【室町編】②~エンカウンター・アタック 足利義政の場合①~
俺の名前は、足利義政。
6代将軍足利義教の庶子だ。
俺のことを回りの大人は言う。
「なんでもできる子」であると。
確かに俺は、飲み込みが早いせいか小さいことから何でもできた。
いや、この言い方は間違っているな。
「何でもできる子」と呼ばれ続けていた。
剣術、学問、歌詠み、蹴鞠。。。。
一通り、コツをつかむとそこそこできてしまう。
練習とか。。
訓練とか。。。
努力とか。。。。
そういうものがなんだか分からない。
そうそう俺には兄と弟がいる。
兄は、嫡男義勝。
多分義勝が7代将軍になるのだろうが、まだまだ先の話だな。
しかし、義勝は病弱な男だ。
母上も常に義勝に気遣っている。
義勝は、病弱のせいか、すべてにおいて俺に勝っているものはない。
でもそれを俺が誇りたいとは思わないな。
義勝は、生まれつきの病弱で仕方ないと思う。
義勝は、嫡男だから家督を継ぐのは当たり前だと。
ただ。。
しかし。。。
義勝の姿を見ると何かもやもやしたものを感じてしまう。
義勝が病の臥せっている時に母上がずっとあいつの傍らにいたことを思い出すと、
その風景が脳裏に浮かぶと。。
俺の心は揺れてしまう。
ああ、なんでこんな事を考えているんだろうな。
それもあいつに会ったからなのか。
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「日野富子様ですか?」
「ああ、そうだ日野家の姫君だ。その姫が先日、ここにお見えになられた」
「知っております、庭でお怪我をなされたという」
「そう、庭の石に頭をぶつけられてお顔に傷をつけられたそうだ」
「それはいたわしゅうございます」
「そもそも、今回重正殿は、当家がここに招いたのだからして、姫様のお見舞いをせんとならん」
「はあ」
「はあじゃないが!義政!お前が行くのじゃ」
「わ、私がですか?」
「日野家の姫君を傷物にした。この落とし前はつけんと。お前がそれをつけてくるんじゃて」
相変わらず、父上は豪胆だ。
その場の状況、先方の態度によって、お前が考えるべき最善の策をとれと言う。
俺は、日野家の屋敷に向かった。
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俺は、日野家の屋敷の門をくぐった。
とたん俺の目には一人の少女が鍬をふるっている姿が飛び込んできた。
なんと!
公家の屋敷の庭で鍬をふるうやつがおる!
いまや公家の困窮たるや、日野家ですら庭を掘り起し、畑とせんとすか
ああ、いたましや、いたましや・・
みるからに慣れぬ姿勢で少女は大きな鍬をふるっている。
形はめちゃくちゃだ
だが威勢はいい
下女であろうか
俺は、好奇心からその少女に思わず声をかけてしまった。
「何をしているのか?」
「え?見ればわかるでしょ、耕しているのですよ、畑を」
「それは、そうであるが。しかしその年にして慣れぬ畑仕事など、よほど困っているようだな」
「ええ、困っておりますよ、旦那様、困っているからこうしているんです。わかりませぬか?」
この娘、随分と横柄な物言いをするが、なぜか俺にとっては心地よい。
そしてこの少女、ほっかむりをしているが、よく見るとなかなか端正な顔立ちである。
目尻が少し上がり、きつそうな顔ではあるが。
いづれにしても俺がいままで会ったこともない少女だ。
そしてこれからも合うことのない世界の女性だろうなとも思う。
二度と会うことのない人だろうなと思う。
「で、旦那様は、ここに何をしに来たのですが?」
「いやさ、右少弁様の娘君のお見舞いに伺ったのです。」
「右少弁?ああ、重政のことか」
「お前は少し物言いを少し気を付けたほうがいいぞ、それと中のものに義政が富子様のお見舞いに伺ったと伝えてもらえぬか」
「それ、あたし」
「?」
「日野富子。それ私」
「お前が、失礼、あなた様が日野富子様!」
俺は面食らった。
日野富子というには、日野家で花よ蝶よと慈しみ育てられた我儘で高飛車な姫君と聞いていたのに。
「そうよ、お見舞いなんて、大げさなまあ中に屋敷の中に入ってくださいな」