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覚醒、怒れる天才子役?

 その日の夜。

 ママがオールアップ、つまりママが出る予定のシーンの撮影がすべて終了したので、それを祝う打ち上げが開催される。

 どうやら1話限りのゲストだったらしい。


 演者ではない私が、参加するのは気が引けたけど、1人で帰るわけにもいかなかったので、そっとママの後ろをついて行く。

 ほとんど知ってる人いないし、背の高いおっさん達というはなんだか怖い。


 今回は軽めの打ち上げということらしくチェーン店を貸切ってスタッフ、演者勢ぞろいで行う。


 お仕事モードのママは、演技派美人女優で通っているので、制作陣に高く評価されているらしい。

 家でのアホっぽい態度を見ていると忘れそうになるけど、一応うちのママは世間的には、トップ女優のカテゴリーに入る。

 ただのちょっと頭のネジが外れた親バカではないらしい。

 娘の私的には心底、意外なのだが、現場でも感じを見ると間違っていないから不思議だ。




 「文乃さんのオールアップを祝して、かんぱーい」


 予約していた居酒屋に到着して、なんとなくで座席を決め、ビールやら料理が行き渡った頃、そんな雑な挨拶共に打ち上げが開会した。


 カンと、ビールジョッキを合わせてから口をつけて、その勢いのままに、割り箸で唐揚げや、フライドポテトをつまむ人や、焼き鳥を頬張る人、ビールをすごい勢いで飲み干して追加を注文する大人達を横目に私もコーラに口をつける。


 そういえば転生してから初の炭酸じゃないか?

 久しぶりに、あのシュワシュワ感を味わえるだけでも参加したかいがあったな。


 口にコーラの甘さと、少しの苦味そして、シュワシュワ感が程よく広がる。そうそうこれこれ。

 打ち上げの高揚した雰囲気もあって、浮かれた気分でコーラをそのまま喉の奥に送り込む。

 

 喉奥で炭酸が弾けて。


 「げほっげほっ、ごほっ」

 

 思っきりむせた。

 なんでだ?


 「ちょっと、紗那ちゃん大丈夫?」


 横に座っていたママが背中をさすりながら心配する。

 どうやら転生先の身体は炭酸に弱い仕様が施されていたらしい。

 美幼女になったのは良かってけど、炭酸飲めないのはちょっとつらいな。

 前世では酒を飲むようになるまで基本コーラで過ごしていた身としては、この事実を受け止めるには、もう少し時間がかかりそうだ。

 時々炭酸飲めない人っているけどまさか自分がそうなるとわな。


 「ありがとう。もう大丈夫だよ」

 

 ほっとくと何時までも背中をさすっていそうだったので、お礼を言ってやめさせる。

 いつもの調子で親バカモードに入られても困るし。


 「まったくもう。コーラなんて普段飲まないものを選ぶから……。いつも通りオレンジジュースにしておきなさい。これは責任を持ってママが飲んでおくからね。ぐふふっ」


 「はぁーい」


 ママに正論を言われるなんて何たる屈辱感。

 まぁ前世含めてもママの方が年上だし、本来はそんなもの感じるはずないんだけどさ。

 どうにも家での行動のせいで私のママに対しての評価が上がらないのだ。

 今だって紗那ちゃんと間接キスとかなんとか言っておかしなテンションになってるし。

 ママの飲み物、烏龍茶だよね? 烏龍茶ハイじゃないよね?

 酔わずにこういう事を平気でやれちゃうあたりが尊敬しきれない大きな要因なんだよな。


 そんなママの見慣れない態度にびっくりした小太りのおじさんが、話題を逸らすようにママに声をかけた。

 若干頬が引き攣っているようなきがするけど気の所為だと信じたい。


 「そういえば文乃さんって娘さんいたんですね。結婚してたのは知ってましたけど」


 「監督に言ってませんでしたっけ?」


 親バカモードを解いたママはお仕事モードになりしれっと何事も無かったように返す。

 すごい早業だ。


 「まぁ、今回で同じ現場になるの3回目ですしね。それにしても可愛らしいですね。将来は女優ですか?」


 「いえ、わたくしは強制するつもりはないですね。この子の人生ですもの好きに生きて欲しいと思っています」


 おいこら、つい数日前に思っきり強制しといて何を言い出すんだ?

