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オフとは一体?

 ふっと目が覚めると、見慣れない天井が視界に広がっていた。

 あたりを確かめるために、上体を起こして左右に首を振る。

 すぐ横に見慣れたマネージャーの姿を見つけて、ここがサトーさんの家であることを思い出した。


 「さてと、今は何時でしょうかと」


 テーブルに置いておいた自分のスマホを手に取り、電源ボタンを押す。

 するとスマホは画面いっぱいにバッテリーにバツのマークを表示してきた。

 そういえばゲームセンターを出た後、またまた目に付いた焼肉に飛び込んで貪るように食べて、帰りにコンビニによって、シャワーだけ浴びてそのままベッドに潜りこんだんだった。

 世間的に平日だったおかげで人が少なく、騒ぎになるような事がなくて、大満足の1日ではあったが、スマホはずっとサイレントモードで昨日1日充電してなかったのだ。


 「充電しないとね」


 サトーさんを起こさないように床に散乱しているゲームセンターでとった大量のお菓子をながら持ってきたカバンに近寄り、音を立てないように充電器を取り出して近くのコンセントに差し込む。

 充電中を示すランプが灯ったのを確認してからテレビをつける。

 私は充電完了まで一切いじらない主義なので充電が終わるかサトーさんが起きるまでやることがないのだ。

 しかしお疲れのサトーさんを用もないのに起こすのは気が引けるし、テレビドラマの一つでも見て演技に磨きをかけておく方が、時間を有効に使っているような感じかして気分がいい。

 昨日1日ほんとに完全なオフを過ごしたし、今日は明日からお仕事が再開するわけだし準備を完璧にしておきたい。

 サトーさんはきちんと2日休めって言っていたが、2日も休めば絶対体調をおかしくするに決まってる。

 人間慣れないことをする方が変に力が入って疲れるって事がよくあるし、ルーティンは守って生きたい。

 ちなみに私のルーティンは朝ごはんを食べながらその日の仕事の台本を思い出したり、寝る前に翌日の台本を暗唱したりだ。

 思い返していると私、子役やめたら暇すぎて死ぬんじゃないの?

 朝から晩まで演技のことしか考えてないし。


 無理やり思考を止めて、朝ドラの再放送をやっているチャンネル切り替える。

 やっているドラマをまばたきすら忘れて凝視していると、見慣れたセーラー服姿の女性が、画面に映った。


 「ママ出てるじゃん」


 思わず大きな声が出た。

 慌てて、手を口に当ててゆっくりサトーさん (血みどろ動物Tシャツ着用)の方を見ると、寝起き特有のまぶたがほとんど開いていないブサイク顔で、上体を起こして私の方を向こうと首をまわしていた。

 その数秒後バッチリ目が合う。

 寝癖により髪の毛のボリュームが増して、ほとんどまぶたが開いていないブサイクのまま、固まっている姿は妖怪にしか見えない。

 今が10時過ぎて良かったよ。

 日が落ちてから会ってたら間違いなく泣いていた。


 「紗那さん? どうして家にいるんですか」


 寝起きのしわがれた声で不思議そうに寝ぼけたことを呟くと、私が答えるのも待たずに帰りにコンビニで買っておいたミネラルウォーターを一気に飲み干した。


 「ああ、そういえば文乃さんからいただいたんでした」


 「違いますよ、サトーさん。寝ぼけているにしても怖い冗談やめてください」

 

 声が戻ってもまだ寝ぼけているらしく、恐ろしい事を口走るサトーさんに的確なツッコミを入れて少し距離をとる。

 私が言うのも変な話だがママ絶対私を手放したりしないだろう。

 少し前に雑誌のインタビューで、ドラマのタイトルあなたのお宝頂きますにちなんで、あなたのお宝はなんですか? と聞かれて娘って答えるような親バカだもん。

 ちなみにインタビュアーはへーそうなんですねとちょっと引いた返しをしていた。

 

 「いえ、確かに里親の手続きの書類にサインをしたはずなんですが」


 「どんな夢見てるんですか……」


 「夢は叶えるものですから」


 「そんな夢は叶いませんから、しっかり起きて現実に戻ってきてください」


 サトーさんは起きてから覚醒するまでに時間がかかるみたいでそこから5分ほど怖いボケを繰り返していた。


 「おはようございます紗那さん。とりあえず朝ごはんでも食べますか? このスティックスナックなんて美味しいですよ?」


 「………………」


 「そ、それじゃあこのピーチグミは? なんと18袋もありますから食べ放題です!」


 「昨日取りまくったお菓子を消費したいのはわかりますけど、朝ごはん駄菓子はないでしょう」


 昨日、溜まったストレスを発散するために取りまくったお菓子は2人じゃ到底食べきれない量だ。

 サトーさん5万円ほどつぎ込んで、いくつかの筐体、空にして取ってきたお菓子は昨日の服のように部屋の至るところに置かれている。

 クレーンゲームの景品は大きいから部屋に置いて置くと邪魔になる。

 特にこのジャンボ板チョコ6枚は食べきれないしほっとくと溶けるし、邪魔の三拍子揃った景品だ。

 サトーさんの家に冷蔵庫があればこんなことにはならないんだけどね。

 

 私も子供なのでお菓子は好きだけど、あんまり食べると虫歯になるし、毎食お菓子になるのは困る。

 ママが帰ってくるまであと6日ほどある。

 その間ずっとお菓子で済ませるのはまずが消費しないのももったいない。

 サトーさんただでさえ不健康そうなのにお菓子漬け生活なんて始めたら確実に病気になってしまう。

 ん? 子供はお菓子が好き?


