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【軌道戦士編】②異動辞令 ~ いつでも、広橋良子は命令に従う

「あっ良子お姉ちゃんだ!会いたかったよ」

自宅に戻った富子は、いつもより高い声で笑顔でその女性に声をかける。

しかし、すぐにいつも表情に戻り

「なんて言うわけねえだろ、良子ねぇ!、なんでうちにいるんだよ!広橋を追い出されたのかよ!」

「お父様に報告することがあったからよ、それとあんたにも」

「ああー、こっちも言いたいことあるわ、お前んとこのまいチュー、ちゃんと教育してんのかよ!」

「こっちは、まいまいから妹の教育をしてんのかって言われているわ。」


広橋良子と日野富子は日野家の姉妹である。

良子は、日野家の親戚である広橋家に後継ぎがいなかったために養子になった。

日野、広橋ともに日本から移民してきた由緒ある侯爵家である。


「第8戦略軍への異動になるのよ」

「プッ、良子ねぇ、それ左遷すか。ついにやきが回りましたね。おめでとうございます。」


第8戦略軍。辺境軍と呼ばれる帝国の外征部隊だ。

帝都を遠く離れ、辺鄙な土地での作戦が多く、日々の生活面での苦労・不便も多く帝国軍の中で最も不人気な職場である。


「内々だけど、我が国も、この度、ようやく新国際連合への加盟が決まったわ。

それもあり、近々に連合軍による解放軍への大規模反攻作戦が開始されるのよ。辺境軍は、その作戦の先鋒を務めることになるのよ。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

解放軍。

正式には、「宇宙移民解放軍」という新国際連合軍の敵役である。

何それ?って感じなんでここで少し人類の歴史を振り返るので、暫しお付き合いいただきたい。


西暦2200年。

繰り返される全世界的なパンデミックの脅威と、石油エネルギーの枯渇から人類は宇宙に新天地を求める。

「国際宇宙移民機構」が設立され、国家の垣根を超えた宇宙移民の計画がスタートする。


西暦2250年。

最初の宇宙植民島「マダガスカル」が完成し、宇宙移民が開始される。


西暦2300年。

天才物理学者である有馬博士によって宇宙空間に無限に存在するエーテルを運動エネルギーに変換する方法が発見される。


西暦2320年。

エーテルを運動エネルギーに変換し、蓄積する技術であるエーテルポットンが実用化され、ほぼ無限のエネルギーを獲得した人類の宇宙への移民が一気に加速する。

またこの技術を利用した核兵器の威力をはるかに超える超兵器「エーテルポットン爆弾」が開発される。

さらにこのエーテルポットンは、地球上における交通機関を姿を一変させた。

すでに石油・レアメタルは枯渇し、原子力もその役目を終える日が近づいていた地球の各国家、企業は、宇宙から運んだエーテルポットンを中核エネルギーとして利用するようになる。

都市の地下に巨大なエーテルポットンの貯槽を作り、そこからエネルギーを供給することにした。

しかしエーテルポットンエネルギー(EPE)は、電力のように簡単に蓄積できるものでもない。

したがって、各国ともに都市においては、鉄道網を張り巡らせて、線路からエネルギーを供給し、車輛を動かすという新しい交通システムを構築したのである。

また都市間、国家間を結ぶ数多くの長距離鉄道も建設されていく。

この交通システムの構築は、国家よりも多くの民間、すなわち権力者や企業などが主導になって行われ、彼らの収益基盤・利権となっていった。

そして、多くの鉄道を私有する権力者、経営者などが、その経済的・政治的支配を強め貴族化していくのであった。


西暦2400年。

宇宙移民が全人類200億の人口の7割を超える。

このあたりから、「国際宇宙移民機構」は、各国の国家権力の手先として宇宙移民から搾取を行う暴力装置へと徐々に変貌していく。

同機構の中に、国際連合宇宙治安維持軍(通称連合軍)が発足し軍事力強化のために移民への搾取がさらに強まっていく。


西暦2500年。

国際宇宙移民機構の圧政に耐えかねた宇宙移民たちは、ついに立ち上がり第一次宇宙移民大一揆が勃発。

宇宙移民たちは、地球に住む権力者への見せしめのために、「国際宇宙移民機構」筆頭理事国であった日本に対してエーテルポットン爆弾を大量投下し、日本は滅亡する。

(事前にエーテルポットン爆弾の投下を察知していた日本の権力者や富裕層は、主に欧州に移民し、難を逃れる。)

結果、地球側は、宇宙移民の権利を認めざるを得ず、各宇宙植民島は地球からの独立を勝ち取った。

しかし各宇宙植民国家の多くは、やがては、地球の各国家権力や企業と癒着していくことになる。

そして、宇宙植民国家は、親地球派と反地球派に分かれ反目するようになる。


西暦2601年。(革命歴元年)

第13宇宙植民島ラビアで反地球派将校たちは軍事クーデターに成功し、暦を宇宙革命歴元年とする。

ラビアを中心として反地球派の宇宙植民国家が結集し、「宇宙移民共和国連邦」を結成。各国軍を「宇宙移民解放軍」(以下解放軍)として統合する。


西暦2602年。(革命歴2年)

宇宙移民共和国連邦は、親地球派の宇宙移民国家ならびに国際宇宙移民機構との戦争状態に突入する。(第二次宇宙移民大一揆)

解放軍は、親地球派の宇宙植民島にたいしてウィルス兵器を使用し、住民を皆殺しにした上で地球の落下させる作戦「地球大天罰」を決行し、結果、地球上の多くの都市は壊滅し、大規模な気候変動が発生する。

