『レジェンドオブブレイブ』の魔王
PC用ファンタジーRPG『レジェンドオブブレイブ』安直な名前ながら、その特異設定により、一部のマニアから一時の人気をはくしていたゲームである。
プレイヤーは通常のファンタジーRPGと同様に、始まりの街からスタートする。ゲームの主目的は、人々を苦しめるモンスター、またそのモンスターを束ねる魔王を打ち倒すことである。
ゲームを進め、モンスターを倒すほどに、レベルが上がり、金が増える。
以降も基本的には他のRPGと何も変わらない。
最終ステージである魔王城で、魔王を倒してゲームクリア。
ただ、主を失った魔王城はどうなるのか、そこをこのゲームは追及している。
魔王を倒したプレイヤーは、次の魔王となるのだ。
魔王になったプレイヤーはやることが大きく変わる。
まず、戦う機会があまりない。
魔王プレイヤーが戦うのは、他のプレイヤーが魔王討伐に挑戦するときだけである。
しかも、魔王プレイヤーがゲームを起動しているときでないと、魔王討伐への挑戦はできないので、ほとんど戦うチャンスはない。
なら、魔王は何をするのか?
簡単に言えば、女性型モンスターに対してのメロゲーである。
モンスターの中には、人間の女性に近い形のモンスターが何種類かいて、魔王プレイヤーは、そんなモンスター達と仲良くお喋りすることができる。
モンスターにはイケメンもいるので、魔王プレイヤーが女性の場合は、こちらとお喋りする。
そんなゲームにのめり込んだ一人の魔王がいた、その名は『エンペラー』。
彼は、ゲームログインから一ヶ月で早々にクリアし、以後は毎日、モンスターとのお喋りを楽しんでいた。
彼の奇特なところは、女性型モンスターだけでなく、男性型、獣型、霊対型まで、ありとあらゆるモンスターと仲良くしていたところだ。
普通の魔王プレイヤーは、異性のモンスターを落とすために全力を尽くす。
しかし『エンペラー』は、自分に遣えてくれる大切な仲間として、全てのモンスターに接していた。
そのため、1年がたつ頃には、彼は全てのモンスターからマックスレベルの好感度を得ていた。
彼はそんな楽しい魔王生活を、3年も満喫していた。
ほぼ毎日ログインしているということは、結構な回数のプレイヤーの挑戦を受けることになる。なのに、彼が3年も魔王生活を楽しめたのは、挑戦してきたプレイヤーのほとんどを、赤子の手を捻るかのように打ち負かしてきたからだろう。
歴代でもっとも優しき魔王は、歴代でもっとも強い魔王だった。
彼が3年で魔王を止めたのは、決してプレイヤーに負けたからではない。
当時中学生だった彼は、高校入学に合わせて、ゲームを引退したからだ。
魔王プレイヤーは、他のプレイヤーに負けて魔王の座を譲るまで、魔王を止めることはできない。
つまり、『エンペラー』は現在進行形で魔王である。
ログインしないため、誰からの挑戦も受けず、モンスター達と一言も話さない魔王。
最強の魔王を、実質上封印したプレイヤー『エンペラー』
彼の名は、岡野定高であった。