Turn05 ジゼル/10
急場に駆けつけたアストライアだが、その左腕はシュタルメラーラに斬られたまま。
それは相手が居らず後ろに控えているだけだったクロムナインに、軽はずみな行動を取らせるに十分な要素だった。
「しめた。外縁天体で船長に斬られた腕が直ってねえ。俺が行きやス」
チャンスとばかりに、クロムナインがアストライアへ跳躍突撃。
「ばかやろう! 迂闊に突っ込むなッ!」
ジゼルが慌てて制止するがもう遅い。
クロムナインの跳躍突撃を、アストライアは真正面から受け止めた。
衝撃波が地を走り、硬質にして重い音が響き渡る。
次の瞬間、クロムナインの両腕がゴトリ、と落ちた。
エーテルシュラウドの超構造体化効果を失った腕は落下の衝撃であちこちが砕け、アームの折れた外装甲板が弾け飛ぶ。
「腕がッ!?」
「最後に対戦した時のアレか……ほんとズルいよなぁ、それ」
「んっふっふ。でしょう。ヘヴンズハースの骨格艦は、固有発現能力のプロパティが無かったから、あの対戦はほとんどズルだったんだよね」
「いやそれって、ほとんどっていうか完全にズルでしょ……」
アストライアの腰のあたりに移動させた可動式格納庫からは、二対の小さな腕部フレームが生えていた。その尖端には、最小の剣戟兵装である暗鬼短刃。
人体を模して稼働する骨格艦には通常、持たせたとしても、重力刃が超構造体を破断する膂力が稼げないが、それを可能にするのがアストライアの固有発現能力だ。
「あの時もそいつで狙っていたな」
ジゼルが言い示すのは、フィラディルフィア艦上戦の時の話だ。
「アストライアの固有発現能力“サイドアームズ”……さすがに、あんたは引っかかってくれなかったけどね」
右腕に半刃半柄鉈槍。可動式格納庫から生えたアームに暗鬼短刃を二本構え、アストライアは歩を進めようと踏み出した。
「動くなセラエノ。コイツの頭を潰すぞ」
シュタルメラーラはいまだ、ジルヴァラの首を掴み、艦上曲刀を頭部艦橋に向けたままであった。
このまま一突きすれば、カノエの命は無い。
「潰せるかな? 彼、結構しぶといよ?」
セラ――セラエノと呼ばれた耳の長い少女は、ニヤリと笑ってジゼルに答えた。
「一人斬ったぐらいで、ビビってるような奴に何ができる」
「言われてるよ、カノエ君。その程度で終わる君じゃないよね? 腑抜けてるなら、ぶっ飛ばすよ?」
遠野ミストの頃と比べて、少し雰囲気が大人びたセラが、あの時と同じ含み笑いでカノエを流し見る。
「わかってるよ、セラ――アトマ、空を斬れ」
カノエは、それに応じるように自然と笑みを浮かべた。