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君の瞳の呼ぶ声がする  作者: 椎名呼瑠
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手を伸ばす影

駅の改札を出て徒歩1分。タイル張りの階段を降りて道路に出ると、もう予備校が見えた。灰色の冷たい建物で、大きな看板が出ている。


道路をまっすぐ予備校に向かって進むと、スーツ姿の男の人がプリントをひらひらさせながら近づいて来た。


「3年生の説明会ですかー?」

高身長の細身で、割ときちんとした男性だった。学生バイトの人だろう。


「はい。そうです。」


「でしたら、この建物の3階に上がってください。」


軽く頭を下げて、手渡されたプリントを見るとクラス分けのことや成績のことなど事細かく書かれていた。

予備校内はなんとなく騒然としていて、個別相談を受け付けている人などで溢れていた。受付に群がる人を横目に、入って左手にあるエレベーターに乗った。


「何階ですか?」


「あ、3階お願いします。」


3階に着くと、そこは一階の受付以上に人で溢れていた。入り口の人にまた新たな資料をもらい、後ろの方の席に腰を下ろした。


「。。。それでは、資料3を見てくださいーーー」


説明会は淡々とスムーズに進んでいった。

ふと、目に付いた人がいた。


さらっとした後ろ姿で、長い首。すごく雰囲気がある人だった。


「それでは、これで説明会を終わります。個別説明も受け付けているので、遠慮なく聞いてくださいね」


ガヤガヤと人が席を立っていった。真紀もあわてて立ち上がり、教室を後にした。

その後個別説明を聞き、美沙に連絡を取ると顧問に捕まって行けそうにないということだったので、帰ることにした。


せっかく来たのだから自習室を見てみようと思い、上の階にある自習室に足を運ぶことにした、。エレベーターはすぐに来た。


「あの!」

後ろから突然声をかけられて振り向くと、男の子がいた。


「あの、説明会に来たんですか?」


「はい。」


「よっかたー俺もなんだ。自習室見に行くのなら一緒に行ってもいいかな?」


口調も優しく、いい人そうだった。ちらりと服に目をやると、知らない高校の制服だった。


「じゃあ、また。」

ひらひらと手を振って駅前で別れた。


次の日の学校はなんとなく憂鬱だった。


「まーき!おはよ!ほんとごめんね〜昨日は」


席に着くなり後ろから飛びついて来た美沙。平均より少し肉付きが良い美沙に首を締められると、結構きつい。


「おはよー美沙!全然いいよ!はい、これ昨日の資料。もらって来といた。」


「え!ありがとう〜」

可愛いいのに加えて気が効くわね〜と言いながら美沙はニコニコ席に戻って行った。


「金子さん、予備校行くの?」

隣の席の田中くんが話しかけてくる。田中くんは陸上部に所属していたからか体格が良く、友達も多いらしく何かと話しかけてくる。


「うん。ちょっと心配になってきて。」


「えーじゃあ僕も行こうかな〜」

半ばふざけて、半ば真剣な顔をこちらに向けてきた。真紀は微笑み、濁しながら席を立った。

真紀は田中くんが苦手だ。何かと話しかけてきてはお節介を焼いてきたりする。


お昼休みになった。

「えー何それ!ナンパだよ!ナンパ!やっぱ真紀は可愛いもんな〜うわー」


美沙に昨日話しかけてきた男の子のことを話すと苦笑いをしていた。ふと、何気なく美沙が廊下に視線を動かした。真紀は気づかないふりをしながらその視線の先を追うと、


「正樹〜!!おい今日一緒に勉強しようよーぜ!」

友達に腕を引っ張られる正樹君がいた。


「俺は一人で勉強する主義だから〜ごめんな〜」

申し訳なさそうに笑う彼に嫌な印象を持つ人はいないだろう。


「あ、金子さん!」ニコニコしながら正樹は真紀に手を振った。真紀もニコニコ手を振り返すと、周りの男子がざわつき始めた。


