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【軌道戦士編】③作戦内容 ~ そのご都合主義は、笑えない

良子、富子、桜、菫、今依の5名は、大本営の会議室に召集されていた。


「富子、なんであんたがここにいるのよ!」


・・・ゴミを見るような目で私をみて・・・


・・・まいチューは絶対、そう言うと思っていたのに・・・


その日の有馬今依中尉の芸風はいつもと違っていた。


「これは、これは目覚ましい活躍をなさっている日野富子大尉ではございませんか。」

「まいチュー、何よ、その言い方、普段と違ってなんか気持ち悪いじゃん」

「この度の作戦でもきっと大活躍されることを、小官も信じております」

「もう、やめなさいよ、それなんかのキャラなの?」

「小官も微力を尽くして、大尉がその活躍によって、早々に中佐に昇進することをお手伝いいたしたく。」

「中佐?えっ2階級特進ということ、それってどう意味よ!」

「死ねってことだよ、言わすんな、恥ずかしい」


・・・あは、いつも通りで安心した、いつも通りのまいチューだ・・・


・・・安心したって、そこ安心するとこ?・・・


「てめぇ、おい、まいチュー、お前こそ・・って、えっ?」


そして、いつも通りならここで良子なり、桜なりがとめに入るのだが今日は違っていた。


永園菫が有馬今依にいきなり抱き着いてきたのだ。


得意のCQCでない。


普通の女の子が思い寄せる男性にもたれかかるように。


菫は、今依の肩に首を載せて言う。


「大丈夫です。有馬さんは私が守りますから。」


そして菫の宝石のような美しい瞳が涙で潤んでいるのを見て、今依もドキッとして顔を赤らめる。


実際、普段から今依と菫との相性は悪くないのである。

極端に人とのなれ合いを避ける今依と、もともと人とのコミュニケーションが苦手な菫。

相通じるものがあるのか。

ちなみに有馬今依は、常に永園菫を俺の嫁と公言して憚らない。


「えっ、ちょっ、菫、わかったから、離れてよ。ちょっと近い」


「私、今依さんのことが大好きです。愛しています。」


「ん?菫、何それ」


いきなりの菫の告白と身体の熱さに驚く今依。


「私、今依さんがいなくなることが怖いんです」


「だから、それいう相手、ほんと私?」


「この戦争が終わっても、ずっと一緒にいたいんです。ずっと一緒にいてくれますか?」


「それ、言う相手違うでしょ、菫」


「この戦争は終わったら、一緒に買い物したり、旅行したり、色々したいことが沢山あって、、」


「あー、菫、わかった、わかった、私も大事な人を守るためことを約束するよ。」


「有馬さん、ありがとうございます」


「どういたしまして」


「おかげで、私は、自分の想いを言葉にすることができました。」


「あ、そりゃはよかったわね。」


「でもそれ、本人の前で言ってこそだろ、あたしを練習台するなよ」


そして今依は、今度はきょとんとした表情の富子のほうに視線を移す。


・・・おい、バカ富子、この唐変木、お前の嫁を泣かすなや・・・


・・・ちょっと妬けるだろ、こんなあたしだってちょっと妬ける・・・



「もういい加減、作戦の説明をさせてもらってもいいかしら?」


頃合いを見計らったように作戦参謀の竹林が声をかけてきた。


「うん、竹子、説明して」

あくびをしながら良子が竹林に説明を促す。


「新国際連合軍の反攻の第一歩は、解放軍に占拠されているマスドライバーの奪取になります。そして当然、この東欧地区における攻撃目標は、『須弥山』になります。」

「竹林、須弥山?じゃあ、我が国は関係ないじゃない。ここからだと攻めようがない。」

富子は普通に疑問を呈す。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「須弥山」

ベルンシュタイン帝国の北東1200キロに位置する東欧地区最大のマスドライバーである。

かつては、帝都ラインブルグと須弥山とを結ぶ複々線の長距離鉄道(北部線)の上を物資を満載した貨物列車が往来していた。

須弥山が解放軍によって占領されて以来、その鉄道の実質的支配者は、解放軍にとって代わった。

ちなみに列車が、線路からエネルギーを取り出すためには、暗号化された鍵情報が必要であり、特に長距離鉄道の場合は、その鍵情報が主要な駅で管理されており区間毎に異なるものに設定されている。

