【軌道戦士編】⑫虚飾の宴 ~ 見つけてくれてありがとう
「誰?あのきれいな人?」
「今まで、見たこともない麗人だな」
「どこぞの国の姫君ではないですか」
張りのある艶やかな肌。深く澄んでいて、そして柔らかなまなざし
やや切れ長の大きな瞳とそれを彩る長いまつ毛。
整った鼻筋に、ピンク色でつやつやした可愛らしい唇。
亜麻色の髪は、ふんわりかき上げていて、まるでディズニー映画に登場するプリンセスのようである。
その美しい女性に対して男女問わず、思わず声をかける。
「あの、お名前を」
「申し訳ございません。訳あって本日は名乗りを控えさせて頂いております。」
彼女は片足を後ろに引いて軽やかなお辞儀をしてさっていく。
しかし、彼女は、
・・・つっ、だめじゃん!騙された!・・・
・・・もうつまらないわ、こんなの・・・
そう独白し、パーティ会場から庭に出ていく。
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半日前
「良子姉ぇ、だから、そんな貴族ばっかのパーティなんか行かないって言ったじゃん」
解放軍地球展開軍との突然の休戦で帝都ラインブルグに帰還した富子たち。
街中が、休戦で浮かれている。
「富子、あんた、うちらも貴族なこと忘れたの?」
「だから、余計いやなのよ、あんなやつらと一緒だと思うと」
「パーティ会場のご馳走や高級なワイン、その費用の一部は、かつてあんたたちのせいで、国から貴族に払った通行料よ」
「それこそむかつく」
「そうだ、富子、こうしない?貴方が私の変装をするの、それで私があなたの変装するのよ。それでみんなを騙すのよ」
途端、富子は目を輝かせる。
・・・はは、かかったな・・・
富子の持ち前の悪戯心に火がついたようだ。
「じゃあ、メイクしてあげる、こんな感じかな」
「え、良子姉ぇ、これであってる?全然良子姉ぇには見えないよ。あたしには」
「富子は、私のパーティーでの姿知らないでしょ。私はパーティーではこんな感じなのよ」
「そっか、わかった。」
「いい、富子、名前聞かれても答えないでね。そして良子さんですかと言われたら、はいっ答えるのよ」
「うん、わかった。なんか面白そう」
「良子姉ぇのメイクは?」
「あたしは、後で自分でするからいいよ」
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パーティ会場の壁側の椅子に良子と今依は並んで座っていた。
そしてその美女が次々と男女問わず話しかけられる姿を眺めていた。
「ねぇ、広橋、あんた、こんなことして面白いと思った?」
「まいまい、確かに思ったほど面白くはないわね。でもあーでもしないと富子を連れてこれないでしょ。」
「ああ、そうだね。でも、広橋、あれで富子があんたの変装させたつもり?
