【室町編】⑪★~真名を教えて貰いました~
漆黒の闇がどんどんと大きくなっていく。
・・・あーあ、さすがにこの状況は回避不可能だな・・・
・・・まったくもう、まったくもうだよ・・・
・・・私、またここでリタイヤか・・・・
・・・でも菫ちゃんと良子ねえが一緒だから今回は少しは寂しくないかな・・・
・・・あれ、そういえば良子ねえは?気絶でもしてんのな。えっ?・・・
すっ
両手を広げた良子が、私の前に出て、勝元の前に立ちはだかった。
「勝元様、あなただけは許せません!」
「良子姉ぇ、それ、かっこいいけど、すごくかっこいいけど、でも無理だよ」
「ハハハ、このバカ姉妹。二人仲良く死んでいけ!では、さらばだ」
闇が迫ってくる
漆黒の闇がどんどんと
・・・ああ、もうだめだ・・・
私たちの体が漆黒の闇に包まれようとしたその瞬間
『力を・・・』
・・・まばゆいばかりの光が・・・
『私の力を・・・』
・・・春の木漏れ日のような・・・
『解放いたします・・・』
・・・温かい光が・・・
・・・なんか意識が遠くなってきた・・・
バタッ 私は力なく倒れこんでしまった。
・・・ん??・・・
・・・そして自分の唇に温かいものを触れるのを感じる・・・
・・・私、もしかして今キスしているの?・・・
・・・誰と?・・・・
・・・ぼんやりとした意識の中で
・・・闇が、闇が消えていく・・・
・・・『まさか、お前が、お前がそうだったのか』・・・
・・・近くで男の人のささやき声が聞こえる・・・
・・・優しい声・・・
闇とともにまばゆい光も収まりようやく周りが見渡されるようになった。
そして私は意識を取り戻す。
うわっ! まじかよっ!
こともあろうか私は仰向けに倒れた勝元に覆いかぶさり唇を重ねている!
なんと私の初キスの相手は細川勝元なのである!
ありえない!私の初キスが!
「富子様大丈夫です。邪気は完全に消えています。」
「菫!何が大丈夫よ、邪気とかそういう問題ではないでしょ?」
「それとあと良子、ってあんた春ちゃんでしょ。」
「へへ、どうですか?私の変装もまんざらではないですよね」
聞くところによると何か特殊な目薬をつかって瞳の色を変えていたそうだ。
「しかし本来でしたら、私の力だけで細川様の邪気を払うところでしたが」
「春姫様、万一の際の富子様への保険が思いもよらぬ形で役立ちましたね」
「菫、何よ保険って、うっ!」
私は突然、強烈な嘔吐感に襲われた。
「春ちゃん、菫ごめん、もうダメ」
おげええええええええええええええ。。。。。うっぷ
私は喉につかえていたものを一気に吐き出した。
そして自分の吐き出したものを見て卒倒しそうになる。
気味悪くウニョウヨと蠢くドロドロとした無数の白い生き物!
そう、私が吐き出したものは生きたナメクジの大群だったのだ!
「げえぇええええええええ
な、なによ、これ!なんでこんなもんが、私の口から出てくんのよ!」
「富子様、このナメクジ様は邪気を払い、いかなる毒さえ中和するありがたき力をもった神の使いなのです。実は、今朝の朝食の際に仕込ませて頂きました。
そして、このナメクジ様は、澄んだ心の持ち主の体の中でより強く繁殖し力を発揮するということです。これも富子様のお心の美しさをの証でございましょう」
「菫、お前いいこと言っているようだけど、実際は、ひどい事してるぞ」
「富子様、そんなナメクジさんを悪くいわないでください。可愛いじゃないですか。
子供の頃、私はずっとこの子たちと一緒に暮らしてきたんです。」
「えっ?春ちゃん、子供の頃って?」
「はい、久しぶりに力を使ったせいか、少し昔のことを思い出しました。私の本当の名前も」
「名前?春ちゃんの本当の名前?」
「桜です。春の花の桜です。」




