【軌道戦士編】⑩休息 ~ お礼は少しづつお返しします。
「良子姉ぇ、まさか作戦途中で、ラインブルグに戻れるとは思ってもいなかったよ」
「ジムと流星号の修理や改修のためには仕方ない選択よ。4、5基幹駅への兵力の配置も完了しているから、すぐに解放軍に奪還される可能性は少ないわ。」
「私たちも休暇貰えてラッキーだよね」
「富子は今日はどうするの?」
「デートよ、デート」
「まさか義政と?」
「あり得ないわ、菫よ、そういう姉は?」
「私は新台うちにいくわ。」
「パチンカス乙。アラサー女子さみしいのう、じゃあ、私行くね。」
富子と別れた良子は裏路地に入っていく。
一人の物乞いが良子に寄ってくる。
小さな袋を投げる良子。
「姉御いつもすいやせん」
「で、何かわかった?竹林兄について」
「例の作戦からの足取りですよね。やはりここに戻ってから何回か妹さんには合っているようです」
「それは、私も知っているわ」
「そうすよね。それとこれ、竹林兄のアクセス記録です」
「北部線?それも基幹駅の情報?」
「こんなのもありますぜ」
「五大術式、それに尊卑分脈、何かしらこれ?」
「あっしにもよくわからないですがね。」
「ありがとう、引き続き調査をお願いするわ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「菫、お待たせ」
「富子様、こんにちは」
「今日は、どこに行こうか?菫は、普段どういう店に行くの?」
「あのう、ちょっと法律上、問題のあるお店ですとか、闇市ですとか」
「ああ、武器の密売所とかね。それは今日はやめときましょ」
「じゃあ、ちょっとブラブラしましょうか」
富子は歩きだす。
菫は、その斜め後ろを歩く。
「ちょっと!菫」
富子は菫の手をとる。
「もう護衛じゃないいんだから」
手をつないであるく2人。
「菫は何か欲しいものある?」
「SR-47っていうアサルトライフルなんですが、なかなか手に入らなくて」
「ごめん、それは無理だわ」
「もっと、その、女子が欲しがるようなものとか・・」
「女子は何を欲しがるのですか?」
「例えば、洋服とかアクセサリーとか化粧品とか・・」
「・・・・」
「まあ、いいわ、そこ帝国百貨店に入りましょう。」
「はい」
1階は、化粧品売り場である。
2人とも普段は、化粧はほとんどしない。
富子は時々、リップを塗るくらい。
菫にとって化粧品とは不要なものであることは言うまでもない。
・・菫は興味ないだろうな・・
すると菫が口紅売場で足を止め、念入り眺めている。
「菫、それ特殊弾とかじゃないわよ」
「はい、一応知ってます。でもこの色」
「ん?」
「同じです」
「何が?」
「富子様と同じ色です。富子様の唇と同じ色です」
「わかった」
富子は店員を呼ぶ。
「これをお願いするわ」
「妹さんですか?」
店員は尋ねる。
「違うわよ!彼女よ」
その言葉に顔を赤くする菫。
「お客様、ここで、おつけになってみますか?」
「菫、そうして貰いなさいよ」
「はい」
椅子にちょこんと腰かける菫。店員は、口紅を菫の唇にあてようとする。
「あの・」
菫は、富子のほうを向く。
目が訴えている。
「あ、はい。すいません店員さん。この子恥ずかしがり屋なんで、私が塗ってやってもいいですか?」
「お客様、どうぞ」
富子は、菫の形の良い唇にあて軽くひく。
「うん、かわいい。菫に化粧品はいらんと思っていたけど、そうでもないか」
「ありがとうございます。」
その後の他愛無いおしゃべりとウィンドウショッピング。
日が暮れつつあるので、2人は帰途につく。
「今日はありがとうございました。こんなプレゼントまで貰ってしまって。」
「いいのよ。いつものお礼よ」
「私も富子様に何か、お返しがしたいのですが、、」
「お返しなんて、そういうものは少しづつ返していけばいいのよ」
「そうですか。では」
そういって菫はいきなり富子の肩に手を当てて顔を近づけてきた。
そして
えっ?
