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Ein Band der Rache -another story-  作者: 雨音ナギ
Episode 3 アレンの新人時代
14/15

Episode 3-2

そういう訳もあって、試験に合格した二十人の二年生達は、三日後の今日、卒業式に向けて様々な思いを馳せながらこの学校での生活を振り返っていた。

合格した彼らは希望の組織を伝えた後、試験の成績により振り分けられ、アレンはヴィオラにあるソルド本部へと配置されることとなった。

ソルドの中でも本部はエリート中のエリートと言われており、まだ学校を卒業したての学生が配属されるのは極めて異例である事から、この学校の歴史の中でも群を抜いて注目の的となっていた彼だが、特に気にする素振りも無く、一週間後に控える卒業式を行った後、四月初旬から本部の方へと勤め始めた。


彼が配属されたのは、生活安全課と言われる、要は街で起こる日常トラブル処理の部署であった。

大概はこちらに持ち込む事件がほとんどだが、トラブルが起きた物にて事件性が高いものは刑事事件を捜査する警察課の方へと回される。

本部に勤める十人の内、当然のことながら、新卒として採用されたのはアレン一人だけで、他は違う地域からの異動になった人物が来ており、異動した彼らが大半を占めていたこの部署からでは、当初はアレンはあまりよく思われていなかった。


「これ、書いておいて」


通常、本部はどの部署に関しても、事務員採用以外の人物ではローテーション制の警備などの実地活動がメインだが、アレンは異動先から来た先輩から書類整理ばかりを頼まれていた。

外での警備の仕事はしなくていいんですか?と言う彼だが、まだ経験が足りないから危ない、と告げられ、先輩に反論して問題を起こすことも自らの野望を断ち切る可能性もある事から、一年余りの程、大人しく書類整理をこなしていたある日の昼、電話応対として出たアレンは一件の通報を受けた。


「もしもし、こちら生活安全課ですが、どうされましたか?」


電話の声の主は若い男性だった。

男は切羽詰まったような口調で彼に話を始める。


「ろ、路地裏で……変な男に刺された……」


アレンはその言葉を聞いた瞬間、目を見開いた。

自身の心臓を落ち着かせるように冷静な口調を保ちながら、今いる場所を聴きだして、

その場から動かないよう伝えると電話を切らないように男に告げて保留にしておき、直ぐに登録された番号へダイヤルを繋げる。

繋げた先は警備隊の救急本部であり、患者の状態と現在地の場所を言って電話を切ると、繋いだままにしていた保留を止め、彼に伝えて立ち上がると通報説明と指示を仰ぐために上司が座っているデスクに向かう。


「すみません、ヴィオラ郊外にある路地裏で重病人が発生したようです。至急、実地担当の人物へ連絡をお願いします」


しかし、上司は彼に思わぬことを告げた。


「申し訳ないが、アレン……お前が直ぐに行ってくれないか」


彼が理由を尋ねると、どうやら市内のメイン道路で起こった玉突き事故と先ほどの襲撃事件の急遽の警備強化配置命令により、実地に向かう人間が少なくなっているらしい。

現場検証に回す人数が足りないと言う事でアレンは、他の部署に所属している黒縁メガネを掛けた茶髪の男と一緒に車へ乗り込むと事件が起こった路地裏の方へと向かっていった。


アレンが目的地に向かう途中、茶髪の男は神経質そうな見た目から反して、優しく声を掛けていた。

本部に勤め始めてから十年以上経つベテランらしく、名はアドルフ・クライドと言い、事件を捜査する警察課に属する人物だった。

車を走らせて数分、事件現場となった場所は思わず顔を背けたくなるほどのおびただしい程の血の量であふれていた。

搬送された男性の容態は一刻を争うほどだったらしく、現在は搬送されて集中治療室にて治療が行われているという連絡を受けた。

駆けつけた警備隊から事情を聞くと、早速、現場検証を行うために、アレンとアドルフは手袋をはめて、状態を確認し始める。

地面が血まみれになった以外、何も落ちていない。

路地裏に捨てられたゴミ袋も全て開くが凶器と思われる鋭利な刃物は見つからず、犯人が持ち去ったのだろう、と推測を立てた。


「武器から指紋が出てくればデータベースに問い合わせたら出てくるかもしれないな。こういう奴らは再犯者の可能性が高いし」


アドルフは持っていた携帯端末を取り出すとデータベースに登録されている過去の犯罪者のリストを取り出して探し始めるが、条件に一致する情報が出てこなかったのか彼は小さく嘆息をすると自らのポケットにしまいこんだ。


「ふむ……。出てこないか。これ以上の詳しい検索となると一旦、本部に戻って解析を行わないと無理そうだ……。アレン、戻るぞ」


彼は隣にいたアレンにそう声を掛けると乗ってきた車に乗り込み、警備隊の隊員に保存するよう求めて現場を後にしたのだった。


本部に戻った二人は、引き続きアレンの他本部への仕事の関わりを彼の上司に伝える為に廊下を歩いていると、今風の髪型に整えた薄い焦茶色の髪をした男はアレンの姿を見つけるやいなやこちらに向かって走ってきた。


「アレン、なにしてるんだ」


その男は一年余りに渡ってアレンに対して指示を送っていた言わば先輩であった。

隣にいたアドルフはその姿に気がつくと、すまないがね、と彼にアレンを引き続き事件の捜査として数日間借りさせてもらいたいという願い出をだしたが、男は眉を潜め怪訝そうな表情を浮かべて語尾の荒い口調でアドルフに反論し始めた。


「アドルフさん、それは困ります。アレンにはまだ書類整理の仕事が残っているんです。

ただでさえ、うちの課は人が少ないのにこれ以上抜けられたら困りますよ」


「抜けるといっても最大でたかだか一週間程度の事だぞ?警備シフトもこちらで組み直すし、その程度で仕事がおぼつかなくなるとは思えないがな」


「書類整理は全部アレンに任せてるんです!僕達は実地担当なので書類整理の人が居ないと困るんですよ」


その発言を聞いたアドルフは目を鋭くすると、男の元へと詰め寄り冷たい口調で言葉を紡ぎ始めた。


「今、何て言った?新人だろうが、警備での実地シフトは義務付けられているはずだぞ?

まさか、お前らは書類整理を全部こいつに投げて、自分たちは楽な警備巡回ばかりしてたんじゃないだろうな?」


男は焦った口調で否定するが、その額には冷や汗が浮かんでいたのをアドルフは見逃さなかった。

つまらん奴だ、と彼は一蹴すると隣にいたアレンの手を取り、そのまま反対方向へと歩き始めた。


「ちょっと!何処行くつもりですか!」


「もうお前らには用はない。こいつは私の権限で強制的に借りさせてもらうからな」


戸惑いと焦りの声音を滲ませていた男だったが、アドルフの迫力に押されたのかそれ以上何も言えず、彼らは外に出て小さなカフェへと入っていった。

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