Turn04 ユードラ/12
「先ほどはお恥ずかしいところをお見せしました」
三人――あるいは二人と一体は応接室を出て、首都ラーンの市街を歩いていた。
とにかく、ユードラにはカノエを解剖したりだとか、アトマを標本にしたりとか、そういう願望は、一応は、ないらしい。
「いやまあ、もう慣れたというかなんというか……警護とかは付けなくて大丈夫なんですか? お姫様なんじゃ……」
「お姫様はやめてください、そう呼ぶのはレイオンだけです。レイオンは元々、父のアルハドラ=ハインリヒに仕えていたヘルムヘッダーなのです。惑星侯とは言っても、星団公である父はともかく、学者のついでに代官をやっているだけの私に、それほど政治的価値はありません」
「ところで、この服の趣味はユードラさんの?」
「ええ、外出着は大体こんな感じですよ?」
カノエはジルヴァラの戦闘宇宙服から、ユードラの用意させたレンドラ製の衣類に着替えている。
デザインや縫製はカノエから見て普通の、フードの付いた黒い薄手のジャケットにパンツ。ハンチング帽に赤い伊達眼鏡、ついでに髑髏意匠の銀製イヤーカフまで付けられた。
全体的に黒だとか赤だとか銀だとかで締められた雰囲気は、ゴスかパンクといった風情である。
ユードラも同様にパンキッシュなスタイルで、お姫様という単語をその衣装で全力否定していた。
ついでに学者要素も全否定している感はあるけども。
ともあれ、こうしていればラーンの一般人に見えるはず。
外見はともかく、ユードラはこの星の領主なのだから、警護が居ないのは疑問であったが、さすがに政治の突っ込んだ話までは分からない。
ユードラの父、アルハドラ=ハインリヒの名が、ストーリーの登場人物として、どこと無く聞き覚えがある程度だ。
「それはいいにしても……コレが、目立ちすぎのような」
【コレ言うな】
カノエが半目で振り返った先には、ミニチュア用のホットパンツにシャツ、ハンチング帽を被ってサングラスまで掛けたアトマが、ふらふらと飛んでいる。
先ほどからパンキッシュな赤黒よりも目立つこの銀紫の妖精が、往来の視線を集めまくっていた。
【しかし、いい街だねぇ。リューベックの祖先から伝わる伝統の街並み】
アトマは目立つのも構わずに、あっちへ飛び、こっちへ飛び、ラーン旧市街の散策を楽しんでいる。
この星の惑星侯ユードラに、ジルヴァラの自我発現個体アトマ。そして、どうやら現在非常に希少らしい太陽系人類カノエ。
奇妙な取り合わせは、どうしても人の目を引いていた。
主にアトマが原因だが。
三人はひとまず、テラスのある喫茶店に腰を落ち着けた。