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【軌道戦士編】⑮有頂天 ~ 竹林も彼女にそれを求める。

「五家の封印が解かれし兆しあれば、如何にもそれを防くべし」

竹林家に古くから伝わるの家訓。


・・・しかし、それは300年前に失敗してしまった・・


決して開けてはならないという五家の誓約を破り、パンドラの箱を開けた有馬家。

900年の長い年月をかけて蓄積された「空」の世界の魔力を再び解放した。

そしてそれは「エーテルポットン」という夢のエネルギーとして、エネルギー不足により滅亡寸前だった人類を救った。

だから有馬のやったことがすべて間違いだったとは、言えない。

しかし、その後の戦争で、「空」の魔力を使った悪魔の兵器が180億もの人類の命を奪ったことも事実だ。


何が正しいのか?正しくないのか?


私にはそれはわからない。


・・・そして・・・


・・・私の生まれた年に、私の家は、その手を汚した・・・


それを土御門富子は許してくれるのだろうか?


そんなことを考えつつ、ボディチェックを受けた竹林は、須弥山の真壁中将の執務室のドアを叩いた。

手錠をかけた富子を連行している。


「ご指示通りに、鍵を連れて参りました。」竹林は真壁に言う。

「ご苦労だった。これで鍵がそろった。扉を開き無限の力を儂が得るための鍵をな」

「では、約束通り、私の兄を、諜報部所属竹林大尉を解放してください」

「誰だ、それ?」

「お忘れですか?アハル・キラ首相を暗殺した諜報部員竹林です。」

「ああ、そんなやついたな、俺はそんなやつだったような記憶もあるな。最近、身体を変えるのことが多くてな。

あ、そうそう、お前に鍵を集めさせるために、アハル・キラだった俺を殺させて、俺が乗り移ったやつだったな。それ。」

「はい。」

「まあ、その後になんか言いにくい名前の中佐にそいつを殺させて、この真壁にその中佐を殺させたんだったな。」

「色々と大変ですね、では」

そういうと、竹林は、富子に近づき彼女の服のポケットから何かスマホのようなものを取り出した。

折り畳み式小型拳銃である。装弾数は1発だが十分に殺傷能力のある凶器を真壁に向ける。

「今度は、私の身体に移って頂きます。安倍晴明。」

カッ、そして竹林は口の中で何かを噛んだ。

「ハハ、お見通しか。さすがは、日野の執事家だけのことはあるな」

「今、私は遅効性の毒を服用したので、あと5分くらいで死にますね。そしてここにいるのは、貴方と私と富子しかいない。

私はこの銃であなたを殺す。あなたは霊体ではそんな長くここには留まれない。死んで、また無数の霊体として散っていくか、私に憑依するしかない。あなたは、五家の血を引く富子には当然憑依できないですしね。」

竹林の口の端から血が流れる。そして富子のほうを振り向く。


「富子さん、私に安倍晴明が憑依したら、お願いをしてもいいですか?


こんなお願いをいまさらするのも筋違いかもしれないないと思うのだけれど


ほんの少しの時間でいいから・・・


私のことも好きになって頂けませんか?・・・


私のこともいとおしく思って頂けませんか?・・・


私のことも愛して頂けませんか?・・・


それができれば、私は打ち勝つことができると思います・・・


そして、安倍晴明を振り払い、お兄様のところに行かせてほしいのです・・


本当に勝手なお願いなのだと分かっているのだけれど・・・」


「た、竹子、いやだよ!そんなの!


竹子のやってること、言った事、間違っているよ!


だって私・・・・


竹子のことだって、


昔からずっと好きだったもん!」


「と、富子さん・・・」


「ハハハ、お前、日野の執事の娘、その彦仁の忘れ形見の親の仇のくせに、恥も外聞なく、よくそんな頼み事ができるな。

それとその作戦。まあまあ、いい線まで行っていたけど、残念ながら0点だよ。

お前の身体に俺を憑依させてから、その彦仁の忘れ形見の力で、俺を浄化して、俺の中に僅かに残っているお前の兄とやらの魂のかけらとともに魂が永遠に彷徨う場所に行くか。

まあ、方向性としては、間違ってはいない。ただ、お前にも見落としがある」

安倍晴明は、机の上の端末のディスプレイを見ながら言う。

「俺は、別に直接目をみなくても憑依できる。例えば、ディスプレイごしの相手であってもね。」

「なるほど、残念ながらそれは私の見落としだったわ」

竹林は銃口を下す。

「なんだ、撃たないのか」

「えぇ、私の知り合い、いや友達が、ターゲットは、真壁だと思っているから、いまはこのままのほうがいいわ」

竹林の身体は崩れ落ちる。そして富子に向かって。


「これは私への罰なんですよ。富子さん、竹林が土御門に対して行った罪に対しての」


「竹子!」


「それと、良子によろしく、私の大切な・・・」


そういって竹林は目を閉じた。



「さあ、彦仁の忘れ形見。お前は、いまから俺と宇宙に上がってもらうぞ。

いよいよお前の出番だ。

俺はお前の鍵を使って、5大世界に溜まっている霊力を、俺の世界に流し込む。お前らが「闇の世界」と呼ぶ場所にな。

そして、その無限とも言える力を使って、この世界を消し去って、作り直す!

