセントにぶつかっただけニャ。

動物愛護団体に訴えるニャ!お前に勝ち目はないニャ!」

まいんはセイメイをおろす。


「あー、むかつく、じゃあ、つっちー勉強でもすっか」

私たちは、テーブルの上に教科書と問題集を開く。

セイメイは、可愛らしく足を揃えてテーブルの上にちょこんと座る。

私は、苦手な物理から始める。

「あれ、この問題よくわからないな、答えは、2かな。」

「3だろ、問題をよく読めニャ」

まいんは、その問題をのぞき込む。

「お、合ってんじゃん、この猫、賢いな」とまいん。

「セイメイは天才なのよ!」と少しドヤ顔の私。

「つっちーが、ドヤるとこじゃなくね」

「セイメイは、マークシート式のテストならほとんど合格できるし、資格も結構持ってる。」わたしは我が子のように自慢する。

「へえ、猫が資格とれるんだ、どんな資格持ってるの?」

「甲種、乙種全部ニャ」

「うわ、危険物取扱ばっか」

「ふん、周りに危険物が多いからニャ」

「えっ危険物って?」

「お前らのことにゃ!少しは自覚しろニャ!」

「むかつく猫だな、でもつっちーさあ、セイメイが資格持ってるからあたしたちガソリンスタンドとかやれるじゃん。」

「はあ?この時代に新規にガソリンスタンド開業するやつがいるかよ。少しは新聞とか読めニャ、ツンデレ!」

「うわっ、この猫、新聞読めとか、うちの父親みたいなこと言う。ちょっとひく」


その後は、セイメイの妨害もなく、いや、むしろ協力もあり、わたしたちの勉強は進んだ。


夜も遅くなってきたのでまいんは自宅に帰る支度をする。

玄関でまいんはつぶやく。


「セイメイって口は悪いけどいいやつだな」

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