表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/71

【軌道戦士編】④連合の悪魔 ~ チャチュ中佐っていいづらい

北部線を巨大な軍用装甲列車が南下していた。

解放軍の最新鋭装甲列車「ハンニバル」である。

ハンニバルは左右に広げた巨大な帆に強い追い風を受けて快走している。

指令室の中でその下士官は、上官らしき人物に声をかける。

「中佐」

中佐らしき男は無視するので、下士官は少し声上げて再度声をかける

「中佐!!」

「君、中佐って、どの中佐だい」

・・・ここに中佐はお前しかいないだろう・・・

そう思いつつ、その下士官は慎重に上官の要望に応えようとした。

「わかりました。ではチャチュチューチャ。あ、すいません、チャチュチューシャ、あ」

「ハハハ、噛んだ、噛んだ、この滑舌悪いデブめ、ハハハ」

こうしてつまらないことで笑い転げているのは、解放軍特殊部隊所属のチャチュ・キラ中佐である。

キラという姓からわかる通り、先日謎の死を遂げたアハル・キラ首相の3男である。

滑舌の悪いデブが(いや普通の人でも「チャチュ中佐」を声に出して言うのはいいづらいのだが)ゲニム中尉である。

このハンニバルの車長であり、チャチュ中佐の副官だ。

「中佐、あと2時間ほど、目的の場所、北部線列車区跡です。しかし、その噂は本当でしょうか?小官には、我らを分断させるための情報工作としか思えませんが」

「ゲニム君、ならば、連合がラインブルグから北進するという噂だけでよかろう。それに列車区跡で新兵器を開発なんて噂を付け加える必要はないはずだ。それを確かめるために、こうして我々はきているわけだ。」

「ですが、中佐。仮に連合の侵攻が本当であったとしても、わざわざ、須弥山から遠くまで出張って応戦にあたるよりも、須弥山で迎撃したほうが、敵に補給の負担もかけられます。彼らの列車砲とて所詮射程も30キロ程度でありますし」

「だから、偵察任務だ。それで敵の侵攻も、新兵器の開発もブラフであれば、我々は須弥山に戻るだけの話だ」

「でしたら、もう少し小規模な編制でもよいかと。最新鋭のこのハンニバルに、虎の子のGOW(General-purpose Orbital weapon汎用軌道兵器の略)3機はいささか大げさではないでしょうか?中佐には何か他の目的でも・・」

「やだなあー、別の目的なんてあるわけないじゃないですかあ」

そううそぶくチャチュ中佐の顔には笑いはなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


一方、こちらは帝都ラインブルグの北部線ターミナル駅である。

編制を終えた第一特務装甲車輛小隊がまさに出発しようとしていた。

こちらの編制は、先頭に機関車、2両目に石炭車、3両目が120ミリ戦車砲ならび機銃座を備えた砲車、4両目が武器弾薬輸送車で、5両目は大きなクレーンをつんだユニック車。