そして解放軍が、北部線の鍵情報をすべて変更してしまったために、現在、帝国の列車は、線路からエネルギー供給を受けて北部線を走行することができないのだ。

帝国が、再び北部線を支配するためには、主要駅5か所を奪還して鍵情報を変更する必要がある。

加えて、須弥山から帝都ラインブルグに向けて吹く大風流があることも加わり、この方面からの須弥山への侵攻は実質不可能と言われていた。

したがって、過去に何回か繰り返され、失敗してきた須弥山への侵攻は、須弥山の北に位置するプロセン共和国からの南下ルートで行われてきた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「我が国の帝都からの北上ルートでの侵攻はありえない。そう解放軍も考えていることは、こちら側、すなわち須弥山の南側には兵力をほとんど配備していないことから明らかです。そこが本作戦のミソなのです。」


・・・なんでミソって言うんだろう・・・


どうでもいいことを考えながら、富子は同じ質問を繰り返す。

「だから竹林どうやって北上するのよ。線路は使えないでしょ」

富子の質問には答えずに、竹林は続ける。

「まず少数精鋭の、いや、精鋭じゃないかもしれない、もとい精鋭でもなんでもない先遣隊を出し、北部線を奪還します。しかる後に、60サンチ列車砲を搬送して須弥山の守備隊を背後から砲撃し殲滅する。」

「そんな作戦うまくいくの?」

「日野大尉。それはまだわからないわ。でも、仮にうまくいかなくても、須弥山の解放軍に南北2正面での戦闘を強いることができれば、それにより敵の戦力を分断できれば、それはそれで成功だわ。手前ミソながら、よい作戦だと思っています。」


・・あ、また、ミソって言った。まあ、そんなことはさておき、要は・・・


「竹林、陽動、つまりは、おとり役って意味ですか」

「日野大尉。そうとも言えますね、そのためにもすでにこの侵攻の意図は敵にもリークしてあるわ。だから貴方たちが仮に作戦に失敗したとしても、それによってわが軍の軍功にミソがつくことはない。」


・・竹林、どーして、お前はそこまで、ミソミソと言いたいのか?なぜミソの拘る?こだわりのミソなのか?・・でも


「だからー、どうやって、我々は北上するのよ。もしかしてエーテルポットンの要らない新しいエネルギーを使った列車を開発しましたーとか、あほなこと言うんじゃないわよね?」

「えっ、そうだけど、その通りなんだけど」

竹林は少し驚いたように答える

「竹林、そんなの、うそでしょ。まるでご都合主義よろしいアニメじゃあるまいし。」

「アニメじゃない、アニメじゃないわ。ほんとのことよ」

「信じられないわ、だからー」


「竹子ちゃん、もういいよ、マイハニーが信じてくれないなら、早く現物見に行こう。」

突然、一人の青年が口を開いた。


「はぁ?桐生中将。まだ私は説明途中なんですけど」

竹林は、その男を睨みつける。

「うわ、こわ、竹子こわ、圧強っ」

このちゃらい男こそ第8軍総司令の桐生義政中将。

帝国軍総大将桐生義教の子息で、次期総大将候補の一人と目されている人物だ。

そして、まるで実は陰キャで暗い青春時代を送ったおっさん作家とかが、こう言っとけばパリピ感出るんじゃねとか思って安直に使うような「マイハニー」とかいう死語をこの時代にいっちゃうような残念なこの青年こそ、日野富子の婚約相手なのである。