「え、お前金子さんと友達なの?紹介しろよ!」


真紀はお弁当の唐揚げにくっついたキュウリを取るのに夢中だ。ちらりと顔を上げて美沙を見ると、何だか気が乗らない顔をしていた。


「どうしたの?美沙。」

ダイエット中なのか、美沙のお弁当箱にはレタスが詰まっていた。持病の影響もあり、浮腫みやすい美沙は自分の体型のことを気にしていた。


「なんか、私ね、実は聞いちゃったんだけどさ、」

キュウリを剥がすことに成功した真紀は、満足そうに美沙の顔を見上げた。


「正樹君とこの間すれ違った時に、挨拶したのね、そしたらその後の放課後、お前今日も挨拶できて良かったなーって言われてて、正樹君すごい照れてて、もしかしてーって思って。。。」


「え!?正樹君って美沙のこと好きなの!?」

びっくりして落とした箸を拭くために、ポーチの中のウェットティッシュを出しながら、真紀は興味深々のようだった。


「うんー。さっきもそうだったけどさ、全然私の顔見てくれないんだよねー。ほら、真紀にだけ手を振ってたでしょ?」


「うんうん!恥ずかしがってるってことか!」目をキラキラさせた真紀は、美沙に顔を近づけた。


「よかったじゃん!正樹くん優しくていい人だし」


「うんーでも、いまいちタイプじゃないっていうかーねー。。。」


ムシャムシャとキャベツを口いっぱいに頬張りながら、美沙は難しい表情を浮かべた。


その日の放課後も、美沙は顧問に呼ばれたようだった。仕方なく一人で学校から駅に向かった。


「真紀ー!」

呼ばれて振り返ると、光がいた。光は同じクラスの女の子で、確か予備校に通っていたはずだ。


「真紀、予備校入るって本当?クラスの男子が言ってたよ!!」


「うん、まあね」

光は男好きで有名だった。学校で人気の男子と仲良くしている友達が気に入らないらしく、悪口を言うことがよくあった。


「そろそろ、入らないとかなーってね。」

他愛もない話を光としながら駅までの道を歩いた。


「てかね、すっごいかっこいい人が予備校に入ったの!!2週間くらい前からだから、一応新規入学ってことで説明会に行ってたかも」


ふーんと興味なさげに真紀はうなずいた。駅で別れると、通学途中にある駅の図書館へ向かった。


時間はあっという間に過ぎた。気づいたら閉館時間で、真紀は素早く参考書をリュックに詰めた。制服の襟を整え、足早に図書館の階段を降りた。駅前にある図書館で、30秒ほどで改札に入れる。ちらりと後ろを振り向くとーーーーーいる。一年前ほどからいつも真紀と同じ時間に帰る男の人がいた。少し帰り時間を早めた日も、遅くなった日も、毎回同じ時間に後ろをついて来ていた。


何かをしてくるわけでもないし、特に誰にも相談したことは無かった。


ーーーーぐわっ!


急に腕を掴まれ、体が変な形で傾く。必死で足を踏ん張ると、じんわりと掴まれた腕が熱くなった。


「あの、実はずっと好きだったんです。」


怯えるウサギのような瞳で、真紀は男性を見上げた。

いつも付いてくる人だった。


「付き合えないかな?」

若いが高校生とは思えない風貌だったし、急に掴まれ怖くなったこともあり、真紀は少しその人と距離を取った。不安げに瞳が揺れた。


「ごめんなさい。勉強で忙しくて。」


「実は僕も、今年大学受験なんだ。浪人していて。。。」それでも引き下がらない彼に根負けしてLINEを交換し、別れると、もう閉館時間から2時間が経っていた。スマホを開くと着信が4件も入っていた。

母に連絡をとり、中学の友達と偶然再開して話していたと嘘をつき、急いで電車に飛び乗った。


その日の夜、5件のLINEが入っていた。図書館の男性は斎藤さんと言って、実は2つ年上だった。4件は彼からで、1件は美沙からだった。







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