・・柔らかいとろけるような菫の唇の感触・・・
「富子様、あのよろしかったでしょうか?口紅を貰ったらこうやってお返しをするものだとある人から伺いまして」
「菫!ありがとう!最高のお返しだよ!でも、ある方って誰?」
「義政中将様が」
「あのばかあああ・・・・・よくやった、でも菫」
「はい?」
「このお返しの仕方は、私だけにしてね」
「はい、わかりました。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その2人は、首都ラインブルグの高級バーにいた。
「ねえ、竹子、昔の話していい」
「どれくらい昔よ」
「1000年以上前」
「それは、ちょっと記憶に自信がありませんね。」
「私の家系、えっ広橋じゃなくて実家のほうだけど、その由来は知っているわよね」
「何、いまさら家柄自慢ですか?
日野本家。今を遡ること1200年前に突然、足利家に変わって将軍家となった。
爾来、旧日本においては軍の要職は日野家一門が占めるようになった。」
「あんたの家もね」
「ええ、日野家が将軍家になって以来、我が竹林家は日野家の筆頭執事を務めてきた。」
「日野家が将軍家になってから、なくなったものもあるわね」
「それは数えきれません」
「魔道家、魔道政治とか」
「あれは、その、伝説といった類ではないですか?実在性がないと思っていますが、、」
「そうなの?日野の分家の烏丸家が、突然、歴史から名を消したことも、彼らが、魔道を行っていたことを示す文献も、歴史的証拠は結構残っているわ」
「そうですか、よく勉強されておりますね」
「竹林、もひとつ、烏丸に肩を並べていた魔家系の有馬家、この家は断絶こそしなかったけど、日野家が将軍家になって以来、魔道と関わる記録が一切なくなっている。」
「やはり魔道というものが、まがい物であったことの証明ではないですか?」
「では、もう少し最近の話、といっても300年前だけど、日本でもそれなりの地位があった有馬家は突然、第一次宇宙移民団に参加している。そして竹林家も」
「当時は、名ばかり貴族で困窮していた私の祖先は、新天地に活路を求めたと聞いております。有馬のことは、有馬中尉に聞けばいいのでは?、あれは、確か末裔ですよ。」
「では、質問を変えるわ、桜や菫が覚醒したとかいう潜在的な力ってなんなのよ。あの儀式も」
「その名の通り、潜在的な力ですよ。まだ研究調査中なので、私の口からあれが、何なのかは答えかねますね。
しかし、広橋大佐はオカルト主義者だったとは、ちょっと驚きですね。
それとも少しお酒が過ぎたのではないですか?では、私はそろそろ失礼させて頂きます」
「おやすみ、竹子」
そういって竹林の背中を見送る良子。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ところ変わりここは須弥山。
「ゲニムくん、ちょっとよいか」
「は、チャチュ中佐、なんでしょうか?」
「貴官の軍人としての忠誠はどこにある?」
「はっ!自分は、根っからの宇宙移民でありますゆえ、もちろん宇宙移民共和国連邦に対してであります。」
「そうか、では重大事を君に打ち明けよう。真壁少将には反乱の企てがある。」
「な、なんですと?」
「真壁少将は、ここ須弥山にグレン・キラ総帥を招聘し、殺害する。しかる後に連合と単独講和を結び、共和国連邦を乗っ取る計画を画策しているのだ」
「わ、わたしには、にわかに信じられません。」
「本来であれば、これを本国に連絡して判断を仰ぐところではあるが、事は刻一刻を争う。対応が遅れれば、解放軍は分裂の危機に陥るだろう。」
「それは一大事です。」
「だから、私は、これから真壁少将をお諫めに参る。そして事の次第によっては少将のお命を頂く。」
「少将を殺害すると?」
「そうだ、ゲニムくん、同行をお願いする」
「承知いたしました。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「チャチュくん、これは一体、どういつつもりだ?」
真壁少将に銃口を向けるチャチュ中佐。
「どうも、こうもここで閣下にはご退場頂くだけです。ではさようなら」
パンッ!
「な、なんと!」
胸に開いた穴から血が噴き出すのを呆然と眺めるチャチュ中佐!
「ゲニム貴様裏切ったな!」
「ハハ、中佐、裏切ってなどおりません。私はもともと真壁少将の命令のもとに貴様を監視していたんだ。」
パンッ!パンッ!パンッ!
ゲニムは、チャチュに銃弾を浴びせる。
血みどろになって床に倒れるチャチュに近寄り、呼吸を確かめる。
「閣下。裏切り者は始末しました。チャチュは死にました。」
「そうか、ご苦労、では」
パンッ!
「か、閣下、そんなあ」
「ゲニム、約束通り2階級特進だ、おめでとう」
・・・ふん、チャチュ・キラ。役に立たないやつだったな。まあこの立場なら、これで計画も加速できる。
ゲニムを射殺した真壁少将は独り言ちる。




