Turn05 ジゼル/9
「衛星ファーンの極点座標にフィラディルフィア艦影ッ!」
ラーンの管制室に入ったユードラの脇で、レーダー観測官が叫んだ。
光学観測探信儀には、アストライアを機材砲で撃ち出した外宇宙船の姿が映っていた。
ツァーリ恒星系第六惑星ロウスで観測された光は、潜伏するフィラディルフィアの信号だったのだ。
衛星ファーンの極点座標に表れた、外宇宙船フィラディルフィアは、ラーンへ流星突撃を慣行する骨格艦クロムナインの姿を補足。状況を理解したセラエノは、アストライアを機材砲で射出。超音速の砲弾となって駆け付けたのだった。
「機材砲で骨格艦撃ち出すとか。確かにそりゃ速いけど……ユーリも苦労してるわね」
ユードラは近くの机に寄りかかり、溜めた息を深く吐いた。
元々、戦闘には疎い学者肌である。緊張しっぱなしの状況だったが、セラエノが現れたことで、集中の糸がぷっつり切れてしまった。
「しかし、依然、骨格艦の数では負けています。それにセラエノ様のアストライアは左腕のフレームが……」
映像に映るアストライアの左腕は、肘から先がN字関節ごと斬りおとされている。シュタルメラーラ戦の損傷がそのままの状態だ。
「コンテナ艦を喪失しているから、おそらく補修資材が不足していたのでしょう」
コンテナ艦を消失し、随分と身軽な姿になっている外宇宙船フィラディルフィアの光学映像から、ユードラはそう推測した。
しかし、それでもエルアドレではなく、自身がアストライアで駆け付けたのだ。
「セラエノなら片腕でも関係ないわ。確か、アストライアの固有発現能力は……」
「勝てますかね……?」
実は二隻目のエルハサルが中破した時点で、ラーンの管制室はお通夜状態であった。
頼みの綱のレイオンは海岸側に引き付けられ、カノエも残ったラグナも防戦一方だったからだ。
二隻目のエルハサルが中破させられた時には、降伏申し入れの為の交渉団の編成を始めていたほどである。
「数の不利はセラエノがどうにかしてくれると思いますが、あとはカノエ様のジルヴァラが……」
そのジルヴァラは、頸椎フレームをホールドされた絶望的な状況。しかしユードラはカノエに、レイオンやセラエノと同じ可能性を観ていた。
「興味を惹かれたのは、研究対象としてだけじゃないですよ……カノエ様」