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ハロウィン、中身のないカボチャ、そしてカレー。




 君って中身がないよねーー



 そういわれたのは、いつのことだったか。

 ハロウィンの喧噪にごったがえす街の中、買い出しをしつつふと思い出す。


 講義のない日、朝十時すぎにのそのそと起き出して、洗濯をしてベランダに干してちょっと寒いけどいい天気だな、と思う。

 その後少し多めに着込んで、今日の夜の買い出しにきた午後一時。


 今も雲一つない快晴で、でもその空の色はわずかに冬の色を思わせる。


 十月三十一日。今年もあと二ヶ月あまり。

 世間的に大きなイベントと言えばあとはクリスマスと大晦日ぐらいのもの。とはいえ、毎年のこの時期になるとまるで年末に向けて世界が加速しているように感じる。新年に乗り遅れないように、と。


 適当にスナック菓子と飲み物をかごに詰め、買い物を終える。


 家路へと着く中、多くの学生とすれ違う。数人の高校生がお揃いのカチューシャをつけ歩いている。そのワンポイントが今日がハロウィンであることを如実に告げていた。帰り道、八百屋のかぼちゃと目があう。ハロウィン宣伝用の、くりぬかれた大きなかぼちゃ。その隣に、くり抜かれていない、中くらいのかぼちゃ。確かな考えがあったわけではない。でも、俺はそのかぼちゃを買って、アパートに戻ってきた。


 ドアノブに手をかけ回したとき、ふと思い出す。



 君って中身がないよねーー



 ああ、そうだ、あれは確か、高二の冬の頃の事だーー




 買い物を片づけ、スマホで検索。

 かぼちゃ、くり抜き方。


 上から三つぐらいのページを流し見て、早速作業に取りかかった。


 部屋の中に、刃物とカボチャの音だけが響く。単純作業に集中していると、普段より思考が鮮明になる、気がする。


 この一年で、俺が慣れたこと。

 一人暮らし。自炊。レポートの書き方。笑顔の使い方。エトセトラ、エトセトラ。


 ただ、心の底から笑うのは、少し下手に鳴ったかもしれない。



 くりぬき終わったかぼっちゃが、不格好に笑いながら俺を見つめていた。



 夜七時、タイヘイとタツキ、それと乙葉ちゃんがやってきた。タイヘイとタツキはサークルの同期、乙葉ちゃんは後輩。


 挨拶もそこそこに、それぞれが持ち寄ったつまみやら菓子やらと飲み物で、なんちゃってハロウィンパーティを始めた。

 別にハロウィンらしいことをするわけでもないし、俺たちは何かとよく集まって飯を食べ飲んでもいたので、別に何か特別というわけでもなかった。


 いつものごとく、タイヘイとタツキが騒ぎ、二人が寝てしまう。いつもの風景。


 乙葉ちゃんはトイレに行って、俺はスナック菓子の袋を集め片づけの下準備をしていた。

「わっ、これ先輩が作ったんですか?」

トイレに立った乙葉ちゃんが、台所の方で言う。

「うまくできてるじゃないですか」

 その視線の先には、八百屋で買って、俺がくり抜いたかぼちゃがあった。

「そう、中身がないかぼちゃ」

「何です、さっきの話ですか?」と乙葉ちゃんは俺を見る。


 そう、さっき、まだ起きていた酔っ払ったタイヘイとタツキがその話をしていたのだ。タイヘイとは高校も同じで、その事を知っていた。


 君って中身がないよね事件。事件ってほどのものじゃないけれど。



「中身なんて誰にもわかんないですよ」と彼女は言った。

「わからない?」

「そうです。ハロウィンのかぼちゃなんて、わかりやすい方です。外も中も、似た色でしょう? 私たちが普段、よく食べてるかぼちゃ。そう、皮が緑色のやつです。あれは緑で、中は橙。りんごは赤と白。黄緑で白なんてのもあります。外と中身は違うもの、往々にしてそういうものです」


「じゃあ、中身がないっていうのは?」

「中身がない?」


 うーん、と彼女はこめかみに手をあて考え込む。

「タマネギ、ですかね」


「あとピーマンもだな」と、起き出したタイヘイが会話に入ってきた。

「……お腹空いてきたわね」と同じく起き出したタツキが言う。

「あんだけ食ったのに?」

 ……とはいえ、俺も腹が空いてきた。本当に、俺には中身がないのかもしれない。

「……カレーでも作るか」


 そういって、俺たちは買い出しに行く。うわっ、寒っと玄関でタイヘイが呟く。



 今はひとまず、中身のことはおいておく。


 二時間後には、カレーで満ちているだろう。きっと。






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