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世間の反応

 承諾した瞬間にスタッフさんたちが、どこにそんな力が残ってたのと言いたくなるほどのスピードで撮影の準備終わらせる。

 その間に私は、演技指導を受ける。

 とは言っても子役ですらない推定3歳、 (まだ確認していないので正確には分からない)には難しい演技を要求されることはないだろうと高を括ってOKを出したわけだ。

 やるのは今回1回きりだし、これもいい人生経験だと己に言い聞かせ、できる限り気負わないようにしながら説明に耳を傾ける。

 気負うとろくなことにならないということは前世でとっくに学習済みだ。

 最悪病気をこじらせることになる。


 受けた役を簡単に説明すると不機嫌で無口な女の子役らしい。

 刑事役の人に何を言われても無言を貫き、奥の部屋に逃げるように入って行く、その際に犯人と母親役との繋がりを示す重要な証拠のその地域にある遊園地の微妙デザインのマスコットをポケットから落とす。

 話を聞く限りいないとこの話が成立しないような重要な役だった。

 幸い特にセリフはないし、不機嫌表情さえあれば大丈夫だと監督さん言ってたし多分問題ない。

 こちとら精神年齢28歳でその辺にいるスタッフより歳上じゃ、それぐらい余裕に決まっている。


 言われた通りにリビングにあるソファーに座って、見えないようにポケットにマスコットをしまって、不機嫌そうな表現を作って待機する。

 服も私服のままだが、今回は時間が無いのでそのままの出演。

 問題があればあっちでなんとかするそうだ。

 カチンコが鳴って撮影がスタートする。

 どうやらリハーサルなしのぶっつけ本番らしい。

 まじかよ。いや確かにスケジュール押してる人もいるんだけど私、素人なんですけど?

 先ほどのまでの威勢はすっかり吹き飛び、少し不安になりながらも表情だけは崩さないように心がける。


 「……………………っ」


 刑事役の俳優さんが家に入って来るのを黙ってみる。

 そしてほとんど睨むようにして、母親役と刑事役の会話を見守る。

 しばらくセリフの応酬が続き、母親役が御手洗に行くために、席を離れるシーンに差し掛かる。

 監督の指示通り、微妙なデザインのマスコットをポケットから少しだけはみ出させていつでも落とせるようにし、刑事役のセリフを待つ。

 ゆっくりこっちを向く刑事役。

 顔こそ赤くなっていないものの、心臓は前世含めても、こんなに跳ねないんじゃないかってぐらいにうるさく音を立て、存在感をアピールしてくる。

 耳の横で鳴っているじゃあないかってぐらいに強く響く鼓動に本気で顔をしかめた。

 少しは落ち着いてくれと。


 「お嬢ちゃんさ、この男の人見たことないかな?」


 シナリオ通りに俳優さんが私に犯人の顔写真を見せながら尋ねてくる。

 

 「………………」


 もちろん私も、シナリオ通りに黙って予定通り露骨に目をそらし、奥の部屋へと逃げる。

 慌てた様子でかつ自然に、例の微妙なデザインのマスコットを落とす。

 それを拾った俳優さんの閃いた表情をアップで撮り、すぐにカットがかかる。


 「はい、OK。チェック入りまーす」


 撮れた映像を確認する監督とスタッフの表情が柔らかいものに変わる。

 そこからの撮影はこれまでの遅れを取り戻すような勢いで順調に進んで行き、トラブルなく予定時間ぴったりに終わることができた。


 「よし、いい感じだな。お疲れ様でしたー」



 てな感じでサクッと撮影が終了して、ママもスタッフさんも大満足だった。

 それから多少のトラブルというか面倒なことがあったりしたが、それなりに平和に過ごしていたんだけど……。



 すっかりドラマに出たことすら忘れて、予定通り知識を蓄えるべく本を読み漁りながら数ヶ月が経過していた。


 その日は珍しくママの機嫌がとっても良かったんだ。

 普段はカメラが回らないとあまり笑わないママがニコニコしながらスマホをいじり、数分ほど画面を眺めていたかと思えばまたニコニコとする。

 そんななんだかよく分からないことを繰り返していた。はっきり言って不気味だ。

 流石にちょっと怖くなった私は、お絵かきを中断して、そっとリビングから自分の部屋に戻ろうと立ち上がった。

 ずっと本ばかり読んでいるのは子供らしくないという判断で、お絵かきなんて慣れないことをしたせいでバタフライエフェクト的な何かが起こってしまったのか?


