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Turn04 ユードラ/20

「そういう……いや、助かりますけど」


 非常に重要な話である気はするので、確かに読み返し(バックログ)機能は大事だが、荘厳な雰囲気は台無しである。

 しかし、そんなことは気にした風もなく、サンバルシオンの交信体クーリエは言葉を続けた。


【そして六千年の時を経て、自我発現個体ヒューレイは現れた。それはブラフマンにとって最初の、意志ある行動の成果。その帰還を助けるために交信体クーリエは存在する。アトマよ。オリオンアームへ渡る大転移航路図グランドチャートを受け取り、そして、ブラフマンの元へと還るのだ】


 ひと際明るい蒼い輝きが走り、電撃のようにアトマを撃つ。


【あたしが“帰らないと”ってずっと思っていたのは、あたしの意志じゃなく……そのプログラムのせいなの?】


 両手を見て、複雑な顔をして、不安そうにアトマは呟いた。


【帰還本能はブラフマンが唯一、自我発現個体ヒューレイにも干渉するように定めた使命。ブラフマンはその自我発現個体ヒューレイと直接出会わなければ、自ら生み出した自我を観測することが叶わない】


「アトマは、ブラフマンが“自我”を理解する為のパーツだとでも言うのか?」


 自分が何者であるのか。意志の根源と行方。定まらない自分の存在に対する漠然とした不安。以前の生活ならば、取り留めのない不安に過ぎないと、看過していただろう。


 だが今は違う。


 この広い宇宙に投げ出され、右も左も分からず、襲われ、助けられ、流されるままにここまで来て、カノエは自己の意味を強く求めるようになった。

 だからこそアトマの不安が、カノエにはハッキリと感じ取れた。


【ブラフマンの真意は、交信体クーリエである私には推し量れない。だが、ブラフマンは自我発現個体ヒューレイが自らの元に帰ることを望んでいる。自我を芽生えさせるために生み出し、遠い宇宙へ飛ばした種子に、唯一刻んだ使命が――ヘヴンズハースへの帰還】


「ヘヴンズハース……アトマ紀行ってのはそういうことか……」


 聞きなれた名前が出てきたが、それはある意味、カノエにとっては予想通りだった。

 むしろここまでこの世界と似ているヘヴンズハースが無関係だったなら、そちらの方こそ驚くところだ。


【アトマよ。いまだ眠る数多の自我発現個体ヒューレイ達の分まで、後を頼む】


 そう交信体クーリエは括った。最後の言葉は、サンバルシオンに生まれつつある意志の輝きだったのかもしれない。


「まってくれサンバルシオン。それじゃあ、僕は……僕は一体何のために?」


【古の太陽系人類ソラスよ、貴方はとうの昔に、ヒトとしての寿命を終えていたはずであった存在……本来であればジルヴァラのヘルムヘッダーは、何代も経て、精神経路マインドパスのサンプルとなるはずであった。だが、貴方の骨格艦フラガラッハジルヴァラに、アトマという個体は発現した。よって、その影響はまったくの未知数だ】


「つまり、よくわからんって事か……」


 カノエは苦虫を噛み潰したような顔になった。異世界を旅するSFやファンタジーなどであれば、そこへ呼び出された理由も大抵あるものなのだ。

 だが、カノエの場合は単に六千年寝ていただけに過ぎず、しかもそれは“たまたまそうなっただけ”と言うのだから、やり切れない。


【因果に寄らぬ邂逅を、ヒトは運命と言う。私は自我発現個体ヒューレイの帰還を導く為に生まれた存在。もし、この出会いが運命であるならば、貴方にアトマの船頭を頼みたいと思う】


 サンバルシオンの言葉通りであれば、それはストラコアが演算によって弾き出した“アトマの帰還の為の提案”と言ったところだろう。

 しかしカノエにはそれが、サンバルシオンの“願い”のようにも聞こえたのだった。


「サンバルシオン……僕は……」


 カノエが答えに困っていると、蒼いサンバルシオンの映像が揺れて、少し微笑んだように見えた。


【……ここまでのようです。交信体クーリエは仮初の存在。いつか私が自我発現個体ヒューレイを授かる日に、再びお会いしましょう】


 ゆっくりと、サンバルシオンの交信体クーリエは形を失いつつあった。


「え、ちょ、まって、私、後三千年も生きられないってば。ちょっと、もっと調べさせて!」


 だがユードラのそんな願いも空しく、蒼い交信体クーリエはあっけなく霧散する。

 後にはただ、ラーンの都市機能を今も支え続ける超級ストラリアクターがそこに在った。


「運命……か」


【あたしと君が運命の赤い糸で結ばれていたとは】


 この妖精は、自身の生い立ちに衝撃を受けていたと思ったら、真顔でそんなことを言う。


「まったく嬉しくないけどな」


 アトマを見ながら、カノエはガックリと項垂れた。なんともいえない疲労感が襲ってくるのは、彼女の性格のせいだろうか。


「オリオンアームへの大転移航路図グランドチャートは手に入ったのですか?」


【うん。あたしの精神経路マインドパスが、サンバルシオンの大転移航路図グランドチャートに接触した時に、交信体クーリエが発現するようになってた見たい】


「後はとっとと、ここから離れないとな。ジルヴァラが離れれば、それでラーンは安全になる」


 カノエが大転移航路図の取得を急いだ理由はソレだった。

 ジゼルの狙いが骨格艦フラガラッハジルヴァラなら、カノエ達が逃げてしまえば、惑星レンドラは安全なはずだ。


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