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やっぱりママいつも明るい

 いつものように夕食が出来上がると、向かい合って食べ始める。

 遅めの昼食を胃袋におさめてからまだ3時間もたっていないから食べ切れるか不安だ。

 まぁ、不安の種はそれだけじゃないけど。

 無言の空間に箸を動かし咀嚼する音が2人分なり続けていると、ママが不意にその手を休めて私を見つめだした。

 顔に何かついているかな?


 「あら? 紗那ちゃんいつもより食べるのを遅いけど、もしかして具合悪いのかしら?」


 さすがママだ。私の変調を食事のペースから見抜くとは。

 親バカぶりが相変わらず恐ろしい。

 普通、人の食べるペース気にする?

 それとも母親なら普通なのかな?


 それは置いといて、一応ママには報告しておいた方がいいよね。

 ほんとはまだ計画段階だから喋っちゃ行けないんだろうけど。

 喋るなとは言われてないし、保護者だから問題ないはずだ。


 「実はね、さっき主演が決まって。……それはいいんだけど、もう1本映画出演が決定してるからスケジュールとかちょっと不安なだけ」


 いくらサトーさんがスケジュール調整のプロだとしても、多分これまでの私の子役史上最も休みのない恐ろしいスケジュールになるだろう。

 一本撮るのでも3ヶ月、ものによっては平気で1年ほどスケジュールを抑える事のある映画を2本。しかも同時期に撮影するなんて無謀と言える。

 これまでの経験から考えても、常識的に考えても、そんな事大人の役者さんでも聞いたことない。

 もちろん私は身体がついていく限り無茶するつもりだけど、残念ながら私の身体は丈夫ではないらしく、22時過ぎると眠気で撮影どころじゃなくなる。

 まぁその分早起きできるのが救いだが、撮影は長引く事が基本なので、不安が募ってしまう。


 「え? 嘘っ。紗那ちゃん主演決まったの? なんですぐに言わなかったのよ。言ってくれたら普通のご飯じゃなくてお店にしたのに」


 「さっき聞かされた話だもん。それにママは週刊誌に尾行されたりしてるから一緒に歩きたくない」


 ママは週刊誌の情報網をすり抜けて電撃結婚を決めた過去があるので、何もなくても定期的にトクダネ探しをしている記者に張られらていることがある。

 実際子役デビューした娘という爆弾を抱えているので、出来れば一緒に外を歩く事は極力避けるようにと事務所の偉い人から言われた。

 私が花京院文乃の娘である事は、業界の人でも限られた人しか知らないトップシークレットなのだ。

 昨今2世タレントにはいいイメージがついていない。

 それに今の私はコネで売れたとしか言いようがないほどにトップスピードで人気を集め続けている。

 つまり大事な時期なので今はバレるわけにはいかない。

 ちなみに明かすタイミングまで決まっているんだとか。


 「ひ、酷い。ママこれでも変装上手なのよ?」

 

 「でも社長さんに言われたじゃん、2人で外に出る時は必ずマネージャーを間に入れろって。それにママの変装はただの怪しい人だからやめた方がいいよ」


 ママの変装はサングラスにマスク、帽子を目深に被るというよく聞く変装なんだけど、残念ながらも今の芸能人でそこまで変装する人はいない。

 あまりにガチガチに変装して職務質問を受けて現場に遅れた人が役者には結構な数いる。

 特殊な世界だから変人がとっても多いので警察の目利きは間違っていないんだけど、花京院文乃白昼の職務質問!? なんて見出しで週刊誌に乗られても困る。

 なんというか恥ずかしい。


 「いい? 紗那ちゃん芸能人の変装はあれぐらいやらないとバレちゃうものなの。ってそんなことはいいのよ。紗那ちゃん主演作、誰が監督なの?」


 変装の話はあまりしたくないのか、無理やりに話題を戻す。

 

 「星川監督だけど?」


 「あの星川さんが? 紗那ちゃんずいぶん好かれたのね。良かったわねあの監督の目に止まったらもう出世コース待ったなしよ。やっぱり紗那ちゃんはママに似たのね」


 「へ? どこが? 私あんなに怪しい変装しないよ」


 「だからもう変装はいいのよ。ママも星川監督の作品に出て人気になったの。それも紗那ちゃんと同じデビューして一年後に」


 私の方は正確にはデビューから10ヵ月ぐらいなのでママより早いと言いたいところ何だけだけど、事務所にはいる少し前にドラマに出演した事があって、そこをデビューとするならだいたい一年になる。

 つまり、ママと同じような道をたどっているということだ。

 なんだが嬉しいやら悔しいやら恥ずかしいやら複雑に混ざりあった感情が心に渦巻く。

 ママは私から見てもとてもすごい女優だからその軌跡とにた軌道に乗れているのは素直に嬉しい事なのだが、どうせならママを超えて見たかった気持ちもある。

 デビュー時の精神年齢と経験的には上だし。


 「へー、ママの出てる作品ほとんどうちにないから知らなかった」


 我が家の物置部屋にはたくさんのDVDが研究資料として数多くあるけど、ママの出演作品だけはない。

 不思議には思っていたけど、あまり気にしていなかった。


 「うちにはきちんとあるわよ。でもパパが転勤する時に全部持って行ったの」


 何者なんだ私のお父さんは? 定期的に話題には上がるけど、姿を見たことが1度もない。

 勝手な想像ではやばい社畜か、海外で浮気しているかの二択だし。


 「それでその作品は主演だったの?」


 「まぁ、そうなのかな? 少女漫画のヒロイン役で、撮影が長引いて長引いて、死ぬ思いで作った作品だもの。ぜんぶ辛くて楽しい思い出」


 ママは過去に思いを馳せながら思い出話を始めた。

 すっかり冷めてしまった夕飯を食べながら、ママの思い出話に花を咲かせる。

 その中には星川監督の演技のこだわりとか、星川監督の作品の主演に抜擢された俳優さんはとても大変な思いをしたとか役立つ情報と笑える話がだいたい半分ほどだ。

 

 食器を下げ終えてお風呂に入り終えていつものようにママに髪を乾かしてもらっている時に私のスマホが着信音を奏でた。

 表示された番号はサトー。これは何が起こる予感?

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