【軌道戦士編】⑦鍵 ~ 回想録の訂正をお願いします。
竹林は、少女を連れてきた。
かつて富子たちが誘拐犯から保護した「鍵」と呼ばれたあの少女だ。
そして富子たち5人と竹林とその少女は、レーゲンスブルク駅の地下の情報管理センターからさらに下層にある「神殿」と呼ばれる場所にきていた。
「こんな場所があったなんて知らなかったわ、まいまい知ってた?」
「広橋、私も初めて知ったわ。こんなところがあるなんて」
「竹林、ここで何をするの?」
富子は尋ねる。
「鍵を貰うのよ」
「鍵って何よ?」
「まあ、日野大尉に難しいことを説明してもあんまり理解できないと思うから、簡単に言うと、ここには、人がもつ潜在的な力を引き出す鍵があるのよ。」
「チャクラを開くみたいなもんなの?竹子?」
「広橋大佐。まあ、そんな感じで考えてもらっていいわ。そして潜在的な力を引き出した者には、その刻印が刻まれる。その刻印が、さらに鍵になるのよ」
「ここにいる人が全員が、そうなるの?」
「日野大尉、いいえ、刻印を受ける人は一人だけよ」
「じゃあ、誰が受けるの?立候補とか?」
富子は質問を続けた。
「いや、それは、神というか、なんというか、刻印を授けるものが決めるのよ。
遺伝子構成とか血液型とか、そこはわかっていないのだけれど、ここで最も適したと思われた人が授かるわ。」
「で、そこの女の子は何をするの?」
富子は少女を指して尋ねる。
「彼女は、その鍵を授かるための鍵。媒体みたいなものよ、じゃあ始めてください。」
竹林は、そういって少女の手をひく。
少女は何も言わずにうなづく。
「じゃあ、5人は、一人づつこの子の右手の指にそれぞれ自分の指を合わせて。どの指でもいいわ」
「あみだくじで決めるんだ」
「はあ?日野大尉、人の話聞いてました?」
少女は、左手を祭壇にあてて、目を瞑る。
・・・そこは広い草原・・・
・・・涼やかな風が吹いている・・・
・・・風に舞う花びらや草の葉・・・
・・・なんだろう、懐かしい気持ち・・・
・・・意識が遠くなっていく・・・
ドン!
「菫!」
「菫ちゃん!」
突然、意識を失い倒れこむ菫。
「ふん、ここの鍵は、永園菫さんが受け取ったようね」
「はい、風の刻印です」
その少女は初めて口を開いた。
「竹林、菫に何があったの?大丈夫なの?」
「日野大尉、大丈夫よ。数時間で目を覚ますはずよ。念のため、私たちも彼女が目を覚ますまでは、ここにいることにするわ」
「竹子、さっき、「ここの鍵」って言ったよね」
「ええ、広橋大佐。あと4つ。各基幹駅の地下に、ここと同じような場所があるわ。そこで鍵を全て受領することがあなた達のもう一つの任務よ」
「竹子、なんでそんなことが必要なの?」
「5つ揃わないと最後の鍵が開かないからよ」
「竹子、最後の鍵って何よ?」
「広橋大佐。それは、まだ言えないわ。極秘事項なので。いずれにしても、次の駅を制圧したら、また私たちはいくからよろしくお願い。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
流星号の寝室に運ばれ眠っている菫。
その横には、良子と竹林がいる。
「二人っきりで話すとか、何年ぶりかな。竹子」
「思い出せないわ、広橋大佐」
「もう、ほぼ半分プライベートなんだし、その広橋大佐はやめてよ」
「じゃあ、『良子の姉御』?っでいいかしら」
「うわっ、痛っ、それめっちゃダメージある、やめて『生徒会長』」
「あら、そうなの」
「しかし、富子にも、この子にも随分と手を焼いたわね」
そういって良子は寝ている菫の頬を撫でながら遠い日の出来事に思いをはせる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「その言葉、取り消しなさいよ!」
「あんた、1年の日野富子か。良子の妹だからってでかいツラしてんじゃねえぞ!」
「ねえ、富ちゃん、やめようよ」
「まいんは、黙ってて」