地上の混乱に乗じ、解放軍は地球降下作戦を実行し、地球に存在するマスドライバーの8割を破壊または手中に収めることに成功する。

なお、宇宙における戦闘においては、双方がエーテルポットン爆弾を撃ち合ったために、両陣営とも甚大な被害を出す。

そしてこの第二次宇宙移民独立戦争初期の戦いにおいて、かつては200億以上の人類の人口は十分の一まで減少する。

人類の種の存続さえ危ぶんだ両陣営は、エーテルポットン爆弾及び生化学兵器の使用を禁止する条約を批准し、以降、戦争の規模は一気に縮小、局地的なものとなったが、今日まで慢性的な戦争状態が続いている。

また、この大規模な気候変動によってふたたび脚光を浴びたものもある。

それは風力である。風力発電ではない。「帆」である。

気候大変動によって、常に一定方向に吹く強風、「大風流」がうまれた。

再び深刻なエネルギー不足に陥った地球では、この大風流を利用するために船舶はもちろん、大陸横断鉄道なども帆を張っては風の力を利用するようになったのである。

エネルギー不足によって地上での行動に大きな制限を受けるようになった両陣営の戦略においては、この「大風流」もまた無視できないものとなった。


西暦2669年(革命歴69年)

国連および国際宇宙移民機構は解体し、「新国際連合」が発足。

地球の国家および親地球派の宇宙移民島国家の多くが加盟し、大規模な反解放軍への統一戦線の実現となる。


西暦2670年(革命歴70年)

解放軍の中心的指導者であるアハル・キラ首相が謎の死を遂げる。

解放軍の求心力が弱まると予想した新国際連合は、大規模な反攻を企図する。

そしてこの国、東欧の軍事大国であるベルンシュタイン帝国の貴族院は新国際連合への加盟を決定したのであった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「じゃあ、私、お父様と話した後であんたの部屋にいくわ」

それだけ言うと良子は背中を向けた。


2時間ほどして寝巻姿の良子が富子の自室に入ってきた。


「もう、良子姉ぇ、部屋に入る時はノックしてよ」

「変なことでもしてた?」

「はあ?、してないわよ。それにもう寝巻?」

「辺境軍へ異動の件だけど」

「ああ、いつ行くのよ?良子姉ぇ」

「あんたも行くのよ」

「はい、ん、えええええええええええ!」

「明日には辞令が出るわ」

「良子姉ぇ!、なんで私が、辺境軍なんかにぃ!こんな真面目で、つつがなく任務をこなしている善良なる私が!」

「誰のことを話しているかわからないわ」

「お姉ちゃん!お願いがあるんだ」

富子は、両手を合わせて、上目遣いでお願いのポーズをとる。

「優しいお姉ちゃんに、退職届の書き方教えてほしいなあ」

「名ばかりの名誉貴族で、頭の悪いガサツなあんたなんかの転職先なんかあるわけないわ」

「くそ、じゃあ、えへん、俺は可愛い部下をおいていくわけにはいかんのだ、良子くん」

「桜ちゃんも、菫も了承済よ。あの娘たちも一緒にいくのよ」

「私より先にあいつらに言ったんかい?、事前に説得したんかい?、良子姉ぇ、あんた汚ねえぞ」

「あんたたち、執行猶予ついていること忘れたの?あんたと、桜ちゃん、菫の3人合わせて、懲役1200年でしょ。軍務についている限り猶予されてること忘れたの?」


「そういう良子姉ぇこそ」


そこまで言って、富子はハっとして言葉を抑えた。


「良子姉ぇ・・・ごめん・・・」


広橋良子についての執行猶予は「死刑」である。

度重なる軍務規定違反によって死刑判決が出ており、富子たちと同様に軍務についている限りの猶予となっている。

もちろん、その原因は、富子たちの命令違反・規則違反によるものだ。


「今さら、気にしてないわ、まあ自業自得だし」


「わかったよ、行けばいいんでしょ、行けば・・」

富子は良子から目を逸らし拗ねた表情を作って答える。


「ほんと、うれしー、さすがは私の可愛い妹、富子ちゃんね」


満面の笑みで良子は富子に抱きつき、頬を合わせる。


「ちょっと、お姉ちゃん!」


富子は少し顔を赤らめる。


「あー、富子が快諾してくれたから、なんかほっとして眠くなったわ、じゃあ、おやすみ」

そう言うと良子は、そそくさと富子のベッドにもぐりこんだ。


「お姉ちゃん、だから、もう、そこ私のベッド!」


良子はすでに寝息をたてていた。


「・・もう仕方ないんだから・・・」


富子は諦めて姉の寝ている横にもぐりこむ。

過酷な任務の疲れのせいか、富子もすぐに夢の世界へ。





「・・・お姉ちゃん・・・」



浅い眠りのだった良子は、その声に目を覚ます。



・・・なんだ富子の寝言か・・・



・・・寝ている姿は、こんなに可愛らしいのに・・・



良子は、妹の寝顔を見つめながら考える。



・・・このわたしの妹なのにこの子は馬鹿で粗雑で・・・



・・・なんも取りえないもないのに・・・



・・・何か不思議な力があるわ・・・



・・・人を惹きつける力が・・・



実際、今、富子に元にいる永園菫も、六分寺桜も軍では有名な問題児であった。

その2人が富子を慕い、信頼して、その力をいかんなく発揮している。

少し口をあけた富子のピンク色の可愛らしい唇を見つめながら良子は思う。



・・・富子も、富子なりに頑張っているのね、じゃあご褒美に・・・




・・・久しぶりにキスでもしてあげようかしら・・・

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