むかついてたまらないこの世界をな。

お前も、俺と一緒に特等席でそれを見物させてやるから感謝しろよ。」


富子をつれた安倍晴明は、シャトルに乗り込み、宇宙に上がる。

その行先は、ニューフロンティア軍の宇宙要塞衛星『有頂天』である。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

流星号と轟天号は、須弥山の指呼の距離にあった。

第1基幹駅からは、ここまでは、流星号が轟天号を牽引してきた。

ちなみに、轟天号は、EP給電がない場合は、蓄電池によって2時間程度の稼働が可能である。


良子たちは、1機のシャトルが宇宙に向かって駆けあがっていくのを見る。

「元解放軍の将軍専用機。あの機体に真壁が乗っている。多分、富子を連れて」

ニューフロンティア軍の軍用ネットワークをハッキングした今依は語る。


「行き先は、『有頂天』か」と良子。

「えぇ、たぶん、そこで晴明は、鍵を、富子を使って最後の儀式をするんでしょう。」

「まいまい、私もそう思うわ、で、いま晴明って言った?」と良子。

「あ、なぜだろう、真壁のことを知らずに晴明といった。なぜだか、真壁が安倍晴明だと思えた」

「まいまい、私もいま、あいつが、安倍晴明だと思う。なぜだろう」

「良子さん、今依さん、あれは安倍晴明です」菫は断言する

「私もなんとなくそう思うよ、知らんけど」と桜。

「よし皆!宇宙に上がろう!そして安倍晴明を倒して、富子を取り戻そう!」

「そのためには、まずは、須弥山に集結している敵軍をなんとかしないといけないわね」


そして、良子は、視聴者に向かって告げる。


「それでは、皆さま、休憩のため配信を一時中止します。1時間後に再開の予定です。

お楽しみにお待ちください。」


すでにチャンネル登録者は1億を超えていた。



須弥山。

遥か上空から、それを眺めることができれば、三枚の葉のついた小枝のようにみえるかもしれない。

東に長く伸びる枝が、マスドライバー本体。

紡錘形の三枚の葉が、北部・西部・南部のそれぞれの路線のターミナルエリアである。

ベルンシュタイン帝国の北部線は南部ターミナルに接続する。

各長距離線は、ターミナルエリアに入ると、扇状に32の線路に分岐する。

葉の真ん中あたりには、32の荷渡しステーションが設けられている。

貨物列車から打ち上げ用シャトル列車への貨物の授受が行われる場所である。

なお、貨物列車とシャトル列車の線路規格は同一であるので、貨物列車は、行こうと思えば、マスドライバーまで行くことはできる。

ステーションからみてマスドライバー側の32本の線路は、最終的に1つに集約され、マスドライバー本体と接続する。

その100本近くの線路の運行管理のために、解放軍に占拠される前は、数百人のスタッフがその仕事にあたっていたが、現在は大幅に人員を削減している。



流星号を積載して、須弥山に向かって侵攻してきた轟天号の最後尾には、ブースター車らしきものがついていた。

ニューフロンティア軍は、それに、大気圏脱出能力をあると考えた。

そのために轟天号が宇宙に上がることを阻止すべく、各戦線からかき集めた30両近くの装甲列車を南部ターミナルの線路上に配備する。

装甲列車の行動の邪魔となるシャトル列車は、すべて西部ターミナルに移動した。

そうして装甲列車の配備をターミナルエリアの中心に近いほど、その入り口から遠くするという、まさに鶴翼の陣をとり、轟天号を迎え撃つ万全の体制をとった。


ニューフロンティア軍の装甲列車群と轟天号の戦闘が開始された。


轟天号は、ターミナルの入り口付近で巧に前進と後退を繰り返し、ニューフロンティア軍の集中砲火を避ける。

ニューフロンティア軍の司令官は、考えた。

豪天号の狙いは、中央の部隊の突出を誘い、その突出した中央部隊との混戦状態をつくり、左右からの攻撃を無効化させる。

その上で一気に中央突破を図るのであろうと。

「敵の誘いに乗るな!陣形は決して崩すな!」そうニューフロンティア軍の司令官はそう命じる。

「我々の使命は敵が宇宙にあがることを阻止することにある。持久戦・消耗戦に持ち込めば、わが軍の勝利は間違いない!」


開戦後、1時間、突如、それは起こった。


「指令!マスドライバー上に煙を吐いた列車が走っております!」

流星号である。

流星号が、猛烈な速度でマスドライバーを駆けあがっていく。


「どうだ!流星号の瞬間ワープ機能は!驚いたか、ニュ軍め」桜は得意満面である。

「いや、そんな機能ないから」と今依。


種明かしは簡単で、北部線から、東部線(須弥山からみて)の間に、主に保線用車輛が利用する路線があり、轟天号と別れた流星号はそこを通り、西部ターミナルに入り、無造作に放置されていたシャトル列車と連結してマスドライバーに上がっただけでの話である。

ちなみに、轟天号にのっている流星号はダミー。もちろん、轟天号は、それ単体では大気圏脱出能力はない。

最後尾のブースター車らしきものは、流星号から切り離した不要な車輛を偽装しただけである。


「まずい、全部隊、マスドライバー上の列車を攻撃しろ!」

「指令!ですが、マスドライバーに被害が及びます!」

「では、小火器、機銃で対応しろ!」

ニューフロンティア軍の混乱に乗じて、轟天号は突出し、敵の装甲列車を次々と撃破する。

ニューフロンティア軍の混乱はさらに拡大する。


そして、すでに流星号は、第2宇宙速度を超えていた。


ニューフロンティア軍の司令官は、呆然とそれを見送るしかなかった。

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