 「紗那ちゃんちょっといい?」


 ママが笑顔になる時はだいたいろくでもないことが起こる。

 これは私の経験則に基づくものだ。

 前回この笑顔で外に連れ出された時には、いかにも金持ちのボンボンの性格の悪そうな男尊女卑の英才教育を施されているであろう下卑た笑みの良く似合う、オークによく似た同い年の少年とお見合い紛いの顔合わせをさせられたし。

 有名企業の会長の息子だとか言ってたし、話してる最中のママは役者の顔で受け答えしてたからきっと乗り気じゃなかっただろうけど、事前に教えといてくれたら当日風邪を引くことだって出来たのにと、恨み言の1つぐらいは出てくる。


 その前は習い事の体験だった。いろいろ体験させられたが、バレエだけは絶対やらんぞ。

 レオタードなんて着て人前で踊るなんて恥ずかしくて死ねるわ。

 あまりワガママを言うほうではないけど、あの時はほぼ全力で駄々をこねた。

 とにかくママの笑顔は怖い。そう思っておいて間違いはない。


 覚悟を決めて、やや頬をひきつらせながら返事をする。

 ずっとニコニコされてても心臓に悪いだけだし。なんだかんだで絶対習い事見学だろうとお食事会だろうと行く羽目になるわけだからさっさと終わらせた方がいい。できる大人は嫌なことから先に片付けるものだ。

 

 「な、なぁーに? ママ」


 お絵かきセットを片付けながらあくまでも軽い会話を装う。

 綺麗な薔薇には棘があるを素で体現するママが、正座して話しかけて来る時はさらに警戒度を上げる必要がある。


 「あのね紗那ちゃん。ちょっと前にママのお仕事手伝ってくれたの覚えてる?」


 「う、うん? 覚えてるよ」


 あれ? 今日はいつもの楽しいところに行きましょう? じゃないのかと戸惑いながら返事をする。

 というかなんで数ヶ月前のドラマの話を今してくるんだ? 普段のママなら家で仕事の話なんて絶対しないのに。

 これはいよいよ怪しくなって来たな。


 「またやってみる気はない?」


 ほらやっぱり。

 なんですかワンシーン映っただけで話題にでもなりましたか?

 まぁ確かに私は美人女優の娘なので、客観的に見て可愛いというか天使……いや、女神にも等しい愛らしさを兼ね備えているけど、それで話題になったとしても、それだけで子役とか女優になれるなんて砂糖より甘い考えだろう。

 そんなの最前線で活躍しているママが分からないはずはないんだけどな。


 「えー、なんで?」


 もしかしたら既にそういう話が来ているのかもしれないな。

 前世の仕事以上にブラックそうだし絶対やらないにしても、理由ぐらいは聞いてあげようと思う。

 怒らせると怖いし。雑にあしらうとしつこく絡んできて面倒臭い。


 「昨日の夜紗那ちゃんがおやすみした後ね、お手伝いしてくれたドラマが放送されたのね」


 今の私は20時には眠ってしまうので、その刑事モノのドラマ見ていなかったけどやっぱり放送日だったのね。


 「うんうん、それで?」


 一応食いついたように続きを促す。

 

 「そしたらなんとインターネット……たくさんの人がね、紗那ちゃん可愛いって言ってくれたのよ。……流石わたくし自慢の娘! 絶対芸能界の天下を取れると確信しているわ」


 完全に親バカをこじらせた様子で正座をしたまま、うっとり妄想の世界に浸り、身体を気持ち悪い感じでくねらせるママに冷ややかな視線を送りつつ、そっとテーブルに置いてあるママのスマホを覗いて見た。

 SNSの検索するところには、ドラマのタイトルが入れられていてそれに関するつぶやきがいくつか表示されている。

 その多くが初めてみる子だけど子役が可愛いとか、天使が現れたというような内容が画像付きで拡散されている。

 中には可愛いと思ったらイイねみたいなものもあって大体が1万ほどイイねがつけられていた。

 いくら女神の如き可愛さを持っているわたしでも流石にこれは引く。

 SNSチョー怖いじゃん。


 「あの? ママ大丈夫?」


 スマホの画面をそっと暗くして、未だ気持ち悪く身体をくねらせてトリップ状態のママの首にチョップをかまして声をかける。

 

 「ふぅー。大丈夫よ。……それでねママみたいにお芝居してみない?」

 

