Episode 1-2
「っ……」
揺れる列車の中、青年は嫌なことを思い出したようにハッと目を覚ました。
どうやら、頬杖を付いたまま眠気に耐えられず数時間ぐらい寝ていたらしい。
「あの出来事からもう、十五年が経ったのか」
そう言って、少し長めに伸ばしてある銀髪を靡かせ、透き通るような碧眼の瞳で
窓の外を見渡しているのは今年で二十歳になるウィル・アーヴィンという青年だ。
彼が言っていたあの出来事とは――。
十五年前、彼が五歳の時に何者かによって彼の父親が殺されるという事件があった。
母親も既に他界しており両親が居なくなってしまった少年は親戚の家に引き取られることになったのだ。
更に親代わりであった親戚もつい最近、病気で他界してしまった。現在は彼一人で生活している。
「まさか、ソルド本部の転勤とはね……」
どういう巡り会わせなのか。はたまた女神の悪戯なのか。
親戚の死後、突如、セルジュ支部から本部へと転勤をする事になった。
本部にいる人々は実績を積み上げてきた、いわばエリート達が集まる場所であるため、
目立った実績を上げていない彼にとっては不思議で仕方が無く今でもあまり信じられない。
そして今日、彼はヴィオラにあるソルド本部へと手続きに向かうためこうして列車に乗っているのである。
どうやら列車は既に第二工業都市のフィオナを通り過ぎておりもうじきヴィオラに着くらしい。
次は、ヴィオラ、ヴィオラステーションです、とアナウンスが入ると、ウィルは立ち上がり、
上に置いてある自分の荷物を取って駅に列車が止まった後、改札口を通り駅を出た。
「此処がヴィオラか……」
駅から出ると今日は休日のせいもあってか辺りはたくさんの人が行き交っていた。
住んでいたセルジュの町よりも何倍もの店が並んでおり、この国の中でもかなり大きい都市である事が良く分かる。
「えっと、ソルド本部は何処にあるんだろう?」
鞄の中から、地図を取り出して辺りを見回す。
どうやら地図を見てみると此処から結構近い場所にあるらしい。
地図と道を交互に見やりながらウィルは駅前通りを通り、商店街、住宅街を抜け、歩いていく。
そしておよそ数十分後、異様な雰囲気の建物が住宅街から少し離れた場所に建ってあった。
扉の門には、水晶やサファイアといった昔ながらの宝石の護符があちこちに散りばめられており
異様な雰囲気を漂わせていた。
「本当に此処なのか……?」
地図には赤印で此処を示しており、実際、門の横にもソルド本部と
この国の言語であるアルマ語でそう書いてあった。
「何か入りにくいけれど、まあ入るか……」
そう言って、ウィルは地図を鞄の中にしまい門の扉に触れようとした時
後ろから誰かに手を止められた。