Turn04 ユードラ/16
「……はい?」
思わず状況を忘れた声が出た。今の声を反抗と取られて、撃たれていても文句は言えない気がする。
「なんだ、察しの悪い奴だな。ウチに来ないか、と誘っているんだ。もちろん、ジルヴァラのヘルムヘッダーとして、だがな」
「えっと……僕も……? ジルヴァラだけじゃなくて?」
カノエは状況から、ジゼルが狙っているのは、ジルヴァラとアトマだと思っていた。アーチボルトがほぼ問答の余地なく斬りかかってきたので、当然と言えば当然だが。
「うちが欲しいのはジルヴァラとヒューレイだ。なら、ヘルムヘッダーの君を引き込むのが一番手っ取り早いだろう? 太陽系人類と言うのも希少で価値存在らしい。それにアーチボルトを退けたという腕も、私は買っているんだけどね?」
そんなジゼルの言葉に、カノエはセラと似たものを感じていた。
力技も搦め手も有効だと思えば、こだわりも躊躇いもなく何でも仕掛けてくる。そんなセラとジゼルはよく似ていた。
そんなことを考えながら答えに詰まっていると、ジゼルはさらに態度を変化させる。
「――だが断るというなら、ナインハーケンズは惑星レンドラを襲撃する。うちの戦力ならこの程度の辺境、惑星戦で制圧するのも容易だ。ここを戦場に変えたくはないだろう?」
今度は有無を言わせぬ迫力。
ジゼルの意外にも品のある唇が、まるでカノエを喰らおうとしている肉食獣のそれに見えた。紅の瞳がカノエの心を鷲掴む。
「う、あ……」
理不尽と懐柔と脅迫で、カノエの思考が止まりかける。
セラに叩き込まれた規範が、辛うじて首を縦に振るのを堪えていた。
ここで屈してしまったら“負け癖”がついてしまう。恐らくは一生、ジゼルに逆らえなくなる。諦めの悪い性根が、辛うじてそれを踏みとどまらせた。
「へえ。私の竜眼を直視して、無視できるとまではいかないも、屈しもしないか……確かに面白いな」
ガチガチと奥歯を鳴らしながらも紅の瞳を睨み返してくるカノエに、ジゼルは驚いたように笑った。
「そりゃ、どうも……」
アーチボルトともレイオンの時とも違う、別種の恐怖に抗いながら、辛うじて返事を絞り出す。
「さて。だが、あまり時間もない。そろそろ色よい返事をもら――」
ジゼルが再び獣の相で睨んで銃を握りなおした時、別の獣の咆哮が轟いた。