【室町編】①★~たかが一人の女性の行動が歴史的大乱の原因とかありえんでしょうに~
「ちっ!なんでこれだけやって一揆が起らないのよ!このくそゲー!」
あたしは、思わずコントローラーを握りしめる
あっ!終了しちゃった・・・・チェックポイントからの再開なのに・・・
「まあいいわ、どーせ煮詰まってたし、なんかアホなゲームでやって気分変えるか」
あたしは、Switchの電源を入れる
・・・なんだっけこのゲーム、ああ確か前に間違ってダウンロードしたファミコンアーカイブのやつか・・
・・・ふん、百姓が一人で一揆とか起こせるわけないじゃん、馬鹿なの?死ぬの?・・・
・・・あ、でも、伊達政宗と余目持家が2人で一揆を起こした事例もあるしな・・・
・・・ああ、このブスうぜえ、これもくそゲーやん、めちゃイライラする・・・
「みく!いい加減に降りて来なさいよ!あんた待ちなのよ」
階段の下から姉のキンキン声がする
「みく、ごはんは皆で食べたほうが美味しいよ」
ああ、お前は馬鹿のひとつ覚えのようにいつもそういうね
「はい、はい、分かった、今降りるから」
そういって階段に足をかけた瞬間、あたしの体は宙を持った
ズーーーーーン!
何かトンカチで頭を勝ち割られたように強い衝動を受けて、目の周りが真っ暗になった
あたしは何が起こったのかわからなかったが、遠くで姉や妹たちが叫んでいるようだった
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あれ、今のなんだったんだろう
もしかしてこれが前世の記憶ってやつか
で、私の名前は日野富子。
公家の名門家系日野重政の娘として生を受け、今日まで何不自由なく育てられた贅沢好きの高慢ちきな姫なんです(自分で言うかw)
・・・そういえば、今日は、父日野重政と花の御所に来ていたんだっけな・・・
時は数時間前に遡る。
初めての室町御所に興奮した私はあちこちを走りまくった挙句に、父とはぐれてしまったのであった。
そこで私は一人の少年に出会った。
緑がかった黒髪、透けるような白い肌に切れ長の細い目。
いにしえの歌人在原業平を彷彿とさせる美少年だった。
そして子供とは思えないほど、落ち着いていて、なんとも言えない上品さが漂っている。
誰だかわからないけど、きっとやんごとなき身分の方かもしれないわ。
これはしっかりと友好関係を結んでおかないと。
そう思い、私は声を作って美少年に声をかける
「こんにちわ。ここは本当に素敵な御所でございますわね。これも、この国を統べる室町様のお力の表れなのでございましょうね」
「そうですか、君には今の幕府に力があると見えるのですか?」
「ち、違うのですか?」
「幕府には、もう力なんてありませんよ。地方では一揆や横領が蔓延って関銭や津料の収入もままなりません、山城からの税収もしかりです。」
「そう、なんですか?」
確かに私の父も、常に「金がない、金がない」と言っている
名門日野家とは言えやはり台所事情は火の車らしい。
私は、もっと贅沢がしたいと日々思っている。
もっとお金があればなあと日々思っている。
奇麗な装束を沢山揃えたいし、美味しいものも食べたい。
だから、私は思わず口にしてしまった。
「でしたら、もっと関所を沢山つくって関銭をとればいいじゃないですか」
「お前、すごいなあ」
その少年は、びっくりしたように私のほうを見つめる
「えっ、ありがとうございます。こんな事を言うと父母もはしたないって言うんですよ。
でも、私、将来は権力を得て、沢山お金を稼いで、贅沢をしたいのです」
し、しまった!ついいつも癖で思っている事を言ってしまった、
しかし少年はそんな私の発言にひくでもなく・・
「そうか、じゃあ僕も頑張らないとなあ・・」
そう言って私に背を向けて速足で歩きだした。
「もし、あの、あのお名前を!」
私は慌てて、少年を追おうとした。
その瞬間、湿った地面に足を滑らせて、転んでしまった。
庭石との闘いに敗れた私のおでこはざっくりと割れ、鮮血が噴出する。
白い庭石がみるみるうちに赤く染まっていく。
私の頭の中で世界がぐるぐると回っていく。
そして思い出したのだ。
前世を・・・
私は17歳の女子高生。
家族構成は父と姉妹。
歴史好きのオタク腐女で陰キャである。
勉強は大の苦手で落第寸前。
そして、多分、間抜けなことに階段から足を滑らせて短い人生を終えたのである。
・・・そういえばあの日は新しい家庭教師がくるとか言ってたな・・・
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花の御所の庭園で倒れた私が、自分の屋敷で目を覚ましたのは翌日の夜半であった。
・・・よりにもよってなんで日野富子なのよ!・・
・・・あの女最悪じゃない・・・
あたしは、ご多分に漏れず戦国武将好き。
好きな武将は、大谷吉継と竹中半兵衛。
メインは戦国時代を中心だけど源平合戦とか、太平記とかも好き。
その時代をテーマにした歴史小説やマンガ、シミュレーションゲームなどには、思わず食手を伸びてしまう。
室町時代とか応仁の乱とか、あのカオス感も嫌いではなかった。
山名宗全とかも。かっこいいなと。
確か私は、前世で死んじゃう直前にやっていたゲームは、応仁の乱をテーマにしていた歴史シミュレーションゲームだったっけ?
