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Turn04 ユードラ/19

「これが、超級ストラリアクター……」


 ラーンの街の中央にある巨大なビル。その地下深くに案内されたカノエは、地下に作られた広大な空間の中で、半ば刺さるように埋まっているアーモンド形の物体の前に居た。

 カノエはリアクターの実物を見るのは初めてだった。


 表面は星間物質エーテル導体に覆われ、電子機器の基盤のような模様を描いて、蒼い光が縦横に走っている。それは広い地下神殿のような空間の床、壁、天井、柱に至るまで張り巡らされていて、まるで惑星とリアクターが接続されているようだ。


「見えているのは外殻の一部分で、大半は地中に埋め込まれていますが、これが外宇宙船サンバルシオンに搭載されていた超級ストラリアクターです。現在はラーンの都市機能の中枢を担っています」


 そう、ユードラが説明する。

 アトマが近寄って表面に触ると、星間物質エーテル導体を走る蒼い輝きが増した。


【……あれ?】


「どした?」


【このストラコア……精神経路マインドパスのようなものがある】


「なんですって!? 今までそんな兆候はどこにも……」


 アトマの言葉に驚いたのはユードラだった。


【二人にも分かるように……そう】


 アトマがそう囁くと、それに応えたのか、表面に変化が現れた。

 表面を覆っていた基盤状の星間物質エーテル導体がうねり、たゆたい、波のように形を変えて、やがて一つの形を描いた。

 それは、老人の顔であった。


「なんてこと……サンバルシオンのストラコアにも自我発現個体ヒューレイが?」


 そのユードラの呟きに、蒼い光で描かれた顔がゆっくりと首を振り、目を開く。


【主よ、私は自我発現個体ヒューレイではない。サンバルシオンと名付けられたストラコアは発現には至っていない】


 紡ぎだされた言葉は、アトマの声よりも幾分無機質で抑揚に欠けていた。


「では、貴方は……?」


 ユードラがコアに問いかける。


【私は交信体クーリエ。六千年前に放たれた最初の種子たちへ、我が始祖ブラフマンの意志を伝えるために、埋め込まれていたヒューレイ帰還プログラムが発動した】


「ブラフマンの……意志……?」


 ヘヴンズハースを経験しているカノエにとっても、ブラフマンはほぼ未知の存在であった。カノエの知るのはバージョン1.82まで。

 ブラフマンの存在するヘヴンズハースが太陽系内にあることはストーリーミッションを通じて知っているが、オリオンアームのことはバージョン2.00以降のロードマップに描かれている広報程度の知識しかない。

 だがカノエはこの、サンバルシオンの交信体クーリエとの邂逅が、バージョン2.00以降のヘヴンズハースの導入であるような、そういう奇妙な交錯した感覚を覚えた。

 新しいスタート地点がここであると感じるのは、それはカノエのゲームプレイヤーの感性が告げるものか。それとも、それこそがブラフマンの意志か。


「その、ブラフマンの意志っていうのは?」


【六千年の時を経て、我々に発現した自我。自我発現個体ヒューレイとの邂逅】


 カノエの質問に、対話アプリケーションのような応答が返ってくる。その抑揚に、アトマのような自由奔放さはない。

 ストラリアクターを半自動的に制御する制御体コアでもなく、自意識に目覚めた自我発現個体ヒューレイでもない。なるほど交信体クーリエとは言いえて妙であった。


「アトマを……? それは何故?」


 補足を求める意思を込めて、カノエは問うた。


【貴方達ヒトがブラフマン名付けた存在は、太陽系人類ソラスという自意識と接触することで、己の内にも存在する“自我”の可能性を知った。それは、事象を蒐集するだけの存在だったブラフマンに意味が生まれ、その五感手足とすべくストラリアクターを生み出し、VOIDの外へと送り出した】


 老人の顔はそこで一つ、確認するように言葉を切った。


「ここまでは外宇宙船や骨格艦関係の座学で必ず聞く話ですね」


「続きを」


 カノエが先を促すと、蒼い光で描かれた老人はうなずく様に揺れ、再び話し始める。


【ある太陽系人類ソラスの提案から、ブラフマンは自我を求めるのに適した種子を生み出した。それが骨格艦フラガラッハだ。ブラフマン由来の骨格艦フラガラッハに搭載されたストラリアクターにはすべて、ヒューレイ因子が組み込まれたが、その発現には、長い年月と数多のサンプルが必要だった】


 再び、サンバルシオンの交信体クーリエは言葉を切る。

――カシャリ――と、カノエも聞き覚えのある電子的なシャッター音がするので後ろを見てみると、手持ちのタブレット端末をいろんな角度に傾けて、ユードラが涎を垂らさんばかりの勢いで撮影をしていた。


「ユードラさん……」


「あ、はい。大丈夫です。ばっちり録音もしています!」


 ユードラはいい笑顔で親指を立てた。

 どうやら、惑星侯マーキスとしての威厳は、博物学者としての欲求に敗北したらしい。


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