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リクside2 俳優になるために必要なのは痩せること

 花京院さんとのあちゃんが養成所を事実上の卒業して、今日から新しい講師でレッスンが再開される。

 うちの事務所ではレッスンでの演技で一定の評価か講師からの推薦をもらうことができればオーディションを受けることができ、そこで合格をもらい、セリフのある役を演じるできればレッスンに通う必要がなくなり卒業となる。

 名前付きの役を貰えれば多分正式所属とかになるのかなぁ?

 12歳過ぎても子役としての実績がなければ事務所をクビになる。ちなみにこっちも卒業と呼ぶ。

 できればそうはなりたくない。

 それともう一つ。前の講師は子供相手に怒鳴り散らすような雑な指導がばれてクビになった。

 まぁ、あれだけの演技をする2人をオーディション参加の許可を出していなかったのだからクビになっても不思議はないんだけど。

 その講師にも子供がいて、芽がでなくて、一定の才能のある子に当たっていたんだとか。

 そんな状況を一瞬で変えるなんてやっぱり花京院さんはすごい人だ。

 次の講師はしっかりした人でありますように。


 エレベーターを降りてレッスン所に入り、心を落ち着けるために深呼吸をする。

 どうも僕は1人でいるのが苦手らしく誰もいない部屋に長く居ると自然と緊張してしまう。

 そんな弱点を抱えたままでは俳優になって花京院さんと共演者なんて夢のまた夢だし、下手したらエキストラ止まりで終わってしまうかもしれない。

 あれだけ格好つけて俳優になると宣言しておきながらエキストラ止まりなんて格好悪すぎる。

 お父様もやるからには主演作品100本はやれと妙に期待されたし、お母様もリクなら出来ると親特有の子供の才能を信じて疑わない感じの応援してくれているし、弱点ぐらい克服してみせようと、少し早めに来て緊張を素早くほぐす特訓をしているのだ。


 そうこうしているうちに子役の卵達とその親達が続々と入ってくる。

 うちの養成所は遅刻すると、レッスンに参加させてもらえなかったりする事が稀にあるらしい。

 講師が変わったからそのルールが生きているのかどうかは分からないけど。


 10時ぴったりに書類を抱えた講師らしき男の人がやってきた。

 軽く自己紹介をすると、いつものように出されてい宿題の台本を取り出して、ホワイトボードに文字を書き出した。

 今回の評価ポイントと書かれた下には声の大きさとか評価や仕草といった当たり前のことが並んでいる。

 これまでなかったものだ。

 ちょっとはこの講師期待できるかもしれない。


 そんな期待が確信に変わったのは自分の番の演技を終え、一言評価をもらう時だった。


 「リク君だったけ? 君は演技以前に太りすぎ。なんというかね、太りすぎてて、世界観が入って来ない。これさ戦争で両親をなくして自力で生きていこうって台本だよね? そんなに肥えてるとセリフ全部ギャグだよ。表情もなんだか全部幸せそうにしか見えないし。君はとりあえず痩せるとこから始めよう。平均体重になるまで演技指導は無し。よく誰にもつっこまれなかったね」

 

 これまで僕がいくら太っていても誰も何も言って来なかったけど、この人はしっかり指摘してきた。

 この人は前の講師よりも断然しっかりしているそう確信するのと同時に痩せようと思った。

 その日から僕は人生初のダイエットを開始する。


 その日のレッスンが終わって、執事さんに迎えに来てもらって、家に帰ると、お母様がお昼を作っているところだった。

 うちは裕福を通り越しておかしいぐらいのお金持ちだったりするんだけど、お母様は料理が唯一の趣味なので専属の料理人を雇ったり、執事をキッチンを任せるようなことはしていない。


 キッチンから漂ってくる香りにつられてふらふらと覗くと、お母様が大量に唐揚げをあげていた。

 とても美味しそうだ。


 「あらリク。いつもより早いわね。新しい講師はどうだったの?」


 「はい、とても美味しそう。じゃなかった、しっかり指導してくれる人だと思いました」


 「もう、わたしと話す時は堅苦しい喋り方はやめてっていつも言ってるのに。お昼食べちゃいましょう? 最近リク頑張ってるからちょっと豪華に唐揚げにしたよ」


 広いテーブルに並べられる唐揚げに思わず手を伸ばしそうになったが踏みとどまる。

 そうだった今日から僕はダイエットをするんだ。


 「あら? 食べないの?」


 「実はその講師に太りすぎだって怒られて痩せないと演技指導を受けさせてもらえないって言われてしまったんです」

 

 「確かにリクはお腹周りと顎の下のお肉すごいものね。そういうことならわたしに任せない。これでも高校時代からダイエットはよくやってたのよ」


 「それは頼もしいです」

 

