Turn04 ユードラ/15
「誰……」
そう言いかけたカノエの口が半開きで止まる。
声を掛けた赤毛の女性の手には、拳銃のようなものが握られ、カノエの腹に押し当てられたからだ。
「この少年が? 若いな」
【ジゼル! ……助けを呼んでくる】
アトマはそう言って、すぐに店内へ飛んだ。さすがは戦闘艦の制御システムだけのことはある。こういうところは察しがいい。
問題はユードラを呼んできたところで、事態が好転しそうにはないことだ。
「今のがジルヴァラの自我発現個体か」
銃をうまく周囲から見えないように、カノエに覆いかぶさるようにしてジゼルと呼ばれた女を言った。
騒ぎにはなっていない。
周囲の人からは「たまたま街で知人に出会った二人」程度に見えているだろう。先ほどの親子も、ジゼルを一瞥した程度で興味を失っている。
「なんの、用ですか?」
意を決し、やや言葉に詰まりながらカノエは尋ねた。
「私のことは知っているな?」
ニヤリと笑みを浮かべる。
「クヴァル十天船団の第九位、外宇宙船ナインハーケンズ船長、赤眼のジゼル……」
ジゼルの名で、カノエが知る人物は他に居ない。
「で、君の名は?」
――グリッ――と、感触がよく分かるように、腹にあたる銃口が押し込められた。
「ミクモ=カノエ……」
「太陽系人類だな?」
「そう、らしいです……」
「さっきの小さいのはジルヴァラのストラコアか?」
「はい……」
自由を奪われる感覚。意思を蹂躙される屈辱を、カノエこの時は初めて知った。
普段の生活でも幸いと、一方的で屈辱的な暴力にさらされた経験はない。
ゲームでは理不尽にもよく遭遇するが、それはお互いに戦うルールの上にたってのことだ。それは、いつだって抗う手段が残されていた。
だが、今は違う。
彼女が気まぐれででも引き金を引けば、腸をぶちまけて死ぬだろう。大人しく答える他なかった。
痛みを想像し、それに恐怖して動けない自分に対して苛立ちが募る。
セラは情けないカノエを笑うだろうか?
だが、次にジゼルから飛び出た言葉は予想外のものだった。
「お前、ナインハーケンズに入るつもりはないか?」