最後にやっていたゲームの世界に転生とかなんてありがちななろう展開なの?
私は、山名氏でプレイして山城の国一揆を起こそうとせっせと謀略繰り返していたのであった。
あっ、じゃあこの世界は、室町時代の日本じゃなくて、あのシミュレーションゲームの世界ってことか!
確かにシミュレーションゲームでは、シナリオによっては実際の日本の歴史と全く違った結末になる。
ちなみにプレイヤーは、8代将軍足利義政、将軍の弟足利義視、管領細川勝元、山名宗全のいずれかを選んでゲームをスタートする。
しかし高齢の山名宗全は、早めにシナリオクリアできないと死んでしまい、山名政豊が後を引き継ぐことになる。
・・で、富子はどうなるだったっけ?・・・
私は、最初にプレイした義政のシナリオを思い出した。
義政には、今参局という思い人がいたのだけれど、日野富子と政略結婚させられてしまう。
そして義政は、今参局を側室に迎え、彼女に愛情を注ぐ。
義政と富子の間には世継ぎとなる男子が生まれるが、その日のうちに夭折してしまう。
そこで最初のイベント発生。
富子は、自分の子供が死んだのは、今参局が呪いをかけたからだ、あの女を殺せと主張する。
富子の言う通り、今参局を手をかけると、今参局の怨霊で富子は死亡し、なぜかGAME OVER
富子の言う事を聞かずに、今参局を守るために。富子を島流しにしても、GAME OVER
富子の言う事を聞いたふりをして、こっそり今参局を琵琶湖沖島に流すとイベントクリアになる
何これ!2/3で確率で富子は死亡か島流しじゃない!
そもそも正室をどんな理由で島流しにできるのよ?
それに今参局は、最近の研究では、義政乳母であって側室じゃないことを知らないの?
このシナリオライター馬鹿じゃないの?
とにかく、ここは作戦会議を開いて慎重に検討しなくていけないわ
そういえば、私は困ったことがあればよく姉や妹に相談していた。
でもここには相談できる身内もいない。
私が、
私自身が、あたかも姉や妹になって
姉妹たちの考えを模索して、
彼女たちの思考を模倣して、
考えをまとめていくしかないのである。
思考を整理していくしかないのである。
「では、第一回幕僚会議を始めます。まずは、義政様の富子への愛情はないことが問題の根本にあると思われますが」
「はあ、そんなに簡単じゃん、大人の色気で義政くんを惹きつけれておけばいいだけじゃん」
「えっ!馬鹿なの?追えば追うほど男は逃げていくんでしょ。ツンデレ作戦で行くのよ、あんたのことなんか好きじゃないんだからって」
「無理・・・歴史的な事実としては、義政は全く富子に愛情を注いでいなかった」
「よしまささーん、義政さん」
「どうでもいいけど、お腹が好きましたわ」
ダメだこりゃ・・
私はこんな会話を姉妹たちとしていたのであろうか・・・
多分、そうだったとも言えるし、そうでなかったとも言える。
「皆さま、そもそも富子が足利義政と結婚しなければいいのではないですか?」
「そうか!その手がありましたね」
「無理・・・将軍家と日野家と昔から古くから繋がっている・・」
「では、こうしましょう。今参局さんと仲良くして恨みを買わないようにする」
「そうね。あと、島流しになった時には、何か手に職をつけて生きていけるように準備する」
「農業はどうでしょう?農業の技術を身につけておくのです。」
「それ、あるう」
さしあたっては、私は農業の技術を身につけるために稲作と野菜作りを始めることにした。