6両目が、CIC車となっている。CIC車に無線アンテナ、レーダー、観測用気球の制御装置などが設置されている。

ちなみに、燃料用の化石エネルギーの枯渇や、気候変動による大風流、強い磁気嵐などの影響で、すでにこの世界には、航空戦力をいうものは存在しない。

したがってレーダーは、もはや無用の長物なのであるが。。

そして7両目がバス・トイレ・化粧室・キッチン・食堂などで、最期の8両目が寝台車。

寝台車はすべて乗員分の個室が確保されていたが、一応、2段ベッドになっていた。

中々移住性はよさそうだ。

そして7両目と8両目には、ちゃんと「女性専用車両」と書かれている。


「じゃあ、流星号、出発侵攻!進行じゃなくて侵攻!須弥山に向かって侵攻!」

桜は嬉しそうである。

流星号とは、桜が勝手につけたこの列車の愛称である。

「桜、それ口で言われてもわかんないから」

第一特務装甲車輛小隊は、北部線列車区跡に向けて出発した。


さてお次は、各隊員の役割を紹介したい。

運転手は、当然六分寺桜。永園菫は、武器統制、砲手、射撃手を努める。有馬今依は、運行と戦闘の情報中枢を担い、広橋良子は、この隊の指揮官である。

で、富子は?と言うと


「やった、私はやることのないみたい、楽できるわ」

「富子、何言ってんの?給料貰ってんだから、あんたにも、ちゃんと働いてもらうわよ」

「良子ねぇ、そーなの?もしかして車掌とか?あー切符拝見しますとか」

「いないから、車掌とか。そもそも切符とかないし、あっても地獄への片道切符とかだし」

「誰がうまいこと言えと。じゃあコックとか?あたし料理できないけど。」

「これから旧北部車輛基地で受領する装備、それをあんたが操縦すんのよ」

「まじか、なにそれ」

「解放軍のGOW、汎用軌道兵器に対抗すべく開発された連合軍初の汎用軌道兵器よ」

「そんなもん、操縦したことないわよ」

「あんた大特持ってるでしょ」

「うん、士官学校のときとった、クレーンも玉掛けも」

「じゃあ、きっと大丈夫よ、余裕よ」

「良子、そんなものなの、一体、連合軍の新兵器って重機がなんかなの」

「大体、そんなもんよ」


少し解放軍のGOW、汎用軌道兵器に触れておく。

汎用軌道兵器とは、宇宙空間で利用されている宇宙用汎用人型2足歩行兵器を地球で運用するために改造したものである。

もともとは、宇宙での建設作業に使うマニピュレーターをもった重機であったが、脚をつけてロマン兵器とした。

脚の必要性云々はAMBAC厨に任せるとしてここでは、あえて触れない。

宇宙用汎用人型2足歩行兵器と言っているが、エーテルポットン技術を利用した一種の電気推進で動くために宇宙空間でしか使えないので2足歩行はしない。

解放軍は、第2次宇宙移民大一揆の際、この兵器を投入し多大な戦果を上げた?と一応そうなっている。

ロボット大好き少年たちの軍へのリクルーティングに役に立ったことは事実であるが

そんなこともあり、解放軍は、宇宙用汎用人型2足歩行兵器を地球用に改造したのである。


エーテルポットン推進機をエーテルポットンモーターに換装する。

脚を外し、線路を上を走行できるように車輪をつけた。

要は、列車の上に上半身だけのロボットが乗っているようなものだ。

その姿はご想像頂きたい。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「何、これ、だっさ!」


連合軍初の汎用軌道兵器を見た富子は思ったことを口に出さないといられないタイプだ。

列車の上に人の上半身が乗っている。

でかい人が列車の屋根をつき破って出てきたように見える。

そして、右手にはライフル、左手には丸い盾を持っている。

見ようによっては、じゃんけんして勝ったほうがピコピコハンマーで殴る玩具にも見えなくない。


「最悪のカラーリングね」

今依も富子の意見に賛成のようだ。

赤と黄色を基調とした派手なカラーリング。

そこは迷彩色とかカーキ系とか、もっと落ち着いた色にするところだろ。


「あ、顔がついてる!顔はちょっとかわいい!桜が喜びそう。」

富子は、指さして言う。ちなみに桜は、流星号でお留守番である。

頭部は、(技術者曰くメインセンサーユニットらしい)まん丸の球体で、わざわざ肌色に塗られている。

頭髪はなくまん丸の黒い目に半月上の眉。その下に赤い●が3つならんでいる。

そして口のようなものまである。

まるで、幼児向けアニメのパンが擬人化したようなヒーローみたいなファンシーさである。


「これは、さすがに少年兵のリクルーティングには使えないわね」

良子もため息をついた。


「高さがあるので被弾率が高そうですね。ハードポイントが少なく、火力にも不安ありです。武器としての完成度はかなり低いのでないでしょうか?」

菫も辛辣な意見を言う。


「み、見た目は確かに、少し問題があるかもしれんだ、性能は抜群なのだ!!!このトレインガンナー「ジム」は!!!」

白衣を着て、無精ひげを生やし、眼鏡をかけた、いかにもマッドサイエンティスト的な男が激高した。

太川勝元ふとかわかつもと技術主任である。


「でも、これ動くの?エーテルポットンないし」


「動力のメインは、蓄電池だ、鉄道奪還後の事も考慮してもちろんエーテルポットンモーターもあるハイブリッド車だ。君らが乗ってきた車輛からの給電も可能だ。すごいだろ」

「ああ、電池もあるけど、ACアダプターも使えるみたいな感じなのね」

「富子、それ言うならUSB給電でしょ」

「さあ、早速、登場してトレインガンナー「ジム」の力を確認してくれたまえ」

太川勝元は、富子の搭乗を急かす。

諦めて、富子はトレインガンナーのコックピットに入る。

「うん、重機と同じような感じね、なんとなくわかるわ。よし、これかな?」

おもむろに操縦桿をひく富子。

ギュイーンという音を出して、腕を上げる「ジム」。


おおおおお!


一応、一同感心する。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そんなトレインガンナー「ジム」の挙動を遠方から見て驚愕していたものたちがいた。

解放軍のチャチュ中佐とその部下2名(鈴木と田中)、3機の汎用軌道兵器に搭乗しての偵察である。

なお、この時点では、解放軍は流星号に存在には気が付いていない。


「チャチュ中佐!やつが動きました、エーテルポットンなしで動くとか連合軍脅威のメカニズムです!」鈴木は言う。

「どうやら、そうみたいだな。連合も侮りがたいな」

「チャチュ中佐!自分は大学では、古代歴史を専攻しておりました。」田中が言う。

「田中、それがどうした?」

「過去の書物の中に、どんな巨大な怪物であっても、一発のパンチだけで倒してしまう神のことが書いてありました。その神は、その力を利用して巨大な悪を覆滅したという伝説があるのです。あの連合の機体は、私が書物の中でみたものとそっくりです。」

「なんと、あれは伝説の正義の使者を模したもので、我々は悪の象徴、人類の敵というわけか。気分がよくないな」

「あ、あんな恐ろしい悪魔を世にはなってはなりません。自分突撃します!」

そういって田中は、自機を前進させた。

「田中!、お前だけを死なせるわけにはいかない」

鈴木も田中に続いて自機を前進させる。

「お前ら、早まるな!その伝説、たぶん、いろんな話が混じってるで、知らんけど。」

チャチュ中佐の制止を振り切って突撃する二人。


そして20ミリ機関砲のスコープにジムの姿をとらえる。


「連合の悪魔め!くたばりやがれ」


ガガガガ・・・


ジムに向かって一直線に砲弾が飛んでいく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