Turn04 ユードラ/11
またさっきと同じように、タブレットのシャッター音だけが流れる時間が訪れた。その姿は撮られるカノエ側からは異様であったが、敵意や害意のようなものは感じない。
邪魔をするのも悪い――というよりも怖いので、カノエはそのまま絵のモデルになったつもりで待った。
程なくして、満足したのかユードラが顔を上げた。
「ふう……あッ、私ったらまた」
視線に気づいたのか、タブレットをかざして赤くなった顔を隠す。
「す、すいません。あまりに希少だったもので思わず……」
【これで君も、彼女の研究素材の仲間入りよ】
「あ、アトマ。お前ワザとか!」
どうやらモルモットの道連れにするために、カノエが太陽系人類の生き残りであることをバラしたようだ。
【ふっふっふ、希少具合で言ったら、太陽系人類もドッコイだからね】
「裏切者め」
【なんとでも言いたまえよ。わはは】
などとアトマとじゃれていると、ユードラが身を乗り出してきて、カノエの手をしっかとつかむ。
「カノエ様ッ!」
「は、はい、なんでしょう」
「カノエ様を私にください」
頬を上気させて、吐息も荒い。目の潤み具合は完全にアレな感じである。
が、どこかのゲームで見たような唐突な告白に対し、カノエは至って冷静に、
「あー……解剖とか薬物云々は断固お断りします」
と、ゲーマーの経験を生かした冷徹な回答を選択したのだった。
どう考えても、YESと答えたら即ゲームオーバーになりそうな選択肢である。
*
「第六惑星ロウス表面から、光?」
ユードラとカノエの会談を管制室からチェックしつつ待機していたレイオンは、レーダー分析官からそのような報告を受けた。
「カノエ様を追っているクヴァルの母艦か?」
「いえ、どうでしょう? 意図的な発光現象に思えます。光ったのは数度。すぐに収まりましたし、シンザで使っている光通信や暗号なども該当しませんでしたが……」
「となると別の線……ミクモ殿のジルヴァラを艦載していた外宇宙船か……ふむ」
レイオンは、カノエとの雑談を思い出しつつ思案した。他星系から来たのであれば、外宇宙船に載って渡ってきたと考えるのが自然だ。
「どう致しましょう?」
「この件は、ユードラ様の耳には入れておいてくれ。ラーンの光学観測探信儀は引き続き、クヴァルを優先で走査。微細な兆候も見逃さないように頼む」
「了解いたしました」
「しかし、先遣部隊がファーン軌道上での剣戟戦を行っている事を考えると、既にレンドラの影に潜り込まれてる可能性もありますね」
レイオンの副官、ラグナがそう進言する。
「そうさな……とは言え、既にエルハサルを一隻、連絡艇としてリューベック星系へ飛ばしているから、これ以上は下手に骨格艦をラーンから動かすわけにもいかん」
「リューベック星系からの増援が間に合うと良いのですが……」
ファーン軌道上にジルヴァラが現れてから、ラーン軍港の職員は、近年類を見ないほど緊張しっぱなしである。
「難しいところだな……まあ、戦闘の心配はヘルムヘッダーに任せて、貴官は職務を全うしてくれたまえ。わはは」
不安そうに言うレーダー分析官の肩を、バシバシと叩いて気合を入れつつ、レイオンは豪快に笑うのだった。