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Ein Band der Rache -another story-  作者: 雨音ナギ
Episode 2 アレンの過去
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Episode 2-5

「すごいですね。彼、全部的中させてますよ」


地区大会の観客席の中、二人の男がある少年の競技を見ていた。

周りは予想外の演技で驚いているのか誰一人喋ろうとしていない。

綺麗な黒髪をなびかせている男ともう一人淡い青色を煌かせている男は近くでアレンの演技を見るためにBコート席で佇んでいた。

どちらも死神と思わせるような黒いコートを着込んでおり何処か威圧感を感じさせるが、観客は彼の演技に見とれている為気にする素振りも無い。


「ああ。ただ、撃ってるときの表情見てみろ。全く目が笑ってない。さっきまであどけなさが残る少年だったのに銃を持たせた途端、殺人鬼みたいみたいな目をしてる」


「確かにそうですね……。でも、殺人鬼というより、何かを拒んでいるような……そんな感じですね」


「彼に何かあったんだろう。だが、これ以上の逸材は居ない」


「で、これからどうするんですか?」


「ちょっと話をしてくるよ。任せた」


黒髪の男がそう言うと、青色の髪を煌かせている男は苦笑いを浮かべてやれやれといった表情を浮かべた。もうこれはいつもの事だ。

彼は逸材を見出すとそれ以外のことに構っていられなくなる。

だが、逆にそれは一つの物をより深く詳しく見つけることが出来るということを意味している。

だからこそこうやって組織の幹部にまで上り詰めることが出来たのかもしれない。


「また押し付けですか。……早めに戻ってきてくださいよ」


わかった、と一言男に残して黒髪の男は観客席を降りて関係者以外立ち入り禁止であるはずの少年の控え室へと向かって歩いていった。


流石、新しく出来た競技場と言うところか。

控え室は各選手ごとに個別に分けられており内装もシンプルながらもきちんと整えてある。

勧誘を追い払い、不機嫌な表情を浮かべて少年――アレンはタオルを手に持ったまま歩いていた。


(どいつもこいつも僕に勧誘してくる……。僕はその為にこの大会に出てるわけじゃないのに)


彼がこの大会に出ている理由。

それはただ単に世の中に対する憂さ晴らしの為だけだ。

別の言い方に置き換えたらストレス解消の為、ということ。

確かに自分の実力がどの程度あるのか知りたい為に参加したのもあるが、大体はただの趣味程度でやっている。

彼から見たら、優秀な人材確保で勧誘してる周りが邪魔でしかならない。

そんな事を考えながらアレンは自分の控え室に戻ろうとした時、ふと不意に背後から人の気配を感じた。

振り返ってみてみると自分と同じ黒髪の男性がにこやかな表情を浮かべこちらに近づいてくる。


「ああ、すまないね。競技中には声を掛けれないものだから。ちょっと気になって来てみたんだが……」


「僕は学校には行きませんから。帰ってください」


どうせ、また勧誘だろう、とアレンは男の言葉が終わるのを待たずに淡々と冷たい目で男を見つめそう言った。そして中に入るためにドアノブに手を掛けようとする。


「――君、今の世の中に不満があるんじゃないかい?」


男の言葉にドアノブに手を掛けようとしていたアレンの手が止まった。

彼は振り向いて驚いた表情を浮かべるが、そんなアレンに気にせず男は話を続ける。


「その態度を見るとどうやら図星って所かな?君の過去に何があったかは知らないけど、もう少し広い世界を見てみたいと思わないかい?」


「広い世界だと?」


「ああ。今、君は狭い世界でしか物事を見れていない。今の世の中が気に入らないから興味が無い……なら、変えてみたくないか?」


男の話の内容はアレンを虜にさせた。

そんな夢見たいな話があるもんか、と内心思いつつも期待してしまっている自分が居る。


「世界を変える?そんな事出来るのか?僕と姉さんの楽しかった日々も戻せるっていうのかよ?僕は姉さんとの日々を戻せるのならどんな悪行を行ってでも取り戻したいがな」


アレンは苦々しい顔でそう吐き捨てた。

今の言葉は絶対に叶えられない事だと分かっている。

分かっているからこそ、こうして陰険な態度を取ってしまう。

黒髪の男は彼の言葉に何か気がついたのかそちらを見やった。


「そうか、君は……。どうも容姿が似てると思ったらシェリー・ハロルドの弟だったのか。

残念ながら君とシェリーの日々は取り戻すことは出来ないが……。真実を知る術はある」


「どういう事だ?」


「君の姉さんは私が所属している組織『ソルド』に所属していたんだ。どうやら彼女はソルドの仕事とは別に何かをやっていたらしい。実は現在でもこちらで捜査中なのだがね。

未だに真実は掴めてはいない。もしかしたら今後、有力な情報が掴めるかもしれない。どうだ、これを機に彼女の本当の真相を知りたいと思わないかね?」


その一言で彼の目が大きく見開く。

そしてさっきまで不機嫌な表情を浮かべ、競技前には見せていなかった冷たい瞳が見開いていたのが嘘のように彼の瞳の中に魂が宿り戻っていく。

まだ冷たい目をしているが、前とは違い無気力な瞳ではなく明らかに真実を追い求めたいという思いが込められていた。


「そのソルドって組織にはどうやったら入れるんだ?」


「ソルドに入るにはちょっとした手順を踏まなければならない。

国立アルマヴィオラ訓練学校に二年通って卒業試験と国家試験に合格しないといくら私の推薦でも入ることは難しいだろう。

君には素質があるからもしかしたら短期で卒業出来る可能性もあるがね。まずはそこからだ。だが、君の叔父さん達の意向もあるから今すぐに返事は難しいだろう。出来れば明後日までに返事が欲しい」


「分かった。何とかしてでも叔父さん達を納得させるよ。……最後に聞いていいか。お前は何者だ?」


「私かね?私は人事部の最高責任者のミラン・クライドだ」


男はそういい残すとアレンに背を向け来た道を歩き始めた。

彼の様子に不思議な感覚を覚えながらもアレンはドアノブに手をかけて部屋に入った。

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