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【軌道戦士編】⑭有料広告 ~ 『空』の刻印

土御門つちみかど。それが富子の本当の姓よ」


轟天号のブリッジで良子は、今依と菫と桜にその秘密を明かす。

「だから、富子が受けた刻印が土のものであれば、あの呪いがやはり消えていない証拠になるわ」

「広橋、何いってんのかわからない、洒落?冗談?それに土御門って」

「だから、富子の実の父と母は死んだ。あの呪いを断ち切るために命を絶った。」


そして良子は説明する。

五家にまつわる呪いのこと。良子と富子が実の姉妹でないいきさつ。


「私は、8歳の時にそれを父から聞かされたわ。

広橋への養子縁組が決まった頃よ。

私は、その時、なんで、私が養子に行かされるのか、納得できなかったかもしれないわ。

もしかしたら、その時に富子を激しく憎んだかもしれない。

でも、そんなことよりも、その時からなのよ。」


「私は、富子のこと、世界で一番好きな私の妹、大切な妹、大好きな妹、自分が死んでも守りたい妹、

いつもそう思っている。


でも時折・・・


・・・そう自分に思わせているだけじゃないの?とか・・


・・・本当は富子が好きじゃないのかもしれないとか・・


それを思うと不安でたまらない、心が割れそうになる・・」


「父は、言ったわ、富子に実の姉妹でないことは、自分からは言わない。

それは私に決めるように言った。

私は、いままで言えなかった。

怖くてしょうがなかった。

それを言ったことで富子が変わってしまうんじゃないかと思って。

例え、富子が変わらなくても、私が変わってしまうんじゃないか思って。

富子が私の妹じゃなくなることが怖くて。」


「今、富子と私のことを知っているのは父と執事。

竹林は知っている。

そして竹林は、多分、それをもう富子に言ったと思う。

だから思うの。

だから私の知っている富子はもういなくなってしまったんじゃないかって

こんな、心の汚い私、もう富子に合わせる顔がないじゃないかって」


良子は涙を流し嗚咽する。


そんな良子の姿を見た今依は、


「あっそ、じゃあ帰ろうか。広橋」


と冷たく言い放った。


「えっ?」

「富子に会いたくないんでしょ。桜、あ、そこ、そこの反転路に入って。」

「うん」

桜は減速レバーを引く。

「いや、あの、ちょっと、まい!、桜!」

「何だよ、広橋!大体、呪いとか、その話、富子の前に生まれてきた私たちが悪いみたいな感じじゃん、マジむなくそ悪い!」

「わたし、そんなつもりじゃ」

「じゃあどんなつもりよ。そもそも、あんたはどっちなのよ!富子に会いたいの!会いたくないの!」

「だから、わたしは富子に合わす顔がないと・・・」

「あーー、もう!それは、会ってからの話でしょ!今、会いたいのか、会いたくないのか、今の気持ちを言えよ!」

「あ、会いたいよ、富子に会いたいよ、そんなの当たり前じゃない!」

「早くそれを言え!くそうぜえ女!」


そして今依は自分の顔を、良子の顔にぐっと近づけて囁く。


・・・良子姉ぇは、富子だけの姉ぇじゃないんだよ・・・


・・・富ちゃんの親友の私にとっても大切な姉ぇなんだよ・・・


・・・多分、菫にとっても桜にとっても・・・


だから・・・


「富子に会って、富子が何も言わなくたって、あたしは、


良子姉ぇを詰ってやる!!!


良子姉ぇを詰って詰って罵倒してやる!!!


良子姉ぇを罵倒して罵倒しまくってやる!!!


それで、せいせいして良子姉ぇを許してやる!!!


だから・・


今は・・


それで我慢なさい。日野良子」


「うん」


良子は、今依の胸に涙に濡れた顔をうずめる。そして


「ねぇ、まいまい、私、あなたのお姉ちゃんだったかな?」


「お姉ちゃんじゃなかった時なんか一時もなかったよ。」


「私、今もお姉ちゃんになっているかな?」


「いまもそうだよ」


「私、これからもお姉ちゃんでいいのかな?」


「よくないわけないよ」


「私、死ぬまでお姉ちゃんでいいのかな?」


「お姉ちゃん、それはちょっと違うよ」


「えっ?」


「死んで、生まれ変わっても、何度生まれ変わっても、お姉ちゃんは、お姉ちゃんだよ」


「あは、まいまい、それじゃ、全然練習になんないよ・・・」


泣き笑いの良子。


「まいまいって、ほんと意地が悪くて、賢しくて、わざとらしくて・・」


涙でぐしゃぐしゃになった良子の笑顔をみた今依はちょっと悔しくなる。



・・・くそっ、また練習台にされた・・・



・・・私だって練習しときたいのに・・・



・・・富ちゃんにあった時の練習しときたいのに・・・



・・・また恥ずかしいこといっちゃわないように・・・



・・・心構えしときたいのに・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「よう、お前ら、マイハニーがいないと、随分しけた面になるんな、ハハハ」

義政中将が轟天号のブリッジに入ってきた。

「あんた、婚約者が命の危険に晒されているのに心配とかしないわけ?」

「まいまいちゃん、あいつが俺が心配することを望んでいると思うわけ?」

「それはそうだけど」

「そんなことより、お前ら配信チャンネルもってる?できるだけ登録者多いのがいいんだが。」

「あるけど、私のはちょっと。。。」

「あー、広橋のは15歳未満には不適切なコンテンツだからね」

「私のはこれです。」

そういって菫が画面を指す。意外にもチャンネル登録者は多い。

「えーと、『初心者でもわかるトカレフ改造法』、『5分でできる即席爆発装置』、、ああ、ちょっとあれだね。やめとこ、まいまいちゃんは?」

「私は、ちゃんねるなんかないわよ。」

「義政中将。これです。」そういって菫は画面を指す。

「ああ、なんだこれ?『国際遺伝子バンクのメインサーバーを落としてみた』、『世界電子決済のレートを変更してみた』、やべえ、まじやべえ、まいまいちゃん、やべえ、これ」

