【軌道戦士編】⑥決闘 ~ 当然、永園菫はその責任をとる。
流星号は、ラインブルグからみて最初の基幹駅であるレーゲンスブルクに到着した。
解放軍はおらず戦闘もない無血入場である。
富子と今依と菫は、早速、鍵情報の変更のために駅の地下にある情報管理センターに向かう。
「よし終わった。これで、ラインブルグからこの駅までは、こっちもエーテルポットンで走れるようになった。」
作業を終えた今依は、ほっとしている。
「さすがは、まいーん」
「うっせー、富子!その名前で呼ぶな!」
「何恥ずかしがっているのよ、まいん」
「恥ずかしいわ、そんなの素面できけんわ、つーか、この前の事も、恥ずかしい、まじ思い出しただけで死にたい。うー死にたい。菫介錯を!」
「まいん、死なないで!」
「じゃあ、富子、お前が死ね!一回くらい乳揉ませてやったぐらいでデレたと思うな。プロフェッショナル・ツンデレなめんな」
警護役の菫が、クスクスと笑っている。
「幼馴染っていいですね。」
「違う、これは断じて違う、幼馴染なんてかわいいもんじゃない。腐れ縁ってやつだ。」
思い切り首を横にふって否定する今依。
「だけど、そういう菫だって、幼年学校からの縁じゃない」
「そうでしたね」
「まいんと菫がいて、先輩に良子姉ぇと竹林が居て楽しかったねえ。あの頃は」
「全然、楽しくない、思い出補正かけまくっても、それはない、あたしは、富子、お前の被害ばっか受けてた・・・」
「じゃあ、ちょっと私、良子姉ぇに報告してくる。まいんと菫はここで待ってて」
とめどもない言葉のやりとりを聞きながら菫は幼年学校時代を思い出した。
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幼年学校に特待生で入学した永園菫は、常に一人だった。
一人でいることが普通であった。
入学当初から一人ずば抜けた戦闘能力をもっているというもっぱらの噂であった。
まれにみる美少女でありながら、愛想が悪く人付き合いの悪い彼女のことが気に食わないものが沢山いて、口さがない連中は、彼女のことを戦闘機械だの、冷血殺人鬼などと言いふらしていた。
実技演習などにおいては、2人一組で、1対1で行う科目などは必ず見学していた。
永園菫のクラスの人員は、奇数であったので、2人一組のペアを組むと必ず一人余る。
そういった場合、先生とペアと組むのが通例であったが、永園菫は、先生とペアを組むこともなく一人で見学をしていた。
そんなある日の、剣技の時間に永園の同級生の富子は、いつものペアである今依にぺこりと頭を下げる。
「ごめん、まいん、あたし、永園さんと戦いたくなった。」
「えー、富ちゃん、あたしとやるんじゃないの?」
「まいん、今日は先生と組んでよ」
そういって、剣技場の隅で見学して永園菫のもとをつかつかと歩いていく。
「永園菫!私とペアを、じゃなくて私と勝負なさい!」
「日野さん、なぜですか?」
菫は無表情ながらも不思議そう顔をして答える。
「授業だからに決まってるじゃない!つーか、貴方の実力が噂通りか確かめにきたのよ!」
「はあ、そういうことでしたら、」
「じゃあ、行くわよ、永園菫!覚悟なさい!」
「どうぞ」
たああああ
大きく模擬刀を振りかぶって富子は、菫に向かっていく。
クラスの全員が、2人の戦いを注視する。
カーン。
菫は、模擬刀を片手でもち、その場を微動もせずに富子の攻撃をいとも簡単に跳ね返す。
しかし、自ら攻撃はしない。かわすだけである。
「ちょっと、永園菫!どういうことよ!」
「・・・・」
菫は、無言で答えない。
その後も、結局、富子の攻撃をかわすだけで一切、攻撃をしない永園菫。
試合時間が過ぎて引き分けになる。
「ちょっと、永園菫!待ちなさいよ」
永園菫は、その言葉に応えることもなく、背中を向けて教室に戻る。
「永園菫!これで終わると思うなよ!」
そう負け惜しみをいう富子であった。
そして今度は、今依に声をかける。
「まいん、放課後の剣技場を使えるようにして。」
「えー、富ちゃん、また、変なこと企んでるの?やめようよ、そういうこと。」
「この私が、永園菫にコケにされて黙っていられると思う」
「富ちゃん、永園さんに自分で喧嘩売って、それ?もう仕方ないなあ」
そういって、今依は、放課後に常に剣技場を使っている剣技部の顧問に成りすまして部活中止のメールを発信する。
「部活中止のメールは、送ったわ。」
「ありがとう、まいん、じゃあ次は」
「永園さんへの果たし状でしょ。はい、はい、やります、やります」
「さすが私のまいん、ものわかりが早くて結構。」
「じゃあ、まいん、後ほど、剣技場でね。」
「えっ?あたしも?」
「決闘の見届け人よ」
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「どういうつもりですか?日野さん?」
「どうも、こうもないわ。あなたに私と勝負して貰うのよ」
「お断りいたします。」
「勝負してくれるまで、あなたにまとわりつくわよ。」
「私のことなんかほっといてください」
「それはできないわ。だってそれじゃ、私はコケにされたままですもの」