 と眉を釣り上げその会話を聞いていると、ぽんとママの手が私の頭に乗る。

 それからママは言葉を続けるために口を開く。


 「だから、今しかできない事をさせておこうと思ってます。きっとやりたい事を見つけた時に役に立つとおもうので」


 その言葉に釣り上げいた眉を下げる。

 確かに過去にやっていた事が全く関係ないの無いところで活きるってことはよくある話だ。

 実際私がブラック企業に務め続けることが出来たのだって、中学でやっていたバドミントン部で鍛えた精神力おかげだ。

 それに負けず嫌いの性格になったのだって高校で始めたバイトのおかげだったりするので、ママが私を無理やり子役にしたのも、人生のどこかで活きるのかもしれない。

 悔しいけどママはこんなんでも、ちゃん考えているんだなぁ。

 なら私はそんなママの期待に負けないように全力で答えるだけだ。


 ひとまず同世代でトップの子役になる。

 そのために、あの講師からオーディション出場OKを引き出すぞ。

 私の中の社畜スイッチ (普通の人でいうやる気スイッチのこと)が押される。


 打ち上げが終わり家に帰って来ると、私はすぐに部屋に置いてある宿題の台本を持って鏡の前に移動する。

 普段は身だしなみチェックと自分が美少女かどうかの確認にしか使わないが、今は違う。

 恥ずかしいけど、鏡の前で表情を意識しながら演技の練習する。

 私はこれまで声と身振りでしか演技をしてこなかった。

 素人的に考えれば声さえ棒でなければ演技した感が出るし、子役程度ならそれでも充分だろうと思っていたところがある。

 だが、一流のママや俳優は違った。

 黙っていても伝わるのが演技なんだと気がついた。

 私は転生してから仕事に対して手を抜くような子供になってしまっていたらしい。

 それじゃ社畜を名乗るのが恥ずかしくて仕方ないよな。

 やるからには命を削るぐらいじゃないと仕事とは呼べない。

 前世浮かべていた邪悪な笑みの花を咲かせると、表情筋をほぐすために、怒った顔を作って見たり笑って見たりとにかく様々な表情を浮かべる。

 まずは軽くウォーミングアップだ。


 そうしながら台本をめくる。

 表情だけ完璧にしても意味がない。セリフに合わせて作り出せて始めて意味が出てくる。


 今回のテーマは、喧嘩だ。

 となる必要な表情は、怒っている表情だ。

 全部の表情を完璧に仕上げるのは難しくとも、一つを完璧にするぐらいは余裕だ。

 まずは腹の立つものを思い浮かべる。


 頭よくわからんダメ出しをしてくれやがる講師を頭に浮かべると、自然にムカムカしてセリフと表情が自然に怒りに変わる。

 自分でも気がつかないうちにストレスが溜まっていたのかもしれない。

 その状態でセリフを言ってみる。

 寝るまでまだまだ時間があるしぎりぎりまで自主練をしておこう。

 さっさとオーディションを受けられるようにしないとサトーさんに迷惑がかかるし、親バカなママが事務所に、圧をかけたりするかもしれない。

 ママは比較的常識は備わっている方だけだど、私が絡むと頭のネジが外れやすいみたいだし、ちょっと心配だ。


 いい感じ集中すると周りの音が聞こえなくなるなんて話をよく聞くが、あれはどうやら本当だったみたいだ。

 今の私は周りの音が気にならないほどに集中出来ている。


 「紗那ちゃーん。そろそろお風呂入らないと明日起きられなくよー。……あら聞こえてないのかしら? もしかして寝ちゃった? 仕方ない子ね起こしてお風呂に入れて上げないと、天使に汚れが染み付いたら大変!!」


 さて、次のセリフは少女B (今回の私の配役)が少女Aへのセリフに対して不満を容赦なくぶつける。


 「はぁー? そういうところがうざいってのがわからないの? だから嫌われるのよ」


 ガチャっと扉が開く音がしたきがするけど気にしない。

 その程度を気にしていては演技の申し子のあちゃんには追いつけない。


 「え? ママ、紗那ちゃんに嫌われてるの?」


 ママ? 練習してるの聞かれた? うわっなんか恥ずかしくなってきた。


 「へ? なんでママ私の部屋に入って来てるの?」


 恥ずかしくさをごまかすために、ママにそう尋ねる。

 

 「ごめんなさい。ママうざかったよね。親バカだったよね。生きてる価値ないよね」

 

 どういうわけかママは限界まで血を抜かれたように青白く、干からびた感じになっていた。


 「ママどうしちゃったの?」


 「だって紗那ちゃん今、うざいって、それになんで部屋に入って来てるの? って」


 思い出したからか、さらに衰弱した感じになりながら説明をするママ。

 

 うざい? あぁなんだそんなことか。


 「演技の練習だけど? ほら台本」


 「本当ね。すごく真に迫ったような演技だったからてっきり、紗那ちゃんがママに隠している本音を部屋でぶちまけているのかと思ったわよ。えぇもうちょっと遅かったらママお風呂場から天国に旅立つところだった」


 よぼよぼした手で台本を受け取り目を通すと、いつものママに戻った。

 復活はやっ。

 というか娘にうざいって言われただけでへこみすぎでしょ。

 もしわたしが反抗期になったらママ命がいくつあっても足りないきがする。


 「私がママを嫌いになるなんてあるわけないよ」


 なんだかんだで子供思いだし、性格はともかく女優としては一流で尊敬出来る。

 ただし家での親バカモードかすべてを台無しにしているが。


 「そこはママ大好きって言ってくれた方が嬉しいかなー。最近ママ好きって言われてないし」


 あとすぐにとんでもない発言をしてくるし。


 「そういうところは嫌い」


 「ガーン」


 「そんなことより用があったから部屋に入って来たんじゃないの?」


 落ち込む演技を無視して、本題について尋ねる。

 ママには基本、用がないと部屋に入って来たりする事がないので、今日も多分何か用があるのだろう。


 「そうだったわ。お風呂よお風呂」


 今日はなんだかいつもより丁寧に身体を洗われたきがする。


 そして翌日。

 練習通り演技しようと思ったら、またまた講師が視界に入る位置でする事になり、全力で演技をしたら、講師やのあちゃんを含めて、その場にいた全員が本気で怖がってしまった。


 のあちゃんはすごく怯えた様子で、紗那ちゃんから紗那様に呼び方を変えられしまったし、講師は合格でいいから殺気を抑えてくれと言われたし。なぜだか、翌日から姿が見えなくなった。

 オークはなんだかキラキラした目でこっちを見てきて、とっても気持ち悪いから睨んで退散させた。

 そして一番厄介だったのはサトーさんで、合格した翌日には20件近くもオーディションを持ってきた。

 流石に身が持ちません。

 

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