Turn01 カノエ/8
「七番と八番空いてるから、乗っちゃって」
ミストランド遠野店の中央、クラウンシェル筐体は、柵で囲われた吹き抜けスペースに置かれていた。
クラウンと呼ばれる円柱型の三六〇度ディスプレイが十六基、二メートルほどの高さに円環状に並んでいる。
その内、七番と八番、十五番と十六番の座席が下に下りて待機状態。そこに、世良が七番、庚が八番へ座り、プレイヤーのIDプレートをスロットに差し込む。
そのまま待っていると、朱音がハーネスを締めにやってきた。
「頑張ってね、庚君。期待してるよ」
安全バーを下ろしてロックしながら、朱音はそう言って意味ありげに目配せする。
クラウンシェル筐体は、ゲームの自機である骨格艦の挙動による振動をかなり激しく再現するうえに、筐体が二メートルの高さにある為、プレイヤーはアーム型の安全バーと、クロスハーネスで、ガッチリと体を固定される設計。
元々は専用のヘルメットを装着する案もあったそうだが、ジェットコースターのように、安全バーと座席のクッションで頭部を囲い保持することで手間を廃していた。
「セッティングタイムは何分にする?」
朱音が、今度は世良の側へ来て、安全バーで体を固定しながら言った。
「あ、トレードしたいから、五分フルで」
世良は掌を開いて、五を示す。セッティングタイムはプレイ前の準備時間。
時間の掛かる外装甲板や剣戟兵装の装備変更、セットする骨格挙動の調整などは、通常、外部端末にIDプレートを差し込んで行うが、ステージ構成や対戦内容に併せてゲーム内でも簡単なセッティング変更を行えるよう、セッティングタイムが区切られている。
「オッケー、それじゃ上げるよ」
インストラクター用のコンソールの前に移動した朱音が、マイクを使って声を掛けた。
声は筐体のスピーカーから流れて来る。
ほどなく、鈍い音と共に、座席がせり上がり始めた。
上る玉座と降り来る王冠。クラウンシェルの名の由来だ。
固定装置のロックとサスから油圧の音が鳴ると、王冠に飲まれた玉座は闇に包まれた。
密閉型筐体特有の科学薬品とオイル、それと電子部品。それらが混ざり合った臭い。すぐに換気が利いて不快感はない。
闇の中で座席のランプが一つ、二つと点灯していく。
――ヴン――とディスプレイに通電した音が走ると、黒い壁面に映像が浮かぶ。
【オペレーティングシステム・ヘヴンズハース起動】と言うシステム音声と共に、ヘヴンズハースのタイトルがディスプレイに描かれた。
オープニング演出や題字をゲーム内の世界観に同化させて没入感を高める演出だが、庚はこの演出が好きだった。