「わかりました。条件は?私の力量はご存じだと思いますが」
「じゃあ、そこの時計で18時までに5分間で、1本でも私がとれれば、私の勝ち。取れなければ貴方の勝ち。それでどうかしら。」
「了解です。」
「貴方が勝ったら、もう貴方にまとわりつかないわ、じゃあ行くわよ。本気でこいや永園!」
どりゃああああ
富子は模擬刀を振るう。振るいながらも語りかける。
菫はいとも簡単にそれを跳ね返す。
「菫は、なんで友達つくらないの」
「それは、勝負に関係ありません」
・・・そう答えつつも、永園菫は考える・・・
・・・友達ってつくるものなのかな・・・
「菫は、ずっと一人なの?幼少の時から?」
「それも、勝負に関係ありません」
・・・幼少な頃は普通だったな、普通に友達がいて・・・
・・・普通に友達と遊んで、笑って・・・・
・・・だけど、私に特別な力があると周りの人が言い出してから・・・
「私の周りからどんどん皆いなくなって」
心の声のはずが知らぬ前に口をついて出ていた。
・・・違う、まわりを避けたきたの自分だ・・・
「何でも周りのせいにしていると幸せになれないわよ」
・・・もう、そんなことわかってる!・・・
「幸せ!そんなものいりません、私は、ただの戦闘機械です!、周りの人が言う通りです。」
「私はそうは思わないわ」
・・・あなたに何がわかるんですか!・・・
「私に関わると、ろくなことありませんよ。私は、周りを不幸にする冷血殺人鬼です。」
「そうかしら。私はあなたといるとなんか面白いことがあるような気がするけど」
「もういい加減にして下さい!!!」
シャッーーーー
そういって、永園菫は、富子に向けて模擬刀を振るった。
興奮したせいかつい力が入ってしまった。
あっ
吹き飛ばされて尻もちをついた富子。
模擬刀がかすめた額から真っ赤な血が流れている。
「日野さん!」
顔面蒼白になって、模擬刀を投げ捨てて富子に駆け寄る菫。
「日野さん、ご、ごめんなさい、私、つい本気で」
菫は、腰を落として傷をみようとする。
その瞬間!
「えいっ」
コンッ
????
菫の頭の上に模擬刀に先が乗っていった。
キーンコーンカーンコーン
18時を告げる時計のベルがなる。
「1本とったわ!菫さん」
突然のことにポカンと口をあけたまま固まる菫。
「キャハハハ!ねえ、見て見て!まいん、今の永園の顔!」
ガッツポーズをとって大喜びの富子。
「うわあ、ひくわー、富ちゃん、卑怯すぎる、ずるすぎて引く。まじでひく。もう親友やめる。あなたとは、これからはただの友達です。」
「ハハハ、菫、何が、戦闘機械よ。同級生がちょっと怪我したくらいで顔真っ青にして駆けつけるような戦闘機械なんかどこにあるのよ!」
富子は、菫の肩や頭をポンポン叩きながら笑いころげる。
・・・・・・
「ハハハ、何が冷血殺人鬼よ。同級生のちょっとした怪我を気にして、隙つくっちゃうような冷血殺人鬼がどこにいるのよ!」
・・・・・・
そして、菫の顔を真っ直ぐに見据えて、、
「なーんだ、あなたは普通の女子じゃない」
・・・・・・
「可愛くて、優しくて、寂しがり屋のただの女子じゃない」
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「だから」
・・・・・・
「あなたは、そんなに自分を責めないでよ。」
・・・・・・
「自分を嫌いなんかならないでよ、永園。」
・・・・・・
「ずっと一人でいようなんて考えないでよ、菫。」
そういって菫の細い肩を抱きしめる。
「は、はい・・・」
消えそうな声で菫はうなづく。
そして、さらに、こういう時の今依は、結構、意地が悪い。
「あちゃちゃ、富ちゃん、その傷、結構、いっちゃてるよー」
「まいん、平気よ、これくらい」
「その傷、一生残るかもよ、あーあー富ちゃん、もう傷物だね、もうお嫁に行けない。」
「別にいいわ、傷なんか前髪で隠せばいいじゃん。」
「よくないわ、傷物の富ちゃん、ちゃんと責任とって貰わないよ」
まいんは、ほんと意地が悪くて、賢しくて、わざとらしくて・・・
そしてとても優しい。
富子は、その言葉を聞いてニヤリと笑う。
「そうね。じゃあ、永園さん、責任とって」
「日野さん、責任って、そんな、私にできることは・・・」
「責任とって、一生、私の友達でいなさいよ。」
その言葉に驚愕する菫。
青く美しい瞳から大粒の涙をポロポロと流す。
そして、消えそうな声で答える。
「は、はい。一生、富子さんの友達でいさせてください。」
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「あれ、菫泣いてんの?」
「今依さん、ちょっと昔を思い出して」
「わかるわ、幼年学校の時から、富子のせいで、私も何回泣かされたことか」
「その通りですね。本当に泣かされました。」
報告を終えた富子が2人のもとに戻ってきた。
「あーふたりともイチャイチャしてた?さておき、私たちここであと何時間か足止めよ」
「足止め?」
「えー、何かもうひとつ重要な作業があるんだって、そのために早速、ここに竹林がくるらしいわ。」




