【軌道戦士編】⑧兄貴達 ~ この戦法は、絶対に黄色い奴に勝てる
「自分の隊が全員ハードゲイだから、こんな格好をさせたのでありますか!?」
チャチュ中佐の前に整列した褌姿の漢たち。
そして隊長のアドニスの質問に答えるチャチュ中佐。
「この街、水の都は、後世にも残しておかなくてはいけない貴重な人類の遺産なのだ。体の痛みを感じつつ戦わなければ、この街を破壊するような戦い方しかしないだろう」
「はあ、そうですが」
「この戦法は、絶対に黄色い奴に勝てる。お前たちのその逞しい身体は、イエロージャケットの連中を幻惑させる効果があるんだよ」
黄色い奴、イエロージャケットとは、「ジム」の黄色い見た目から、チャチュ中佐が名付けた富子たちの部隊の呼び名である。
「で、ゲニム君、どうだ、状況は?」
「中佐、やはり彼らも装甲列車で進軍してきたようです。先日の黄色いやつ同様に、エーテルポットンなしで動くようです。すでに第五基幹駅を制圧しているようです。」
「そうか、では予定通りあれを手に入れたか。では、こちらの準備はどうだ」
「はい、水門を開放し、注水が完了いたしました。この街への線路も、いまや水の底です。彼らが、列車でこの街に入り、通過するためには、彼らは、徒歩でここに入り、水門を操作する必要があります。」
「アドニスくん、聞いての通りだ。のこのこと、こちらにやってくる間抜けなイエロージャケットを返り討ちにしてやれ。」
「は、了解いたしました!」
「では、我々は、須弥山に戻る。作戦完了次第連絡をよこせ。須弥山から迎えを出す。」
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コンコン
富子の寝室のドアをノックする音。
「どうぞ」
「お姉ちゃん・・」
「桜・・・水の都、あれ見て、また思い出しちゃった?」
「お姉ちゃん、いつものおまじない」
「こっちに来なさいよ」
「うん」
桜は、そういって、ベッドの端に腰かけている富子の横に座り、目を瞑る。
富子は桜に顔を近づけて、その可愛らしい唇にキスをする。
少し長めのキスをして唇を離した。
「落ち着いた?」
「うん、ありがとう、お姉ちゃん、じゃああたし部屋に戻る」
「一緒に寝てあげるわよ。また思い出しちゃうでしょ。」
「いいの?」
「いいよ」
水の都を直前にして流星号は停車を余儀なくされた。
その街の入り口は、大きな湖と化していた。
都に入る線路はすでの水の底である。
・・・海は嫌い!・・・
・・・湖も河も嫌い!・・・
・・・私は水が大嫌い!・・・
だから、あんな景色を見ると、あの時を思い出してしまう。
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六文寺桜、6歳の時の記憶。
「桜、危ないからそっちにいっちゃだめよ」
ボートの上から桜に声かける桜の母。
「ママ、大丈夫だよ、わたし、泳ぎ上手って先生にいつも褒められるんだから」
そういってどんどん沖に出ていく桜。
知らぬ間に鮫が出没する遊泳禁止区域に入ってしまった桜。
「きゃあ!ママ!」
突然、桜は、海の中に引き込まれていく。
桜を中心を鮫の尾ひれがぐるぐると回っている。
「桜!」
そう叫んで、鮫が牙をむく海に飛び込む桜の母。
「奥様!」
・・・あれ、わたし、どうしたのかなあ・・・
・・・周りが青いなあ・・・
・・・息が苦しい・・・
・・・なんか頭がぼっとしてきた・・・
海辺でぐったりした桜。
すでに桜の呼吸は止まっている。
マウス・トゥ・マウスで人工呼吸を必死で繰り返す桜の母。
・・・あ、なんかお口が温かいなあ・・・
・・・とてもいい気分・・・・
だはああああ
ゲホゲホゲホゲホ
一気、水を吐き出し、息を吹き返す桜。
「桜!、桜!、よかった」
「ママ、わたし、」
「桜、本当によかった・・・」
そういって、桜の母は砂の上に倒れこんだ。
母の脚には大きな噛み傷があり、大量の血が流れていた。
「ママ、ママ、どうしたの!」
そして、もう返事はなかった
あの時の記憶は、段々と薄れつつあるけれど、母の唇の温かさ、その感触はいまでも鮮明に残っている。
だから、あの日から、わたしは水が大嫌いになった。
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少女は、その部屋の扉の前から立ち去ろうとして、視線に気づく。
「菫、盗み聞き?」
「良子さん、そんなんじゃ。」
「気になる?富子と桜ちゃんが」
「よくわかりません、でも、心がむずかゆいというか、こそばゆいというか・・」
「そういう気持ちなんて言うか知ってる?」
「私はまだ自分の気持ちを言葉で表現するなんて、できないのです。」
「『共依存』っていうんだよ」
「えっ?」
「うそ、冗談、忘れて。『共依存』って言いたかっただけ。流行りの言葉を使いたかっただけ」
「はい?」
「人の気持ちを、何かの一般的な言葉に置き換えるとかどーでもいい事だと思うよ。
嫉妬とか、ヤキモチとかそんな言葉に変えてしまった時点で、なんか一気に安っぽくなる感じがして、私はいやだな。」
