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コメディーらしく

 不安の種を抱えたまま、エレベーターに乗り込む。私の他に人は乗ってきていない。

 ふぅーやっと落ち着くことができる。

 全くオークめ、いきなり訳の分からん宣言をしてきやがって、私小学校上がるまでしか子役やらないつもりなのに。

 俳優になるとか言ってたけどやめられないフラグたったりしてませんよね?


 レッスン終わり、サトーさんの所に来るように言われていたので、2階のボタンを押す。

 エレベーターが下がる時の浮遊感を感じながら、家に帰ったら何をしようか考える。

 今帰ったらママいないし、撮り溜めてあるキラパラでも見ようかな。それともユリキュアを見返そうか。


 考えているうちに、エレベーターの扉が開いて、降りると、廊下に出た。

 事務所の2階は、真っ直ぐな廊下にいくつも無駄におしゃれでデザインにこだわったであろう、扉が並んでいた。

 これはいったい何に使うんだろうと、興味をもち、1番近い部屋を見てみると、会議室と書かれたプレートがついている。

 会議室こんなにこだわる必要あるのか?

 とツッコミを入れつつ先に進む。

 サトーさん、2階に来てくださいしか言ってなかったし、どこに向かえばいいんだろうか。

 デスクワークをしているというヒント意外ないし、ちゃんと聞いておくべきだったな。

 というかここどこなんですかね?

 気がつくと、行き止まりに来てしまっていた。慌てて振り返るが、考え込んで進んでいたせいで、全く道順なんて覚えていない。

 私もしかして、精神年齢28歳なのに迷子?


 普通の4歳児と違うところはその事実を認識しても泣き出したりしない所だ。

 さっき演技力で、のあちゃんに完敗してるんだし、ここで泣いたりして、これ以上そのへんの4歳児に負けたくない。

 私は28歳だ。こういう時どうすればいいかぐらいは知っている。

 まずはポケットからスマホを取り出してって、そういえばまだ持ってないじゃん。やばい泣きそう。

 スマホが命と言ってもいい世界で生きてきた私にとって、スマホがあるのとないのでは、安心度が違う。

 そういえば前世のスマホ今頃どうしてるかなぁ?

 

 これまでは1人で外に出る機会がなかったので気にしていなかったが、これからの事を考えると買ってもらった方がいいな。

 涙をこらえつつ、私は前を向く。ネガティブ禁止。

 しかたない、あまりいい手とは思わないけど、人に聞くことにしよう。

 ロリコンのおっさんを引かない事を切に願う。

 適当に歩き回りつつ、人と遭遇するのを待つ。

 しかしこういう時に限って誰とも会わない。

 まさか転生した時に運を全部使い果たしてしまったのか? 流石にそんなことないか。

 とにかく迷子であることを忘れるために、どうでもいい事を考える。

 


 「あれ? エレベーターまで戻ってきたな」


 閉まっているエレベーターが表示のランプが5、4と動く。

 どうやら人が乗っているらしい。

 もしかしたらこの階に止まるかもしれないと思い、その場で待つことにする。

 3階の表示でランプが止まり、チーンとベルの音がして、扉が開く。

 は? 3階? 

 じゃあ私が散々歩き回ったここは3階で、2階だと勘違いしていたって事?

 ドヤ顔で事務所の2階と言ってしまった自分を過去に戻って殴りたい。

 というか赤ちゃんからやり直したい。いや今その真っ最中なんだけども。


 降りてきたスーツのおじさんとすれ違いようにしてエレベーターに乗り込んだ。

 もう転生者って恥ずかしくて名乗れません。


 改めて2階に着くと、エレベーターの目の前でサトーさんが腕を組んで、高速でヒールを床に打ち付けながら、待ち構えていた。

 表情は鬼のようとまで行かなくても、充分魔よけとして通用するぐらいに、怖い顔をしていて、正直言って恐ろしく怖い。

 

 恐怖で竦みそうになる足に力を込めて、エレベーターを降りる。

 降りてすぐにサトーが冷たい声で、話しかけてくる。


 「紗那さん。遅かったようですが、何かトラブルでもありましたか?」


 今はこの丁寧な口調すら威圧しか感じない。

 前世のブラック企業時代でもここまで威圧感と恐怖を感じる人には会ったことがないぞ。


 素直に話したところで許してくれそうにないし、何か言い訳を考えるべきだろう。

 というか、階を間違えたましたなんて恥ずかしくて口が裂けても言えない。

 子供ならもしかしたら許してくれるかもしれないが、この話がそのまま、ママの所に行く可能性を考えると、言えるわけがない。

 絶対からかわれるし、28歳にしてママから、数字の読み方を教わる事になるのも屈辱的だし。


 「その、お友達とお話してたらつい」


 「まぁ、今回はいいですが、次からは終わったらすぐに来てください。どうせ迷っていたとかそんなところでしょうし」


 一応、確認されても嘘にはならないような内容を告げておく。

 嘘をつく時はちょっと真実入れるとバレにくいはずなんだけど、サトーはボソッと正解をつぶやいた。

 何でバレたんだろう?


