出会いはぷよぷよと共に
どんな物語でも、自己紹介をしない主人公はいないはずだから、もし俺が主人公だとしたら、ここで名乗って置くべきだろう。
俺の名前は岡野定高
家族構成は、父と母と妹が一人、あと、実家には祖母がいる。
日本生まれの日本育ち、ピュアでクリアなジャパニーズ。
趣味は読書と昼寝。もちろん、昼寝が趣味と言っても日がな一日中寝ているわけではなく、また、枕さえあれば3秒で寝付ける眼鏡の少年のような特技があるわけでもない。
ただ、疲れた日はゴロゴロしたいだけだ。
そういう思考は高校一年生になった今でも変わらないわけで、放課後はまっすぐ家に帰り、最低限宿題を済ませた後は、思春期に突入したての妹をからかうなりゴロゴロとテレビを見ながら寝落ちして、夜に叩き起こされる生活の繰り返し。
もちろん同級生との交流などあるはずもなく、入学当初は、『友達を100人つくる!』などというどこの小学生だと言われるような目標を胸の内に掲げていたのだが、塵にも等しい努力もむなしく、今のところその目標の1%しか達成できていない。
さて、俺の自己紹介は大体済んだと思うので、お次は現在の状況分析といこう。
今はいつか?
高校生活最初のゴールデンウィーク、その二日目の昼前だ。
ここはどこか?
市街地にある俺の家、その二階にある俺の部屋だ。
何があるか?
本棚と机、ベッド、それと机の上で、テレビがアナログ放送からデジタル放送に切り替わるときに見られた、昔懐かしの砂嵐なるものを起こしている俺のパソコン。
《誰》がいるか?
俺と、俺の顔面に柔らかい2つの物体を押し付けている全裸の少女。
はい、最後だけ意味わかんない~。
「あの、だいじょぶですか?」
突如として聞こえてきた可愛らしい声。
あいにく俺の目は幸せな物体で塞がれているから、誰が喋ったのか確認はできないが、俺のわけがなく、この部屋にいるのは二人だけなので、声の主はこの少女(全裸)で間違いないだろう。
「重いですよね、どきますね」
え、なんでそんな残念なことをするの?と言おうとしても、目と同様に口も塞がれており、というか、鼻も塞がっていてこのままだと窒息しそうだったので、起き上がろうとする少女を止めはしなかった。
さて、今の体勢を確認すると、全裸の少女、しかも今気付いたがすごい美少女が、仰向けで倒れたままの俺の下腹部にまたがっている状態であり、これをイラストに描こうものなら、全国の教育委員会から苦情が殺到し、出版社ごと潰される。それくらいやばい体勢である。
ちなみに、視線をあさっての方向へ向けて少女の身体の一部でも視界に入らないようにしている自分を誉めてやりたい。
「あの、どうして壁の方を見ているんですか?」
それはあなたが魅力的なあれこれを恥ずかしげもなく露出しているからですよ。と言ってやりたいが、ちょっとのことでセクハラだなんだと騒ぎ立てるこの世の中、俺の一言でおまわりさんのご厄介にならないとも限らない以上、黙って口をつぐむしかない。
ただ、そんな心情とは裏腹に、赤色巨星ばりに赤くなっていく俺の顔を見て、何かに気づいたようで。
「そうでした、人間には服が必要なんでした。すみませんが、何か着るものをください」
いろいろと気になる発言ではあったが、俺にとっては全裸のままでいられるほうが問題なので、なるべく相手の方を見ないようにしながら、着られそうな服を探すことにする。本来なら、女性用の服を妹に借りるべきなのだろうが、現状を妹にうまく説明できる自信がないため、自分の服の中から見繕うことにする。下着がないのはしょうがない。
俺は適当に、Tシャツとジーンズを選んで、それを放ってやる。
しばらくして、着終わったようなのでそちらを向くと、Tシャツ、ジーンズともにかなりぶかぶかだった。俺はけして大柄な方ではないので、それだけにこの少女が小柄だとよく分かる。そして、そんなぶかぶかTシャツのでも、その存在を知らしめている胸部の膨らみが、なんというか、けしからん。
何より驚いたのは、少女の髪と瞳だった。最初は気が付かなかったが、どちらも鮮やかに淡い青色をしている。髪にいたっては、透き通っているようにさえ見える。
そんな少女にしばし見とれていると、少女は三つ指をついて頭を下げ。
「須浦イムと申します。魔王様、ふつつかものですが、どうかよろしくお願いします」
俺はただ、疑問符を浮かべて呆けることしかできなかった。