「ふん、だってそうだろ、そいつが殺人機械なのは周知の事実だ」
そう永園菫を指をさしていうのは、学内でも有名な愚連隊のメンバーたちであった。
「富子さん、いいです。私、その方たちの言う通りの殺人機械ですから」
「違う、菫は機械なんかじゃないわ!お前たち、謝りなさいよ!」
「こいつ、先輩に向かっての口の利き方しらねえのか?すこしお灸据えてやるか」
そういって富子の胸倉を掴んだ。
しかし、その瞬間、富子の胸倉を掴んでいた愚連隊のメンバーは、地にねじ伏せられていた。
「永園菫!てめえ、よくもやってくれたな、よし、やっちまえ」
ナイフやバールをもった十数人の愚連隊が菫に襲いかかる。
そして5分後・・・
「あちゃああ、やっちゃったねえ、菫ちゃん」
あきれ顔でため息をつく今依。
十数人の愚連隊のメンバーは、皆、地面に倒れうめき声を上げている。さすがに死人はいないようだが。。
「まいんさん、富子さん、すいません。ついカッとなって」
「ありがとう、菫ちゃん、でもこれは、ちょっとやばいかな。お姉ちゃんに相談しよう」
そういって富子は良子に電話をかける
「お姉ちゃん、助けて!」
「なによ、富子、いきなり」
「私を助けようとして菫ちゃんが、、」
「あー、それ、あたいのとこの若造がやったの?」
「違うよ、あっちのほう」
「あっちか、あいつの教育なっとらんな、いま行くから、そのままにしとけ、まだ人が呼ぶなよ」
広橋良子。
複数の幼年学校を仕切る総番である。
側近数名を招集して現場に到着した良子。
「よ、生徒会長、悪いね、いきなり呼び出して」
現場には生徒会長の竹林が先にきていた。
「お前らも派手にやられたわね」
そういって、地面に倒れている愚連隊員を足蹴にする竹林。
「そ、総長、すいません」
半ぐれ団のリーダー、竹林の裏の顔である。
「生徒会長、さすがに下級生一人にこれだけボコられるのはやばくない?恥ずかしいっしょ」
「そう?相手が、永園菫なら、みんな納得するんじゃない」
「まあまあ、これは、俺らの沙汰ということで。焼きそばパン3つでどうよ。」
「5つね。」
「ちっ、わかったわ、生徒会長。ありがとう」
そして永園菫のもとに歩み寄り胸倉を掴む良子。
「永園てめぇ!」
「良子先輩、申し訳ありません、全部、わたしの責任です。わたしがどうなっても」
「富子を守ってくれたんだろ、いつもありがとう、永園」
そういって、胸倉を掴んでいた手を放し、菫の頭を撫でる。
「あ、ありがとうございます」
頬を赤らめて可愛らしく頭を下げる菫。
「おい、有馬!」
「は、はい。良子先輩。」
「証拠写真撮っておけ、それと監視カメラの映像消しとけ」
ショートメールで良子のログインパスワードとIDが送られてくる。
「あ、はい。でも先輩、私、ログインの証拠も消せますが。」
「だとしても、無駄な犯人捜しはあるだろう」
「それはそうですが、、、」
「ハハハ、良子の姉御もこれでまた懲役が増えたわね。」
そういって笑う生徒会長の竹林。
「そして富子、お前!」
「お姉ちゃん、許して!」
「何度、いったらわかるんだ!お前は!おいこらまてや!」
逃げる富子を追いかける良子の姿。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「随分と古い話するのね、年取った証拠よ。で、その話、大分間違っているわ。」
「竹子、そうだっけ?大体こんな感じじゃなかった?」
「まず焼きそばパンじゃなくて、メロンパンよ」
「竹子、細かいなああ」
「あ、先輩おはようございます。」
菫が目を覚ます。
「あんた聞いてたの?」
「は?何をですか?」
「広橋大佐、永園さんは、寝ぼけているだけでしょ。じゃあ、私たち帰るからあとよろしく。」
そういって竹林は立ち上がり背中を向けた。
「そういや、竹子、あんたの兄貴の消息について進捗はあったの?」
「何もないわ、あなたには関係ない話でしょ」
そういって立ち去る竹林。
その言葉に一瞬動揺したかのように見えたのであったが、、