 「それでは行きますよ」


 サトーさんは意外と優しいのかもしれない。恐怖と尊敬を抱きつつ、サトーさんの後ろをついて行く。

 レッスンは終了したしあとは家に帰るだけだ。


 そう思っていたんだが、しばらく車を走らせてると、家とは違う方がに向かっていることに気がついた。


 「あの、サトーさん。おうちに帰るんじゃないんですか?」


 普段、車に乗っている時見ている景色と全然違った事に違和感を感じて、聞いてみた。


 「文乃さんから聞いていませんか?」


 サトーさんはハンドルを握って真っ直ぐ前をみたまま、不思議そうな声でそう返してきた。


 「んー? 何も言ってなかったです」


 今朝の事を思い出して見たけど、ママがどじなおしゃれ好きって事以外に、特にエピソードはなかったはずだ。

 その後のオークと恥ずかしい階数間違えで、上書きされてる感はあるけど、特になにか言われた記憶はない。

 やっぱりオークが悪いってことだな。


 「はぁー、全くあの人は……こんなにおしゃれな格好させておいて、大事な説明を忘れるなんて。それでは、簡単に説明します。これから宣材写真を取りにいきます」


 「洗剤? 写真をお洗濯するんですか?」


 洗剤写真だなんて芸能界には、変わったものがあるんだなぁ。

 

 「ぷっ。紗那さんっ。くくっ。ぶー」


 何が面白いのかそれまで一切笑ったことがなかったサトーさんが、突然笑いだした。

 最初の方は我慢しようとしていたようだけど、すぐに我慢が効かなくなってたちまち大爆笑。

 

 「サトーさん危ないです」


 ハンドルを握りながら笑うもんだから、ちょっと車が蛇行運転する。

 しかしそこはプロ。

 すぐに笑いを引っ込めると、また真面目な顔に戻る。

 笑ったサトーさんも可愛いかったし、定期的に笑わせてやろう。


 「ふぅー。ええと、ですね。宣材写真というのは子供にはちょっと難しい話ですから、まぁとにかく写真を取りに行くということです」


 「むぅー」


 私が子供だから説明しても理解できないと思っているのか、ざっくりとまとめる。

 もちろんそんな雑な説明で納得するわけはないので、頬を膨らませて不満をアピール。

 一分ほどアピールをしたのが効いたのか、サトーさんは、たっぷり言葉を選び一時。


 「1番わかりやすい説明は初仕事です」


 とだけ言った。


 「お仕事!」


 その単語を聞いた瞬間、社畜根性が、騒いだ。

 仕事、それは命を削ってやるものだ。


 「紗那さんは嫌がらないんですね」


 「ん?」


 「いえ、文乃さんは写真撮影があるような仕事が入るとすごく嫌な顔をしますから。てっきり紗那さんもかと」


 ママは根っからの女優だし、取材とかがあまり好きじゃないらしい。

 あんまり雑誌の取材が続くと一緒に寝る事になるからペースを考えて欲しいとは思うけど。

 ママ人を抱き枕にするから寝苦しいんだよ。


 「でも仕事は仕事ですから」


 「そうですね」


 しみじみつぶやく私達は、撮影スタジオにやってきた。


 車を降りて、入口に入ってすぐにサトーさんが振り返った。


 「では紗那さん少しここで待っていてください。いいですか、私か、スタッフが来るまで絶対動かないでくださいね」


 「はい」


 頷いのを確認すると黒い扉のなかに入って行く。


 しばらくぼーっと待っていると、その扉から見知らぬお姉さんが出てきた。

 あたりをぐるっと1周見回すと、私の方に近づいてきた。

 なんだこのお姉さんは? スタッフさんかな。


 お姉さんは私の前までくると、しゃがみこみ、目線を合わせて、顔をまじまじと見めてくる。

 バッチリ目が合い気まずくなりながらも忠実に動くなと言われたので頑張ってそこにとどまる。

 顔の隅々までガン見してきたお姉さんは、最後に数歩下がって全体を見ると、苦いものでも口に放り込まれたような渋い顔をした。


 「うわっ、この子にメイクとかいらないじゃん。何このプロ泣かせの可愛さ。悔しいけどちょっと髪型を整えるぐらいにしときますかね。じゃあスタジオのなかに行くよ。ちびっこ」


 どうやらこの人はここのスタジオのメイクさんか何かのようだ。

そりゃ私は自分でも引くぐらいに可愛いのはわかってるけど、だからってちょっと嫌そうな顔しないでくれないかな?


 美人って同性から疎まれる話があるけど、私将来そうなりそうだな、今のうちから対策考えておくべきか。

 メイクさんの後をついて歩きながら、ぼんやり考える。


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