気づいてしまったこと
サトーさんに家まで送ってもらい、かなり遅めの昼食を温めて食べながら、DVDを再生する。
さっきは途中で電話がかかって来てしまって中断してしまったのだ。
私はどんな作品でも最後まで見るのが一応のポリシーだ。
キャストとして出演していて、裏側を知っているだけに、どんな映画にだって苦労があることを分かっている。
理不尽に思えるようなリテイクに、泣かされた役者や監督や演者のわがままに頭を悩ませたスタッフの姿が思い浮かぶ。
これまでは経験してした現場は、楽しいことろはたくさんあっても楽なことは一つもなかった。
毎回現場に入る度にダンジョンに潜ったってぐらい傷ついて、それでちょっと強くなるのが現場だ。
だから私は最後まで見ることにしている。
全て見ることでその上澄みを吸収させてもらうのだから。
それに、明らかに下手な演技だったとしても、なぜ下手に見えるのかを研究すれば、下手に見えない演技が最低限できるようになるはずから、面白いとは思えない作品でも、参考になると前にとんでもない駄作をママと2人で見た時に語っていた。
仕事上のママと私は堂々と並んで外を歩く事が相当難しいので、基本的に演技の勉強にはDVDを使う事になる。
ジャンルの偏りを防ぐためにママはネットのセールがかかっている作品をよく見ずに買ったりをよくする。
基本的には名作が多いのだが、定期的にとんでもない駄作に当たってしまう。
因みに我が家の物置部屋には駄作コーナーもあったりする。
ダンボールに詰め込まれているので中身を見たことはないけど。
それとは別の事だが、出されたものを残さず食べるというのも前世からポリシーだ。
こっちは大層な理由はなくて、単にもったいないないからだ。
なのでママが用意してくれた昼食も残さず頂く。
行儀が悪いが、今日は特別に映画見ながら食べることにしよう。
ママがいない時のスペシャルタイム。
1人だから当然無言で手を動かして、ぼーっと食べ進めて、咀嚼している間に映画を見る。
そろそろ映画の方は中盤辺りだろうか?
だが、考えているのは全く別の事だ。
主演か……これで一応実績的にはのあちゃんと五分になった。
のあちゃんの主演作は小説が原作の向日葵とたいようの実写らしい。
親子愛をテーマにした作品で母親の向日葵がたいようを産んだ事を後悔するところから始まって苦労しながらも向日葵は親として成長する。そしてラストは小説は泣けると評判作品。現在40万部ほど売れているそうで、実写化が成功すればきっともっと売上を伸ばすだろう。
しかもいくつか実写化を手がけてきた監督がメガホンを取っているらしく、予告PV評判も上々でヒット作になると業界内では囁かれている。
他のキャストも実力のある人たちばかりだし。
絶賛撮影中だからどんな出来になるかはまだ未知数だけどある程度の期待は持っている。
というより楽しみだな。
実力派キャスト勢ぞろいって書かれているし、共演したことのある人も何人か出ているからそういう意味でも見て置かなければならない。
現場で会ったりした時に社交辞令がてら互いを褒める事もあるし。
競っているわけじゃないけど、奇しくも私の初出演作品も来年予定で被ってしまっている。
流石に公開時期は別だけど、向日葵とたいようは5月で私の作品が9月の予定。
タイトル未定でキャストやスタッフ、スポンサーもまだ決まっている気配はないから、もしかしたら延期の可能性ゼロじゃないけど10周年記念作ということを考えると、延期の線は低いだろう。
星川監督はこれまでは1度もそういう事をしていない監督だ。
仮にキャストに問題が降り掛かって謹慎処分になったとしても、すぐに代役で取り直しして映画にしてしまう。
星川監督が役者泣かせと呼ばれながらも、役者に本気で嫌われてないのは誰よりも自分を追い込んでいるからなのだろう。
まぁ、心配したところで分からない事を考えるのはこれくらいにして、今やれることは仕事をこなしつつ続報を待とだろう。
昼食を食べ終えて食器をシンクに置くと、なんだか無性にじっとしていられなくなった。
多分主演が決まったことでテンションが、上がっていたのだろう。
できればママに早く報告してやりたいところだ。
映画を一本しっかり見終えて、部屋に戻ってカバンから台本を取り出していると、その中の1冊を見て思い出した事があった。
異能少年ヤハシ君。
来年映画予定の作品で、監督は星川さんだ。
そう、私は超ブラック過密スケジュールが確定してしまっているのではないか?
主演と準主演作品を同時期に撮るとか、あぁやっぱり型破りな監督ですね。全然笑えないし。
まぁサトーさんが、きっとなんとかするはずだ。
あれだけ思い出したら恥ずかしくなるような言葉を使ってまで、私を星川監督10年記念作に、参加するよう説得してきたんだし、責任取ってもらわないとね。
スケジュールの件は任せて私は明日の仕事の確認でもやっておこう。
えぇと明日はバラエティか。
そこからさらに時間が経って玄関のドアが開いた。どうやらママが帰ってきたようだ。