「なんとなくわかります。」
「菫にもわかるか、そっか、じゃあ、今日は、私と寝ようか」
「はい」
小さくうなづく菫。
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翌朝。
「では、水の都の水門に行くのは、富子と桜と菫でいいわね。
伏兵がいるかもしれないので、そこは菫に任せるわ。
水門の操作はメカニカルなんで、桜にお願いします。
全体の現場指揮は富子。そこが一番頼りないけど」
「あたしは、デジタルは強いけど、物理メカはそんなでもないからねえ」
今回は、今依は良子と一緒に留守番志願。
「良子姉、了解だけど、桜?大丈夫」
「富子さん、大丈夫です」
「あと、水中での行動もあるかもしれないので、各自、その支度をしておいてね」
「了解!」
3人は、水門に向かって出発した。
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「アドニス隊長!敵は3名。全員女性のようです!」
アドニス隊の斥候は報告する。
「なるほど、チャチュ中佐の狙いはそこか!」
アドニスは得心する。そして隊員に命令する。
「よし、お前ら、褌を外せ!」
「合点だ!兄貴」
「兄貴、その言葉を待っていた!」
「さすがは、兄貴!俺たちらしい作戦だ!俺たちにしかできない作戦だ!」
「兄貴!連合の小娘たちに俺たちの力をみせつけやる!」
うぉおおおおおおおお
一気に士気の上がったアドニス隊は、コンバットナイフを片手に富子たちに向けて突進を始める。
「裸のおじちゃんたち?」
桜は、ポカンと口を開ける
「うわ、まじ最悪、何あれ、正直、BLは嫌いではないけれど、あれは頂けない、くさそうだし、解放軍ってバカなの?」
猪突猛進してくる裸の男の集団にあからさまな嫌悪感を催す富子。
「菫は、ああいうの平気?ああいうの見ても」
「全く問題ありません、むしろ、殺意さえ覚えます。富子様や桜様にあんなものを見せつけるとは!許せない!ぶっ殺してやります!皆殺しです。」
そういって、拳銃を放ち、迫ってきた敵兵の額に穴をあける
「うわーー、兄貴やられた!」
「兄貴、すまねえ、すまねえ」
「兄貴、先にいく!涅槃でまつ!」
次となぎ倒されていくアドニス隊の隊員たち
「くそ、効かぬか。全員散開。このまま銃撃戦に入る!」
アドニス隊は、散開して銃撃戦を開始する。
「富子様、桜様は下がっていてください。私から離れてください。少し強い敵です。」
「わかった!菫お願い!」
菫は身を隠しながら正確な射撃で敵を倒していく。
しかしさすがに特殊部隊ということもあり、菫でも散開した敵を瞬殺というわけにはいかない。
桜の手を引き、菫から離れる富子。
壁づたいの細い道を走っていく2人。
その片側は、大きな湖だ。
ドーン!
大きな爆発音とそもに富子と桜の足元が揺れる。
流れ弾であろうか?
ガラガラガラガラ
爆発の振動で古い建物は激しく軋み、足元が崩れていく。
「桜、危ない!」
とっさに富子は、道の前方に向けて、桜を突き飛ばす。
そして自分は、真っ逆さまに水面に向けて落下していく。
バシャーン
大きな飛沫が上がる
「富子さん!」
水の中から富子は上がってこない
「富子さん!」
ブクブクと空気の泡が上がっていく。
「どうしよう」
・・・そして思い出す・・・
・・・またあの日の事・・・
・・・忘れられない恐怖を・・・
・・・そして唇の優しいぬくもりを・・・
・・・だめ。もう失うなんて許さない・・・
・・・そんなこと、許さない!・・・
・・・私が、私を許さない!・・・
バシャーン
衣服を脱ぎ捨てて水に飛び込む桜。
・・・泳ぎ方はまだ身体が覚えている!・・・
水に潜った桜は、すぐに富子を見つける。
ツタのようなものが脚に絡まり、必死でもがいている富子。
桜は、コンバットナイフを握り、富子の足に絡まるツタを切っていく。
身体の自由を取り戻した富子。
ぶわっ
「死ぬかと思った。ありがとう桜」
水面から顔を出す二人。
そして水から上がる。
「富子さん!、桜さん!」
菫が駆けつける。
「菫!敵は?」
「あの下衆共は皆殺しにしました。」
「ありがとう、菫」
「で、桜は水、大丈夫だったんだ」
「はい、私、無我夢中で、気付けば、こうなってました」
「そっか、それで、気付けばその尊いお姿ですか、3年1組六分寺さん」
そこにいたのは、スク水姿の銀髪ヘテロクロミア美少女であった。
濡れた姿である。
濡れた銀髪が顔にかかっている。
ちょっとぐっとくる。いやかなり。
「あ、水着これしかなくて。」
可愛らしく顔を赤らめる桜。
「よかです。よかです。ごっつあんです。」
「でも富子さん、多分、これで私もう、大丈夫だと思います。」
「じゃあ、これからはおまじないは要らないのかあ、私はちょっと残念だなあ、」
「大丈夫、これからは、私がお姉ちゃんにお返しをする。こうやって」
そういって、桜は、富子の唇に自らの唇を重ねた。
「桜さん、それはちょっとずるい・・」
小声でそう囁く菫であった。




