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第1回映画制作会議。まずはハマりそうな役を探そう

 「それじゃ我々は監督の後ろの方から撮影しますのでよろしくお願いします」


 異能少年ヤハシ君の撮影をこなして、場所移動。

 初めてロケバスでしてちょっと新鮮だったけど、私はバスよりサトーさんの車の方が落ち着く。

 まだバスに慣れてないだけって可能性もゼロじゃないけど、前世でもバス酔いするタイプだったし、それが影響しているのかもしれない。

 病は気からなんて言うし。


 やってきたのはオフィス星川の大会議室、通称三ッ星。

 星川監督が代表を務める映像制作会社だ。

 5階建てのビルの4、5階オフィスとして借りているらしく、主に星川監督の映画制作、CM制作などのサポートするスタッフが在籍している。

 調べて知ったことではあるがアニメーションの制作も一部行っているんだとか。

 メインではないので知ってるような作品はなかったけど。

 会議室の名前がちょっとおかしいのはなぜだがは知らない。

 今日の会議の内容は10周年記念作の脚本会議になるのだろうか?

 まだ詳しい内容は聞かされていない。

 私の事を聞き、それにハマる役を作り出すための打ち合わせという事しか明かされていないのだ。


 必要最低限のテレビクルーだけが残ると、ラベルを剥がされたペットボトルと袋から出されたお菓子が運ばれてきた。

 この社員さん1人だけスーツで目立ってるな。

 あっ、サトーさんもスーツだったごめん。

 高級なお菓子もいいけどこういうスーパーやコンビニで売ってるのも嫌いじゃない。

 ちょっとよだれが出そう。

 映画撮影からここまでものを食べてる暇なかった。


 「紗那さん、お腹すいたんですか?」


 肩を叩かれサトーさんにちくりと釘を刺された。

 カメラが回る以上、あまりだらしない顔をするなってことか。

 気を引き締めて臨もう。

 終わってから食べよう。


 カメラがスタンバイが整うと、監督が会議室に入って来る所から始まった。

 しっかり後ろからついてきている。

 無許可での取材なんて今の時代ありえない。ただし不祥事を起こした時の報道の突撃取材を除いて。


 「今から、会議です」


 ドキュメントらしくカメラにこれから何をするかを伝える監督。

 何だか傍から見ていると、笑える光景だな。

 会議前にドヤ顔決めて会議だと言うシチュエーションはそうそうないし。

 カメラ意識してる感じが面白い。

 なんというかちょっとかっこつけてる感じが漂う。

 普段役者にクサイ芝居はいらないって言ってるのに自分がそれをするんだもん。

 どうしても笑いそうになる。

 カメラ向けられればプロなので簡単切り替えできるが、カメラ外では笑いのツボが浅いからか変なタイミングで笑うことがある。

 それか疲れてるのかなぁ?

