Turn05 ジゼル/11
【はい?】
カノエの唐突な言葉に、アトマが変な声で聞き返す。
「ロックオンを外して、ジルヴァラの照準を真上に、早く」
通信音声をオフにしながらカノエは、アトマに言った。
「武装解除しなセラエノッ!」
ジゼルの注意は完全にアストライアの方に向いている。今しかない。
「んふふ……お断りします」
「なん――」
骨格艦の攻撃は骨格挙動を持って行われる。
事前にストラリアクターにセッティングされている挙動以外は基本的に行えない。
ストラコアは骨格挙動の微調整や状況や状態の補正は行うが、それはあくまで決まった挙動に対する制御。
それらをいちいち手動制御していては、戦闘速度に対応できないし、十分な膂力も得られないからだ。
その為、ジゼルの“ヘイトレッド”を用いた“掴み技”は、相手の骨格挙動を封じる意味では、実に効果的な戦術だった。
振り解こうとすれば“ヘイトレッド”で抑え込まれ、“自機を掴む腕を斬る”という骨格挙動は、前もってジゼルの能力と行動を予測できない限り、それに対応した挙動がセッティングされていることは少ない。
そして密着した拘束状態で通常の斬撃を放っても、剣速が足らず、密着した外装甲板に重力刃を抑え込まれてしまう。
重力刃がエーテルシュラウドによって超構造体化した物質を破断するには、骨格挙動による斬撃の速度と膂力が必要だった。
しかし今回はジゼルが甘かった。セラエノに気を取られ、カノエに状況に対応するだけの時間を与えてしまったのだ。
そして、カノエは剣を振るう先を天に向けた。
鍛錬鋼刃を、自立稼動する外装甲板の防御に阻まれて刃を振れない正面ではなく、天に向かって振るった。
二隻の骨格艦の隙間を、重力刃の蒼い刃光が滑り、頭部艦橋を掴んでいたシュタルメラーラの左手首を斬り飛ばす。
「こいつッ!」
「ロックオン、シュタルメラーラ、赤眼のジゼルッ!」
【あいよぅ】
カノエが短く息を吐くと、それに応じるように、天を仰ぎ見ていたジルヴァラの頭部艦橋がシュタルメラーラを眼前に据えた。
斬り上げた鍛錬鋼刃を巻き取るように右旋回。
一回転したジルヴァラの左脇から、再び蒼い重力刃が光線を曳いて閃き、一刀両断の最大斬撃が放たれた。
「調子に乗るなッ!」
シュタルメラーラは辛うじて、艦上曲刀で防御。蒼い紫電が弾け散る。
「惜しいッ!」
ギリギリと音を立て、互いの重力刃が火花を散らす。
「小賢しいッ!」
業を力で薙ぎ倒すシュタルメラーラの斬撃。
片手で振るう艦上曲刀の一撃が、鍛錬鋼刃ごとジルヴァラを弾き飛ばし、再び二隻は距離を開けた。