「菫!なんで知ってるのよ!」

「あのう、まいんさん、以前、『2人で2個大隊を殲滅してみた』ってコラボ企画やった時に」

「うわ、うそ、これ別人です。これ別人です。」

「つかえなーな。お前ら。桜たんは?」

「私はこれです。全年齢okで登録者は870万人です。」

「キハ181?、169系?、583系?、なんだかわからんけど、ここでいいか。」

「で、何をなさるのですか?義政中将は」良子は首をかしげる。

「あのさ、俺まじ思うだけど、お前ら「ニューフロンティア共和国」っていいとか思わね?。世界平和みたいで。もう帝国なんか捨ててさ、あっちの国に行きたくね?」

「あ、そういうことですね。まいまい、配信の準備して」良子は理解した。

「了解」


あっと言う間に今依によって世界の主だった検索エンジン、動画配信サイト、SNSのメイン広告パネルは占有される。

「ごめん、桜、悪いけど、あんたのおじいちゃんの会社のアカウント使わせてもらったわよ」一応、謝る今依。

「おお、有馬のアホ娘。やるのう、その広告費、もはやわが重工の年商の1年分じゃ!ワハハ!」なぜか喜んでいる六分寺会長。

「どーでもいいけど、この『いつも脱ぎすぎる帝国女性士官からの大切なお知らせ』ってバナーなんとかならないの?」

良子は自分の端末を見ていう。

「はあ?広橋、それ、行動ターゲティング広告にしてんだけど。」

「ごめん、忘れて」そういって顔を赤らめてクッキーと検索履歴を消す良子。


良子は世界にむけて配信を開始した。


「わたしは、ベルンシュタイン帝国軍第8戦略軍独立機甲部隊第一特務装甲車輛小隊の広橋であります。

私は、先般、独立を宣言した「ニューフロンティア共和国」の建国の志に深く共感を覚えました。

そのために、本隊の5名は、貴国への亡命を希望すべく貴国への入国をさせて頂きます。

貴国の寛大なご措置と保護を求めます。

なお、我らと志を同じくする人々の賛同を得たいと思い、「ニューフロンティア共和国」のご厚意を遍く広めるためにも、これからの状況をリアルタイムで配信させて頂きます。

そしてよろしければ、チャンネル登録お願いいたします。」


そしてローエンラントに到着した流星号は、轟天号と別れ、第二基幹駅に向けて北進する。


「良子殿。次の基幹駅についたら、手間かもしれんがEP解放をお願いする。儂らもすぐ行くじゃて」と六分寺会長。

「お、お前ら、富子によろしくな」義政中将も手をふる。

「じゃあ、俺らも配信始めるか」


「よう。真壁見てるか?

俺の部下が、俺を見限って、おめぇのとこに亡命しやがった。

まあ、そっち行ったら仲良くしてやってくれ。

と言いたいところだが、あいつらは、俺らの国の重要な国家機密を持っているわけ。

でさあ、おめぇの国との間に引き継がれた旧解放軍との亡命者に関する協定は知ってるよな。

国家に重大な危機をもたらす機密をもった人物の亡命を相互防止するために、亡命希望者を保護するために相互入国を許可するってやつ。

俺の立場的にはよう、あいつらを捕まえてなくちゃいけないで、これからお前の国に入るから、そこんとこよろしく。

あと、


よろしければ、チャンネル登録お願いいたします。」



「ふん、あじな真似をしよるわ」

良子と義政の配信をみてそう吐き捨てる真壁少将。

モノクルをかけ、膝の上に黒猫を抱き、ワイングラスをもち、すっかり悪役ラスボス役が板についてきている。

「閣下、いかがしましょう。」副官が尋ねる。

「私はこれから宇宙そらに上がる。欧州、ユーラシアからの戦力を可能な限り、ここ、須弥山に集めとけ。やつらが宇宙に上がることを絶対阻止しろ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

良子たちは、第2基幹駅であるローエンラントに到着し、EPを解放する。

そこで、あの鍵の少女に対面する。


「土の刻印でした。」少女はそういった。

「やっぱりそうか、私があそこで「ひの」刻印を受けた時に、その予感はあったのだけれど」良子は悲しげな顔をする。

「広橋、次は、最後の基幹駅リアラントか。空の刻印。残っているのはあたしだけか」

「あそこには何もありません。」少女は今依の手を握る。

「空の刻印はすでにあなたに刻まれていました。」

「えっ?いつから?」今依は驚きを隠せない。

「300年前から。その時、空の封印は解かれ、刻印は代々引き継がれていましたから。」

「そして、富子様には、土水火風空すべての刻印が刻まれ、鍵は完成しました。だから私の仕事は終わったのです。」

「最初の駅で、今依様の「空」と菫様の「風」を、次の駅で桜様の「水」を、三番目の駅で良子様の「火」を富子様に写しました。」

その少女は去り際に、今依に1枚のメモを渡す。

「竹林様から、有馬様へのこれを渡すようにと」

今依は、そのメモを見る。


・・・最後の鍵は空・・


メモにはそう書かれていただけであった。

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