 正気に戻ったママは何事もなかったように話を戻した。

 もちろん答えは決まっている。


 「えー、やだよ」


 「どうして嫌なの?」


 なんだか威圧感を感じるぞ。


 「だって恥ずかしいし、私将来はこうむいんになりたい」


 お芝居なら常にやっていますからね。間に合ってます。

 それに休みなさそうなイメージだしと心の中で付け足す。

 目指せ安定した休日のある生活だ。


 「絶対公務員やめた方がいいわよ。ろくでもない」


 実はママは今のパパ (外資系らしく現在海外にいるらしい) の前に付き合った人が公務員だったらしくて、その人に浮気されて別れたからか、紗那ちゃんは、公務員とだけは結婚させないと変な使命感に燃えている。

 そのためか公務員になりたいという度にすごく反対されるんだよ。普通は応援するところだと思うんだけどな。安心安定の公務員。


 「えー、安定大事だってテレビでゆってたよ?」


 もちろんそんなことをテレビがそんなピンポイントなことを言うわけはないのだが、子供らしい言い訳にテレビでゆってたやってたは万能なのだ。

 見た目は子供の名探偵もよくこれでごまかしてたし。


 「紗那ちゃんは本が好きよね? お芝居すれば何十冊も本を買えるのよ? ね? ママと一緒にお芝居しよ?」


 公務員を目指すためだけではなく、単純に子供向けの小説を読んだことがなかったので、興味があって漁っただけで、別に本が大好きってわけじゃないんだけど。

 というかママよ、威圧しながらの勧誘を子供にするのはどうかと思う。血縁関係がなかったらスキャンダルだな。


 「でもげーのーかいは厳しいってスタッフのおにーさんゆってたよ?」


 あれからもちょくちょく現場見学に行くことがあって、ママがレギュラーとして参加している現場のスタッフさんとは、そこそこ話したりする。

 子供にだからこそ吐ける愚痴があるみたいで、すっかり話し相手になっているのだ。

 そんなスタッフ君25歳痩せ気味がため息混じりによくそう語っていた。

 劇団で役者をやっていたが芽が出なかったのでスタッフに転身した彼の話を聞く限り、売れなかった悲惨さはとんでもないものがある。

 稽古の合間にバイトしてチケット売れなくて、生活が苦しくなって、だんだんバイトの合間に稽古になっていく。


 「大丈夫よ、紗那ちゃんは頭がいいし、いい子だからすぐに人気になれるの。そしたら本以外にも何でも欲しいものが買えるのよ? ほらいつも見ているアニメのユリキュアの変身パジャマとか、キラパラのゲームだって好きなだけよ? 好きなだけ」


 堂々と女児向けアニメを見られる環境になったので思い切って見てみて、思っ切りハマってしまった。

 なので確かにそう言われれば魅力的な話ではある。

 子供向けのグッズは子供のうちしか身につけられないものだってある。パジャマとか。


 「世の中そんなに甘くない言ってテレビの中のママ、言ってたよね?」


 しかし、ママが主演している作品の弁護士の女王が、嘘の証言を強要して有罪を勝ち取ろうとした検事に言い放ったセリフにもあるようにそんな軽く始められるものじゃない。

 

 「世の中なんてお菓子より甘いの。そういうものなの。だからママと一緒に楽しいお芝居しましょ?」


 おいこら、それファンが聞いたら卒倒しちゃうぞ。

 どんな家で育てばこんな風に育つのだろう。

 まだ見ぬおじいちゃん、おばあちゃんに恐怖を感じつつ迫り来るモンスターペアレント (自宅バージョン)から距離をとる。

 家でその単語使う機会があるとは思わなかったよ。

 

 「ママちょっとずつ寄って来ないで怖いから」


 血走った目で、イエスを引き出そうとする姿はもう悪魔にしか見えない。

 どうにかして、なだめようと言葉を探していると、ついに悪魔が本性を現した。


 「ママはまた紗那ちゃんの天使な演技を見たいのよ!! 不機嫌、紗那ちゃんなんてレア中のレア。ぜひとも、もう1度見たい。でも録画じゃあの神々しさが全然足りない。だからお願いママを助けると思って」


 ただの親ばかなのか、ただのやばい人なのか。それとも芸能人はこれぐらいキャラが濃くないと務まらないのかは定かじゃないけど、小学生になるまでだったらやって見てもいいかな?

 というかこれやるって言うまで毎日繰り返されるのも精神衛生上よろしくない。

 それに親孝行は大事なことだし。

 だけど絶対小学生になる前にやめよう。

 大事なことなので2回言いました。


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