 「それじゃあこの唐揚げは夜にアキヒトさんに出すとして、リクのお昼はお野菜です!」


 置かれていた唐揚げが消え去ると、いつの間にか目の前には数種の野菜がサラダ風に盛り付けられていた。

 お母様すごい。いつの間にサラダを。


 「ホントはわたしのお昼だったけど、せっかくリクがやる気になってくれたんだものね、この機会にこれまで偏っていた栄養バランスも直したおいた方がいいわ」


 と思ったらお母様のサラダだった。

 確かに僕は甘いお菓子と油の多い高カロリーなものしか食べて来なかったし、間食や夜食も結構なペースでやってきた。

 野菜は美味しくないし食べる意味が分からない。そもそもあれば雑草みたいなものだ。

 道端に生えている草を食べる人なんていないだろう? と考えていたので野菜は出てきても残すか、そもそも選択肢から消して食べないようにしてきた。

 その結果太ったのなら野菜を食べれば痩せるのでは?

 ひとまず目の前に出されたサラダを食べてみることにした。

 

 その翌日にはママが通っているジムのプールで運動も始めた。

 ここは完全会員制なので混むことがない。

 まぁそのぶん同い年の子供はいない。

 成長期に過度な食事制限だけで痩せようとするのは良くないんだとか。

 

 そんな生活を2週間もしていると、400グラムも減った。

 少ないって? いや4歳児の平均が17キロぐらいで僕が26キロほどだから1週間で1キロも2キロ落ちたらそれはなにかの病気だ。

 それに食事は量を減らしたりせず間食と夜食をなくして、野菜を増やしたぐらいで大きく変わってないから落ちるだけで不思議な気分だ。


 お風呂上がり、にドラマを見るのが最近の日課だ。

 役者を志すならドラマぐらい見ておいた方がいいと見始めたが、これが意外と面白くてはまってしまった。

 けして、花京院さんが出ているから見てるとかじゃない。


 「やっぱり花京院さんはすごい。もうこの時間のドラマにでてる」


 ドラマを見始めると、目に付くのが花京院さんの存在だ。

 1話だけのワンシーンゲストとかで、ちょくちょく見かけるぐらいなんだけど、もう1人の卒業生の、のあちゃんより見る機会が多い。


 放送している時間帯によってなんとなくだが、役者の評価が変わってくる。

 深夜はそうでもないけど、朝のドラマはすごいとかそんな感じのざっくりしたものだけど。

 まぁあくまでも目安だし深夜ドラマに出ている役者さんがダメだってことは無いけど、やっぱり22時とかのドラマに出ていると、なんか格が違うような気がする。

 それに花京院さんが出たあとのSNSは天使がまた降臨したとか奇跡の美少女が○○のドラマに出てたとかって画像つきで大変盛り上がって最近はどの局のどのドラマに出ているかを調査する美少女捜索隊なる集団まで出始めた。

 僕は参加してないけど。

 花京院さんの可愛さはもはや一種の才能だと言える。

 演技力も子役の中では高い方だし悔しいけど、どんどん置いて行かれているような気がする。


 僕は早く花京院に追いつくためのレッスンに参加するために、少しでも早く痩せようと、ご飯をサラダのみにしてプールでの運動に加えて、寝る間も惜しんでこっそりパソコンで調べた腹筋運動というかものを毎晩するようにしたのだ。

 とりあえず20回目を目標に。



 そのかいあってか、3ヶ月ほどで20キロまで体重を落とすことが出来たのだ。

 その間に花京院さんはゴールデンタイムのドラマ小学校の熱血新人教員のマナカという清楚なお嬢様小学生の役だった。

 このマナカは友達を作ろうとしないキャラクターでツンとした態度が特徴のキャラ。

 僕のイメージの花京院さんはマナカのような感じてなので、見ていてぴたっとハマっているような気がした。

 キャスティングした人、すごく見る目があると思う。

 そして噂の美少女はSNSでの影響があってかここからさらに人気になった。

 


 今日もプールでひたすら潜水をする。

 最初は歩くというか浮いて足をばたつかせていただけだったけど、もうこのプールとも長い付き合いだ。3ヶ月も通っていれば水に顔をつけるぐらい問題なくできる。

 なのでいつものように、プールの潜って底にタッチしてくる運動を5セットやろうと肺いっぱいに空気を吸い込み潜った。

 ダイエットを始めてからほぼ毎日繰り返してきたことで、準備運動もしっかりやったから、足がつったりすることもなく順調に5回目の終えた。


 それは6回目のタッチを終えた頃に起きた。

 全身から力が抜けていくような感覚がしてプールの底に身体が勝手に沈んで行ったのだ。

 理由は全く分からないが、浮上しようにも手足に力が入らない。

 もしかしてこの前死ぬのかな?

 怖いのに力が入らない。

 抵抗しなきゃいけないのにそんな気力が湧いてこないような倦怠感。

 どこか冷めたような不思議な気分でプールの底に沈んで行くのを黙って待っていた。

 ガバッと口から空気の塊を吐き、僕は溺れるようにして、気絶した。

 正直死んだと思った。

 朝ごはんちゃんと食べておくんだったかな。


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