 「そうだサトーさん事務所に行きましょうよ」


 「仕事はダメですよ? 今日もオフですから」


 「そうじゃなくて、お菓子を4階の養成所にいる子供に差し入れと称して押し付けて来れば量を減らせますよ」


 「なるほど、確かにそうすれば量を減らせますね。事務所に行くついでにコンビニで朝ごはんにしましょう」


 また買い食いか。

 もしかしてサトーさん料理出来ないのか?

 もしそうなら、ほぼ毎食外食って事になる。

 確実にコンビニのお世話になる回数も増えるぞ。

 そうなれば悪夢再びなんて事になってしまうのでは?


 「そういえば、サトーさんって普段料理とかするんですか?」


 怖いけれど聞いておこう。

 仮に出来ないと答えたとしても、無理やり自炊する方向に持っていけばいいだけだ。

 いくら若くてもコンビニ飯のみを食べ続けていると人間は死ねる。

 それだけは避けなければならない。

 同じ死因は勘弁してほしい。


 「一応、出来ますよ。中学生の頃は料理人になりたくてよく自炊していましたから。社会人になってからは忙しくてあまりやってませんが」


 固唾をのんで回答を待っていると、返ってきた答えはなんとも希望に満ちたものだった。

 これなら簡単だ。

 

 「サトーさんの手料理食べてみたいです」

 

 あまり可愛らしさをひけらかすようなことはあざといとか思われて嫌われる原因になりそうなのでしたくないけど、命に関わる重要な問題だし強引にでもOKをもらうために上目遣いを使う。


 「そうですね。久しぶりに作って見るのも悪くないかもしれません。紗那さんお手伝いしてくれますか?」


 よし勝った。


 「はいっ!」


 やっぱり可愛いは正義かもしれない。



 朝ごはんをコンビニで済ませて、事務所に着くと、大量のお菓子を車から下ろして中に侵入する。

 エレベーターに乗り込み、レッスン場を目指す。

 うちの事務所の子役レッスンは毎日午前中に行われているので、今ちょうどレッスン真っ只中なはずだ。


 エレベーターが上がり始めるとサトーさんが急に、ブツブツとつぶやき始めた。


 「勢いでここまで来ましたけど、レッスン中にお菓子を配るわけにはいかないですし、いつ配るのがいいんでしょうか? 許可とかとってないですし」


 確かにそこを考えていなかった。

 普通知らない人からお菓子をあげると言われれば親御さんが警戒してしまう。

 子供だけに直接配るのはサトーさんのロリコンが目覚めて危険だし、かと言ってレッスン中にアポなし突撃なんてやったら二人とも怒られちゃう。


 「遅れたレッスン生として潜入してその間にサトーさんが講師にお菓子を押し付けて来ればいいのでは?」


 最近はお仕事の都合上ほぼレッスンに参加していないけど、12歳までは一応子役レッスンを受けられる事になっている。

 うちの事務所は5年ほど前から子役育成に力を注いでいるので、そんな感じでざっくりとした感じの暗黙のルールしかないので、潜入するだけなら多分怒られないはずだ。


 「そうですね。お菓子を配りたいですなんて上司にいえば変な顔されますし、紗那さんはまだレッスン生の扱いですから」


 方針が決まったところでチーンとベルの音が鳴ってエレベーターのドアが開いた。

 今から私は遅刻したレッスン生だ。

 いつもの演じる時のおまじないを唱えてサトーさんの後ろをついていく。



 「すみません遅くなりました」


 久しぶりレッスン場を扉を開けて素早く謝罪すると、新人の講師が笑顔で出迎えてくれた。


 「初めて見る子だね。もしかして今日が初めてで緊張しちゃったのかな? 次から遅れないようにね。お母さんも時間は厳守でお願いしますよ」


 椅子に座ったまま私とサトーさんを優しく注意する講師はあの刺身講師より好感がもてた。


 「私が紗那さんのお母さん? そんな若く見えるの? 嬉しいわぁー」


 サトーさんは使い物にならないぐらいホワホワした表情浮かべて異世界にトリップしている。

 仕方なく太ももつねりサトーさんを正気に戻す。


 「サトーさん。私は扉の近くに座って起きますからさっさと目的を果たしてきて下さい」


 「すみません。つい、嬉しくて」


 サトーさんが講師にお菓子を渡すのを見守りながら、1番後ろに座る。


 「ありがとうございます。後でみんなで分けます。……ほんとすみません勘違いで注意なんてしてしまって」


 そんな会話が断片的に耳に届く。

 サトーさんがこちらに戻って来るのを確認して腰をあげようとしたその瞬間講師が先ほど以上に声を張り上げながら拍手を始めた。


 「えー皆さん本日は、なんとこのレッスン場の出身の花園さなが来てくれました」


 はい? サトーさんがマネージャーだって事を伝えたのはなんとなく察しが着くけどなんで私のことまでばらしちゃうの?

 いや、サトーさんが今担当してるの私しかいないから花園さなの担当マネージャーですって名乗るのはわかるけどさ、なぜこの講師はそれを大声

で言いふらすのだろう?

 こいつ絶対歩く拡声器だろ。

 それか自動秘密漏えいマシンだ。

 


 当然そんな風に言えばレッスン場中の子役とその親御さんがこっちを向く。


 「花園さん。ぜひともプロの演技をみんなの手本として見せてもらえませんか?」

 

 講師が手招きしながらそんなことを言い出した。

 ここで断るのは簡単だが、芸能人はイメージが命。

 自分で言うのもなんだけど私は、今絶賛人気の子役だ。

 名前が出てしまった以上ここからの行動は花京院紗那ではなく、子役花園さなのイメージを左右する。

 いくら社畜でもタダ働きなんてごめんだが、仕方ないこれもイメージアップに繋がる仕事だと思ってやるしかないか。

 心の中でため息をつきながら講師に方に歩いていく。

 結局私、仕事してるじゃん。

 

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