もっと、ちゃんとやれば、完璧な変装だってさせることができるのに」
「うん、そーだね。でもこれでいいんだよ。私の変装でない普段と違う富子を見たかったし。
装った富子を見せたかったんだよ。
そして富子を見つけることができる人がいるのか知りたかった。」
「いた?そんな人。」
「いまんとこゼロ」
「でも広橋が、一番やりたかったのは、富子に装うことを経験させることでしょうが。」
「そうかもしれないなあ」
「まあ、わかるけど、あー、ほんとあんたたち姉妹ってめんどくさい。」
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今宵のパーティで富子とともに話題をさらったもう一人の人物。
その美青年は一人壁際で物思いにふけっていた。
純白の肌に美しい金髪、澄んだ碧眼。小柄ながら細くしなやかな身体。
会場の誰もが、その人物の名前を知らない。
そんな近寄りがたい美しさをもつ美青年に臆面もなく近づいていく男がいた。
「よう、そこの怖い顔したお兄様。飲んでるか?」
「は、これは。桐生義政中将閣下。自分、勤務中でありますので。」
その青年は、義政に対しておもわず敬礼をする。
「お前、キャラ設定崩れてね。それ、その服装、どこぞの青年貴族とかの設定じゃねーの?」
「じ、自分は、、、」
「隠密に警護ということなら、少しは飲んでたほうが正体もばれんだろ」
そういって、ワイングラスを渡す。
「は、はい。」
その美青年はワイングラスに口をつける。
「おい、お前、お前のご主人、じゃなくて、今日話題になっているあの美女どこいったかしんねねー?」
「と、いや、その方なら、先ほどお庭のほうに」
「あ、ありがと、じゃあ」
「失礼ですが、閣下。もし閣下がその方に何か変なことされましたら、」
「したら、、」
「あの、その、閣下の御身に危険があるかと存じます。」
「ははは、まじか、それ、それ受ける」
「冗談ではないのです」
「それはないね、
だって、俺、今まで、あいつに変なこと以外したことないけど。
常にあいつに変なことしてるけど。
そんでお前に殺されたことないし。
あ、殺されかけた事はあったか。」
「閣下、し、失礼いたしました。」
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桐生義政は、庭で一人しょぼくれているその美しい女性に声をかける。
「お嬢さん、美人が台無しですよ。」
「桐生義政中将様!」
「お顔を上げてください。あっ、君はもしかして、広橋良子さんですか?」
「えっ。はい、良子です!なんでわかったんですか?」
「だってその顔を見れば。。。」
ここで言葉をきる義政。そして
「なーんて、言うわけねぇだろ!馬鹿富子!」
「ちっ、うるせーぞ、ちゃらお!」
「ハハハ、マイハニーが、そんな化粧してマジうける、似合わねー」
「よく見ろ!このろくでなし!私だってちゃんとすれば可愛いんだぞ。」
「正直に感想言っていいか、マイハニー。パーティでのお前の姿。」
「言ってみろよ」
「きしょい」
「最低!信じられない!それが女子に言うセリフかよ!
私だって傷つくぞ!。そして今時、きしょいとか言わない!」
「ハハハ、だってきしょいじゃん。
さっきのお前に限らず、何かを隠しているやつとか、本当の自分をみせないやつとか、うわべだけで装うやつはきしょいっしょ。
お前だってそう思うだろ。」
「それはそうなのだけれど」
「お前さっきさ、俺がお前のこと、良子って言った時、そんなに面白くなかっただろ」
「うん、全然、面白くなかった」
・・・むしろちょっと悲しかった・・・
・・・だから・・・
・・・私のこと、富子って言ってくれて・・・
・・・私のこと、ちゃんと見つけてくれて・・・
・・・ようやく見つけてくれた人がいて・・・
・・・ちょっと嬉しかったんだ・・・
・・・あれっ、なんで涙が出てくるんだろう・・・
・・・ちょっと恥ずかしいなあ・・・
あわてて手で目もとを隠して表情を消そうとする富子。
「おい、マイハニー、まじで泣くなよ。」
「えーん、義政くんが虐めた、パワハラで訴える、婚約も解消する、慰謝料も請求する」
「ハハハ、それは重畳。そうそう、泣いていると言えば、お前の可愛い子犬が泣きそうな顔で待ってるぞ。早く行ってやれよ」
「うん、わかったよ、ありがと、義政」
「じゃあな、富子」
・・・くそ、義政、ちょっと格好いい。いかんいかん・・・
富子は、パーティ会場に戻り、下をうつむいている菫のもとに近づいていく。
菫の横には、良子と今依もいる。
「菫、待たせたね」
富子は、そういって菫の顎に手を伸ばして顔を上げさせる。顎くいってやつだ
「は、はい」
顔を赤くして富子を見つめる菫。
「はあ?お前ら、それ逆逆」今依は呆れる
「いつもの受け癖が抜けんか、菫!リードリード」良子がエールを送る。
「では、踊りましょう、菫」
そういって菫の手をとった富子は、パーティ会場のセンターへ。