「はよ実物見に行って、それでさっさと出撃してさ、しゅって解放軍ぶっつぶしてウェーイってしようぜ!それで俺、見事に総大将就任。もうこれでいいんじゃね」

桐生義政は、頭の中がエニタイムフラワーガーデンなのだ。


「まいチュー、あたし、われらが総司令を見てると、なんかすぐに2階級特進できるような気がしてきた・・」

「富子、残念だけど、その点に関しては、気が合うわ。わたしも同じ気持ちだわ。短い人生だったわ。」

「富子様、外患に対処する前にまずは内憂を払わなくてなりません。」

そういって菫は抜いた拳銃の安全装置を外す。

義政の護衛兵たちははすかさず自動小銃を菫に向ける。

「やめなさいよ、殺されるわよ!」

富子はあわてて叫ぶ。もちろん護衛兵たちに向かって。

「永園菫のいつものジョークよ」

その名前を聞いて、護衛兵たちは慌てて銃を下げる。

「菫もやめなさいよ」

そういいながら、菫に抱きつく富子。そして薫の耳元でささやく。

「あ、菫、また胸大きくなった?、触って確認していい?」

傍目には、部下の暴走を身を挺して止める上官にしか見えていないが。

「バカ富子、そういって、適当な理由見繕って俺の嫁に抱き着くのやめろ!」

「まいチュー、妬いてる?」

「妬くわ。普通に妬くわ。身を焦がす嫉妬に狂うわ。許可なく俺の嫁に触るな!」

富子は、菫から身体を離した。


「はい、はーい、皆さん、それじゃ出発しますよ。秘密工場的なところに」

こういう時の良子はまるで学校の女教師のようだった。

ただただエロい。

つーか軍人なのに、スリットの入ったタイトミニとヒール履くのやめろ。


「あ、あの・・・富子様・・・」


薫は富子に声をかけてきた。


「何?菫ちゃん」


「先ほどのご確認のほうは、よろしいのでしょうか?」


菫は可愛らしく頬を染めている。


「それは、後でね。」


・・菫がちょっと残念そうな顔をしたように見えたのは気のせいかな?



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ぎゃあああああああああ、まじ、これ、本物?ちゃんと動くの?」


六文寺桜は絶叫する。


「当たり前じゃ、桜よ、六分寺重工が総力を上げて作ったものじゃて。どうだ、おじいちゃんからの贈り物は」


「うん、最高だよ、おじいちゃん大好き!」


「あの、六文寺宗全会長、確かに六分寺重工には多大な協力頂きましたが、これは軍の所有物でして、おじいちゃんから孫へのプレゼントみたく言わないで下さい。」

竹林は苦虫を嚙み潰したような表情である。


「ねぇ、ねぇ、富子さん!、みて、これオーパーツだよ!失われた技術の復活だよ!古代人の遺物だよ!」


「そうなの桜、私にはこれの凄さがわからないわ」


それは漆黒の車体をもつ車輛であった。

海苔の缶を横にしたような長い車体に煙突のようなものがついていて後ろのほうに運転席のようなものがついている。

さらにその後方には、カゴのような車輛が接続されている。

車輪は普段見慣れているものより、かなり大きく棒のようなものがついている。飾りであろうか?


「富子さん、これ、本物の蒸気機関ですよ!蒸気機関で動く列車ですよ!」

「桜、蒸気機関?なにそれ、なんかゲームしてアイテム貰えるやつ?」

「全然、違う、まったくかすってもいない。多分、そのネタわかる人もそんなにいない。」

「日野富子殿。これは、石炭を燃やして水蒸気を発生し、その水蒸気エネルギーで動くという古代文明の超技術なのじゃ。それを我が六分寺重工が長年の・・・」

富子は、長くなりそうな老人の言葉をさえぎり桜に向かって問う?

「桜、古代文明っていうけど、いつ頃のものなの?」

「大体、7~800年前」

「ゆうほどの古代文明じゃなくね、まあでもこれでエーテルポットンなくても列車を動かせるということね、まあよしとしましょうか」

富子は納得したようである。


「では、総指令。お願いします。」

「えっ竹子ちゃん、なんだっけ。」

「新部隊の任命と作戦司令ですっ!」

義政は、懐に入れていた封書の封をきる。


「あ、そうだった、これこれ。

広橋良子大佐、以下4名を第8戦略軍 独立機甲部隊 第一特務装甲車輛小隊に任命する。

貴官らにあっては、北部線を奪還しつつ北進し、須弥山の敵守備隊を殲滅すべし。」


「まずは、明日、列車の編制を整えた後に、旧北部車輛基地の跡で極秘開発されている新装備品を受領してください。」

竹林が補足する。


「まあ、この作戦の成否にかかっているものは、たかだか人類半分の命運だけだからね。

怪我に気を付けて気楽にやってきてね。何かあった時の責任は全部、俺がかぶるからさ」


・・・んもー、時々、義政はこういうこと言うから困る、ちょっとかっこいいじゃん・・・

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