 連日仕事入ってるしね。


 素早く椅子を引いて私の正面に座ると、メモ用なのか白い紙を1枚机に置き、ポケットからボールペンを取り出した。


 「それでは第1回映画制作会議を始めます。よろしくお願いします」


 会議室には、監督と私の他にサトーさんと、スーツの社員さん以外はドキュメント取材のスタッフしかいない。

 極秘プロジェクトに位置づけられているのか最低限のスタッフでしか打ち合わせをしないみたいだ。

 その場にいる全員が軽く一礼をするとようやく会議が開始された。


 「じゃあさっそく、さなちゃんは演技楽しい?」


 その場にいる全員が何を言い出すのかに注目している中、星川監督の最初の質問は拍子抜けするぐらい捻りのないものでその場が一瞬完全に止まった。

 もちろん私も固まってしまった。

 フリーズ状態から数秒して頭が言葉を理解して答えを考え始めるまた少しの時間がかかる。

 演技が楽しいかと聞かれればもちろん楽しい。

 ようやくいろんなところから必要とされてオファーが来るようになったのだからそれは当然だ。

 反響が来るのも悪くないし、ロケでいろんなことろにも行ける。しかもサラリーマン時代より稼げる。

 なにより客観的に成果が形になって認められるのがいい。

 毎日に似たような書類作成とデータの打ち込みだけをしていた前世のサラリーマン時代よりは格段に刺激的な日常を送っている。


 「はい。楽しいです」


 なので迷うことなくそう答えることができた。

 ただ休みが少ないのと朝が早いことが難点ではあるけど。


 私の返事を聞くと監督は表情をじっと観察するように私を見つめるとなにやらペンを走らせる。

 そしてそこから数行何かを走り書きすると口を開いた。


 「最近はまってることは?」


 「アニメとドラマ鑑賞です」


 前者はただの趣味で後者は職業柄だが、はまっていることには違いない。

 とするとアニメは鑑賞だけどドラマは研究と言った方が適切かもしれないな。


 「アニメ? さなちゃんそういうの見るイメージないから意外だね」


 監督は微笑を浮かべてペンを走らせる。

 そんなにイメージからかけ離れているのかな? 子供らしくていいと思ってたんだけど、イメージと違うなら雑誌の取材でそういうのを聞かれた時の返答を考えねばならないな。

 人気商売をやる以上イメージは壊さないように発言には気を付ける必要がある。

 

 「そうですか?」


 「なんというか、僕の勝手なイメージなんだけど、さなちゃんは他の子役よりも大人びてる感じがしているんだよ。だからそういう子供らしい感じのものとかうまく結びつかなかったんだ」


 監督大正解。

 中身は30手前でしたー。

 とクイズ番組ならアシスタントの女子アナウンサーが言うだろうなと考えがながら、冷や汗が頬をつたう。

 星川監督って人の弱点を的確に付く魔眼でも持っているの?

 最初の撮影では思い切り苦手をつかれたしその次は見事に核心に近い発言をするし、もう超能力者じゃないと説明がつかない。


 「お仕事でちょっと年齢の高い役をやることが多いですから研究しましたのでそれのせいでは?」


 回ってくる妹役の多くは小学校1、2生の役で私からすれば年齢の高い役になる。

 役の性格によっては少し子供らしさを抑えた演技も必要になるので国民の妹と呼ばれてからはその調整をできるように研究した。


 「そうだね。多分そのイメージがあるからだと思う。なら例えば見た目は子供で頭脳は大人みたいな感じとか出来そうだね」


 むしろ似たような状況ですから演じる必要がないですね。

 正確に言えば見た目は美幼女魂は社畜なんだけどさ。


 「あはは。流石にそこまで大人びてませんよ」


 「でもこういう系の話あまり多くないし意外とありだと思う。さなちゃんなら演じきれると思うし。よし! こっち系の話で進めて行こう。他には何かない? 例えば演じてみたいキャラクターとか」


 急に言われてもぱっと出てくるわけはない。

 役者は来た役を演じるのが基本だもん。

 主演やりたいとかそういう願望はあっても妹役やりたいとかピンポイントな役をほしがる役者はそういない。

 しいて上げるなら昨日見た吸血鬼の殺陣はかっこよかったなぁ。

 魔法を打ったり、攻撃を華麗に避けたりしてさ本当に命をかけた戦いしてるみたいだった。

 古めの映画だったから少し今の映画と比べれば画質が良いとは言えないけど、それでも表情まではっきり伝わってくる作品だった。


 「吸血鬼ですかねぇ」


 「なんとも珍しいね」


 ぱっと吸血鬼が選択肢として出てくることは滅多にないだろうしその反応は正しいと思う。

 私もこの映画を見てなかったら思い浮かぶことはなかっただろうしね。


 「昨日見た映画に出てきたのでつい頭に浮かんでしまって」


 「もしかして吸血鬼と獣人かい?」


 「よくわかりましたね」


 「その作品の監督キタムラさんっていうんだけど僕の恩人でね監督を始めた頃にいろいろお世話になったんだよ。すごくお酒が大好きな人でねぇファンタジー系の作品を撮るのが好きな人だったよ。よくご飯に連れて行ってもらった」


 なんだか変な思い出スイッチを押してしまったらしい。

 星川監督の思い出話は10分ほど続きその日は解散となった。

 一体どんな映画になるのやらちょっと不安だな。

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