Episode 1-1
Episode 1
――初めての出会い。
ウィルのちょっとした昔話。
「?」
ベットの中に入り、夢の世界へと落ちようとしていた幼い少年の耳に聞こえてきたのは微かな物音。
枕元に置いてある時計の時刻を見ると既に午前零時を回っていた。
「お父さん?」
この家には母親や他の兄弟は居ない。
母親は既に帰らぬ人となっており、彼以外に兄弟も存在しないからだ。
彼は部屋を出て、一階に降り物音がするリビングの方へ向かって歩いていきそっと足を進めて階段を降りていくが、不思議なことに辺りの部屋の電気一つすら一つも付いていない。
(やっぱり、気のせいだったのかな……)
お気に入りであるくまのぬいぐるみを胸に抱きかかえたまま彼はそう考え
もう一度、上へ上がろうとしたその時、更に大きな物音がリビングの方から聞こえてきた。
誰だろう、と思いつつドアをそっと開け周りを見渡す。
明かりは付いておらず漆黒の闇が部屋一面を支配している中、手探りで部屋の電気のスイッチを探し出し電気を付けると、その瞬間思いもよらぬ光景が少年の目に映った。
一人の男性が血の海の中に横たわっているのである。
少年は驚きと恐怖に襲われながらも、倒れている男性に向かって走り出し近づく。
「お父さん!ねぇ、お父さんってば!」
いくら少年が呼びかけても彼の父親と思われる人物は全く反応を示さない。
少年の目からは涙が溢れ、彼の衣服に雫が落ちていく。
「あら……。こいつ、子供まで居たのね……」
部屋の中に響き渡る、女のハスキーボイスの声。
少年はおそるおそる振り返る。
そこには全身真っ黒の服に包まれ、サングラスをかけた長身の女が立っていた。
唇には赤い口紅を塗っており、何処か妖艶な感じを醸し出している。
スタイルもかなり良く、恐らくサングラスを外したらかなりの美人の分類に入る人ではないだろうか。
ただ、彼女の手には拳銃が握られており普通の人間ではないことは少年でも理解は出来た。
「あっ……あっ……」
恐怖のあまり、少年は叫び声も上げれずただ呻き声を漏らすだけだ。
そんな少年を見て、女はフッと笑みを零す。
「大丈夫よ。直ぐに貴方のパパの下へと逝かせてあげるから」
女は少年へ近づいていくが、少年は一歩ずつ後ろへと下がっていく。
そして少年が後ろの壁にぶち当たったとき、女は何処か楽しそうな表情で彼のこめかみに銃口を当てた。
「さあ、もう逃げれないわよ。ほら、最後ぐらい笑ってよ。今から貴方のお父さんにあっちで会えるんだから」
彼女が銃口を引こうとしたとき、外からサイレンの音が聞こえ始めた。
そのサイレンの音はどんどん近づいて来ている。
「ちっ、あの男、隙を見て警備隊呼んだわね……」
女は窓の外をチラリと見た。
どうやら少年の家の近くへと向かってきているらしい。
此処で銃を撃つわけにはいかないわね、と女は言い、少年のこめかみについていた銃口を離す。
「命拾いしたわね。ま、私があんたをただで済ますわけにはいかないから……」
彼を冷たい目で見下ろし、持っていた銃を腰にかけ踵を返し、華麗な動きで人に見られることが少ない裏口から出て行った。
数分後、駆けつけた警備隊の人々によって少年は保護された。
緊急に付近の捜索が行われたが、少年が見た長い金髪の特徴的な女性は見当たらなかったらしい。
既に父親は亡くなっており、その後少年は親戚の家へと引き取られることになった。
この出来事は彼がまだ五歳の時の出来事であった――。